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花鳥風月の神様  作者: るち
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隠事1

隠事かくれごと) :人に悟られないように、ひそかに行う事柄。秘密にしている事柄。




 桃花は大して美人じゃないのに昔から男受けは良かった。わたしは器量がいまいちなのは自覚しているから頑張って明るくしてきたのに。年が近い者はほとんどが嫁いでしまった。このままじゃ黄花にまで先に嫁がれてしまいそうだ。まじない花が白だったから頑張ったのに。結局あの男は自分に振り向かずに別の女と結婚してしまった。「もうこの辺りの男とは無理なのかもしれない。どうしよう。」ずっと独り身で気難しくみじめに長生きをし、一人寂しく死んだ老婆の話を思い出した。「あんな風にはなりたくない。」


 怖いけど、月の神様にお願いしてみようか。本当にいるのかもわからないものにすがるしかないなんて。自分を哀れに思いながら憂那は月の社までの慣れない道を歩き始めた。普段歩く道とは違い、道がとても悪い。古びた草履のせいか足にはできた豆がつぶれ血がでてきた。


「いったぁい。」


 足の痛みがもう限界で近くの岩に腰を掛けた。「なに?誰かに見られている?」視線を感じる方にふと顔を向けると一人の男が立っていた。この辺りの者ではない。村の者と同じ服装、髪型をしているが、とても整った顔立ちをし、普通とは違う空気を身にまとっている。憂那は金縛りにあったように動けなかった。何故だか鼓動が早くなる。男が足音一つ立てずに近づいてくる。


「ケガをしたのか?」


「え、うん。」


 近くで見るとよりいっそう男の持つ神々しさに惹きつけられた。男というよりはまだ少年に見える。成長の途中段階だが、憂那の目には彼はもう二、三年もすればいい男になると確信できた。男は上衣の裾を破りしゃがみ込み、憂那の出血している足にそっとそれを巻き付けた。目を閉じ聞こえないような小さな声でなにか唱えている。男がふと顔を上げると一瞬彼の瞳の色が空色に見えた。男の持つ美しさに憂那の心はときめいた。つい見とれてしまい男から目がはなせない。


「どうだ、歩けるか?」


落ち着いた男の声にはっとし確認する。


「ちょっと待って。よいしょっと。」


 ふらつきながら立ち上がると、男が憂那の手を取ってくれた。「力強い手。男に手を握られるなんて久しぶり。しかもこんないい男。」憂那は改めて男に顔を向けた。


「平気か?」


男は憂那を気遣い声をかけてくれた。彼はおそらく年はわたしよりは下だ。でもこの落ち着き。背はわたしより高いし、これからもっと伸びるはず。憂那は早くもこの男のことを値踏みしていた。


「ありがとう。でもやっぱりちょっと痛いわ。」


憂那は甘えた声でそう言い女の武器を使うことにした。


「あの、とても申し訳ないんだけど、わたしの家まで送ってもらえない?お礼はちゃんとするわ。」


「ここからあまり遠くまでは行けない。そばまでなら。」


「ありがとう。十分よ。」


憂那は手をのばし男におぶるように促した。男はなんの躊躇(ためら)いもなく憂那の前に背中を向けてしゃがみこんだ。


「ありがとう。」


憂那はもう一度男に礼を言い、彼の背中に自分の体を預けた。体に自信があった憂那は胸が男の背中に強くあたるよう意識した。男はすっとたちあがり、歩き出した。まるで彼女の重みなど感じさせないように。男の固い体に憂那の体は疼いた。この時には憂那はこの男にすっかり心を奪れており、次に会う機会をどう作ろうかと思案していた。






「あれっ?わたしいつの間に?」


 憂那は気付くと家が目と鼻の先の木陰で横になっていた。いつ眠りに落ちてしまったのか全く覚えておらず、彼女をここまで運んだ男の姿は消えていた。彼に手当てをしてもらった足はもう痛くはなく傷も癒えていた。

読んでくださりありがとうございます。

続きが気になる、面白かったなど思われましたら、是非是非☆評価、応援よろしくお願いいたします。

楽しんで読んでいただけるようがんばります。

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