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「驚いたね。まさかあんな事情があったなんて。咲生もびっくりしたでしょ?」
影宮家からの帰り道、咲生と美路は帰る方面が一緒なので、二人で駅に向かっていた。
「それにしてもツクヨミには目を奪われたな。夢中になる女の子の気持ちはわかる。姿だけでなくあれほどの力を持っていたとは。恥ずかしいけれどかつてのわたし、カザミとは大違い。」
影宮家を出てからほぼ一人で話している美路は咲生の本心を見透かしたように話し続ける。
「現人神の中で最初に立ち、一番強力と言われ、あんな綺麗な女の子と恋をして。おまけに転生してもそばにはかわいい子がいて。咲生、もしかして嫉妬してる?」
「は?なに言ってんだよ、あり得ないし。」
美路の自分勝手な想像の話に咲生がとうとう口を開いた。
「ミコトちゃん、かわいいよね。小柄で瞳がリスみたいで。なんとなく黄花に雰囲気が似ているし。光夜もツクヨミと被るんだよね。あの二人は固いからあきらめた方がいいよ?」
「勝手に話膨らませんなっ。ツクヨミが優等生だったことはとっくに知ってる。ずっと聞かされてきたからな。お前もだろ?」
「うん。わたしたちの約数十年前に現人神になったと。しかも一族で候補は彼一人だけ。誰も死ななかった。」
二人は目線を落として話し続けた。
「ツクヨミが現人神になった時はえらい騒ぎだったらしいぜ。なんせ最下位の部族から一人目の現人神が誕生したんだからな。しかも死人なしだ。最高位の部族、翔愛のとこは焦ったんだろうな。ツクヨミがたった時点であそこは片手ぐらいは候補者の死人が出ていたはずだ。」
「そうだった。だから生まれたばかりの子を社で育てたんじゃなかった?それが見事にトリゴエになった。」
「俺の兄貴はトリゴエと同じように社に閉じ込められていた。いつも我慢ばかりして幼いながらにもかわいそうだと思っていた。でも結局兄は秘室からは出てこなかった。社の前に植えられた椿は花を咲かせることはなく、兄が秘室に入って一年で枯れた。」
「それはつらいね。」
「兄の次はまた次の子と続いて、母親は気がふれる寸前だった。父は母を責め立てるし、いよいよ次は俺の番かと思ったら、違う所の子供を候補にたてようという話になって。」
「どうなったの?」」
「他でも駄目だった。椿はあっという間に枯れた。俺は自分から望んで秘室に入った。俺は四年秘室にいた。」
「お母さん、喜んでいたんじゃない?」
「俺が出たときには心労が祟って死んでたよ。現人神になって自分の中に微かな変化は感じたけど、なんのために現人神になったのかわからなくなった。」
「そっか。わたしも似たようなものかな。兄弟みんな秘室に入ってしまって。みんな死んでしまった。わたしは十三番目の末っ子で。親は自分のところから現人神を出したい一心で子供を作り続けた。でもわたしも咲生と一緒で、現人神となって出てきたときには自分の親類は誰もいなかった。わたしは五年かかったからな。」
二人はしばらく無言で歩き続けた。
「みんなそれぞれに背景があるんだね。ツクヨミにもあるんだよ。たまたま黄花と出会ってしまっただけで。それをわたしたちは責めることはできない。」
「お前、まだ力あるんじゃね?妙に説得力あるわ。お前の声のせいかな?」
「ふふふ。褒めてもなにもでないよ。わたしもツクヨミのファンだから。」
「女は面食いばっかりかよ。」
そう笑った咲生の顔はなにか吹っ切れたような表情だった。二人はそのまま他愛のない話を続けながら駅への道を歩いていった。
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