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「かつて現人神であったとはいえ、今ではわたしたちは普通の人です。わたしは多少人より知恵がはたらき、鳥たちの気持ちが分かる程度です。咲生くんはどうですか?」
「かつて現人神であった時は暗示の力を宿していた。花の香で人の不安を取り除くんだ。今じゃ自己暗示程度の力だ。お前と違って虫たちの声も聞こえなくなった。」
現人神にはそれぞれ特有に力があったの?知らなかった。ツクヨミはなんだったんだろう?
「美路ちゃんはどうですか?」
「わたしはもともとそんなに神様っぽくなかったから。人の心を癒すことぐらい。でもあの当時もみんな怖がってわたしに会いには来てくれなかったから力が役に立っていたかは定かではないけれど。だから今も特にわからないな。」
美路の声は人を不思議と落ち着かせる。のほほんとした彼女の言葉には力があるような気がしたのはこのためかと納得した。
「光夜くんは浄化の力ですね。濁龍を一人で鎮めたのですから。濁龍がツクヨミの地に現れたのは不幸中の幸いでした。他の地に現れていたらもっと被害が大きくなっていたでしょう。」
ツクヨミは浄化...。わたしはツクヨミが夜、あの剣を使って祈りの舞を舞っていたのを思い出した。光の粒が散らばって空気が澄んでいく様子を。
「不幸中の幸いってツクヨミが招いた結果だろ。」
「咲生くん、それは言わない約束ですよ。とにかく我々四人が狙われていたのです。」
「え?」
含みのある翔愛の言い方に咲生だけでなくみんなが疑問を感じた。しかし翔愛はこれ以上は説明する気はないようで綺麗な桐の箱を持ちだした。
「みなさんにこれを渡しておきましょう。」
翔愛は箱の中からお守りのようなものを取り出し、それをみんなに配り始めた。
「これはあの桃の木片で作った卯槌です。桃の木にはカナウ様の力が宿っています。わたしたちの助けになるはずです。」
配られた卯槌は上にカラフルな色の絹の紐で結われた飾りがあり、その何本もの紐の先に木片がついていた。
「ここにいるのはあの時代、濁龍が誕生したときにいた者たち、その縁のある者たちです。ツクヨミの剣は当時見たものを記憶しています。この剣で命を絶った者の記憶もです。今からわたしたちはその記憶に触れます。」
「それはっ、それはっ、翔愛はもう見たの?」
美路がいきなり息せき切ったように尋ねた。とても興奮しているみたいだ。
「はい、確認のため影宮さんと先に見ました。」
「なにか気を付けておくことってある?」
ソウが確認する。
「いえ、特には。ただこの剣からわかったのは、ごく一部の記憶です。謎を解くにはかなり大きな収穫ですが。そして濁龍が誕生したのは、本当に不幸なことが重なった結果だったということです。」
「不幸なことが重なった...。」
美路が卯槌を握りしめながらつぶやいた。
「では、準備に取り掛かりましょう。みなさん、卯槌を身に着けてくださいね。少なからず現人神であった四人の力が引き出され、記憶に触れることができるはずです。いいですか?目を閉じて集中してください。無心になるように。」
わたし達は隣に座るもの同士で手を繋ぎ目を閉じた。しばらくするとある一人の女の記憶が脳内に直接見えてきた。「あれは...。」わたしは知っている。まさか!
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