隠事2
わたしはショックだった。最近また黄花が綺麗になったと思っていたらあんな話を聞かされるなんて。思わず泣いてしまった。お気に入りの手ぬぐいを忘れてきたことに気付き急いで桃花の家に引き返した。すると桃花と黄花の話が聞こえてきた。
明日、黄花が男に会いに行く。わたしは秘密にしている黄花の男に興味が涌いた。あんなに隠すなんてかなりの訳ありに違いない。明日こっそりあの子のあとをつけよう。黄花の男がたいしたことのない男だったらわたしの気持ちもいくらか落ち着くはずだから。
次の日、黄花が昨日話していた通りにわたしの手ぬぐいを持って来た。
「これ、昨日忘れていたから。」
「わざわざありがとう。これからどこかに出かけるの?」
「うん、ちょっと。母さんに用事頼まれていて。」
「そっか。」
わたしは黄花が後ろを振り返りながら移動するあとを細心の注意を払ってついて行った。それにしてもすごい警戒の仕方だ。いったい相手はどんなやつなのか?気付くと社に向かう道で、もう少し行くとわたしがあの男に出会った場所だ。黄花はその場を気にすることなく通り過ぎていった。わたしは昨日のことのように覚えているできごとがあったその場所を名残り惜しく通りすぎた。
いったいどこまで行くつもり?まさかあのいわくつきの社じゃないでしょうね。少し不気味さを感じながら黄花の後をついていく。
黄花が社の前で立ち止まった。なにか様子を伺っているのかしばらく動かない。そして立ち上がったと思ったら、社の前をさっと通り過ぎ、裏の大木の方へと行ってしまった。
「どういう場所で会ってんのよっ。」わたしは勝手に付いてきながら心の中で黄花に文句を言った。そして黄花を見失わないように彼女に続き大木のもとへ急いだ。木陰に隠れながら目だけでそっと黄花を探す。いた、!黄花。男も一緒だ。
嘘...。黄花と話している男は以前わたしを介抱してくれたあの男だった。髪型、服装は違ったけど何度も記憶の中で蘇らせたから間違えるはずがなかった。黄花と接している男はとても幸せそうで、わたしが会ったあの時とは雰囲気が少し違う。優しく黄花の髪に手をかけ...。二人は唇を重ねた。この場所からでも二人の愛の吐息が聞こる長い口づけのあと、二人はひそひそ話をし、男と黄花は社の中へ消えていった。しばらくそこにいたが黄花が出てくる気配はない。今あの二人がなにをしているのか誰でもわかることだ。
くやしさ、妬ましさ、みじめさと様々な感情が混ざり合ってわたしの目から勝手に涙が出てきた。あの男に会って初めて年下の男もいいかもと思った。ああいう男なら自分のことも優しく受け止めてくれる。やっと幸せをつかみかけたのによりによって黄花の男だったなんて。わたしと違い、黄花は美人であと二、三年もすれば大勢の男たちから言い寄られるだろう。そんな黄花がわたしが目を付けた男となんてありえない。彼のような男はわたしみたいにかわいそうな女のために存在するんだ。
かなり長い間その場にいたけど、やはり黄花は出てこなかった。一人元来た道を歩き始めると、わたしが男に出会った場所に一人の老人が腰かけていた。関わっても面倒なので、無視を決め込み足早にその場を通りすぎようとしたら、老人から声をかけられた。
「お嬢さん、困っているようだね。」
「別に。」
答える気などなかったのにと後悔した。
「良ければ話を聞かせてくれないかい。旅の途中で寂しくてね。お礼になにか役にたてるかもしれない。」
外見は薄汚れた衣でみすぼらしいが、老人の口調は知的で瞳には不思議と人を惹きつける力があった。わたしは老人の前に腰を下ろし、最近自分に起きたできごとを話し始めた。
「なるほど。お前さんはあの社にいる男に惚れたわけか。その男が何者か知っているのかい?」
「あそこはいわくつきの社でしょ。あんな所を会う場所に指定するなんてとは思うけど。」
「月の神を知らないのかい?」
「月の神?みんなが噂している?いるはずがないわ。」
「ほう、神の存在を信じないのかい。男は社にいる。あの社には月の神がいると言われている。お前の友人が秘密にしていることとつながらないかい?」
「うそ!じゃぁ彼が月の神なの?」
「そうだ。普段は夜以外は滅多に社からは出ない。神は人嫌いが多いのさ。」
「でも。」
「そうだ。お前さんは日中に月の神に会った。これは運命じゃないか。」
「黄花だって。」
「その美しい娘は月の神がいなくても心配はいらないだろう。お前さんのような者にこそ月の神からの慈悲が必要だ。月の神ならきっとお前さんを愛してくれる。」
「あの人が、わたしを?」
あんな男に愛されたらどんな気分だろう。周りのみんなも羨ましがるはずだ。美しいだけでなく神なのだから。考えれば考えるほど、月の神に合うのは自分だと思えてくる。
「とても興味深い話を聞かせてくれたから、お前さんにいいものをあげよう。これだ。」
老人はそう言って衣の中から小さく折りたたまれた薬包を差し出した。
「近いうちにあの娘が月の神になにか手料理を差し入れるだろう。好きな男には自分の手料理を食べてほしいと思うはずだからね。その時にこっそりとこの粉を料理に混ぜるんだ。それを食した月の神は心代わりをし、お前さんを愛するようになる。」
「ほんとに?」
「本当だ。ただし、その時が来るまでこの包みは肌身離さずに持ち歩き、月の神のことを思い続けるんだ。思いが成就するように。」
わたしは老人の話を丸々信じてはいなかったけど、もし本当にそうなったらと思うと試さずにはいられなかった。
「わかった。」
老人から薬包を受け取った。
「毎夜月が出ている間、月の神はあの大木の上で祈りの舞を舞う。愛しい男の顔を見ながらお前さんも願をかけてごらん。夢が現実に変わるから。」
「そうね。」
さっと立ち上がり、あの老人が少なくとも嘘は言っていないか、今夜ここに来て本当に月の神が、あの男が祈りの舞を舞うか見てみようと思った。数歩歩き振り返ると、そこに老人の姿はもうなかった。
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