黄花11
この辺りは気候にも恵まれているのに最近雨が多い。「いったいどうしたんだろう。」大きな川が近くにあるから、みんなあの川が氾濫しないか心配している。ツクヨミがいるからなにも心配はいらないはず。でも中には住み慣れたこの場所を離れる準備をし始めている人達もいる。なんだか人の気持ちを憂鬱にさせる雨だ。
そんな雨ががしばらく続いたある日、桃花が重い体をせっせと動かし荷造りをしていた。
「黄花、あんたも早く荷物の用意をしておきなさい。」
「え、どうして?」
「ここもどうなるかわからないでしょ。今までこんなに雨が続いたことがある?大川がかなり水の量が増えているって。動けるうちに動かないと。」
「それは...。」
「わたし、こんな不安定なところでお産は無理だから、用意ができ次第親戚のところに行くから。」
「うん。」
みんな長く続く雨のせいで気持ちが苛立っている。雨が続けば生活に関わってくる。そういえば最近また憂那の姿を見ない。男と駆け落ちしたのではと噂されているけど大丈夫だろうか。
気候がおかしくなってから、ツクヨミはわたしに触れなくなった。みんなが困っているから神としてなにかしなければと思っているのかもしれないとわたしはこの件には触れずにいる。落ち着いたらツクヨミとはまた元のように戻れると思っていた。桃花との話の後すぐにわたしは月の社に向かった。社にむかう最中、雨足が強くなる。
「ツクヨミ!」
空を眺めながらツクヨミは社の正面に立っていた。彼の傍には神使たちがいる。わたしの姿を見ても彼らはなんの反応も示さなかった。
「黄花、まだ逃げていなかったのか?」
「一緒にいるって約束したでしょ。」
「黄花、誓ったろ。もう離れないと。」
「離れない。わたしが絶対に一人にしない。」
「そうだ。これを。」
ツクヨミがいつも付けている耳飾りの片方をわたしに手渡す。「こんなのいや。最後のお別れみたいで。」逃げるのならツクヨミと一緒に逃げたい。でも彼は決してそんなことはしない。なぜならこの地は彼が守らなければいけないから。ここに残って一緒にいたいけれど、そんなことをすればツクヨミを困らせてしまう。少しでも今の彼から負担を取り除いてあげたかった。
「黄花、俺もお前を探すから。黄花も...。」
「絶対に見つける。それでこの耳飾りをツクヨミに返すから。」
神様お願い、この人を守って。わたしの元に返してください。追い打ちをかけるようにだんだんと雨風が激しさを増してきた。ごうごうとまるで怒り狂う龍の咆哮が轟いているようだ。
「さぁ、行って。」
ツクヨミ。必ず無事な姿を見せて。あなたがいないとわたしは生きていけない。わたしは神に縋りつく思いで泣きながらその場を去った。
「ミコト、大丈夫?ミコト。」
遠くに聞こえる声でわたしは目を覚ます。ここはいったいどこなのか?
「雨は止んだの?あの人は...?」
「雨?降ってないわよ。お母さん先生呼んでくるから。」
目の前には白い天井。ここはどこ?わたしは...。窓が見える。外の景色を見て思い出す。自分が誰であるかを。そしてあの人はもうどこにもいない。
「ツクヨミ...。」
声にだすと悲しみと虚しさがこみ上げる。
「ミコト、どうしたの?なにが悲しいの?」
病室に戻った母が心配して顔を覗き込む。涙が止まらない。わたしは過去、黄花だった。今初めて光夜の気持ちがわかった。わたしは彼にひどい態度を取ってしまった。彼に、彼に会いたい。
「ミコト、なにがあったか覚えてる?あなた、社の大木の下で倒れていたのよ。」
「え。」
母の言葉に月乃神社に行ったことを思いだす。
「だれがわたしを?」
「光夜くんって子よ。なかなか素敵な子じゃない。ミコトが倒れているのを発見してくれて。学校に連絡してくれたみたい。それでお母さんに連絡が届いて。」
光夜はたしかランと撮影中だったはず。彼のことを思うと胸が締め付けられる。
「光夜は?今どこにいるの?」
「ミコトは丸一日眠っていたのよ。帰ってもらったわ。もう心配させないでちょうだい。」
「お母さん、わたしの携帯かして。」
「はいはい。メールでいいの?番号聞いておいたけど?」
「え?!」
「助けてもらったわけだしね。いい子そうだから。あなたたち、そういう仲なの?」
「それは。」
「別にいいけど、節度を保ってね。はい、これ。」
母はそう言ってわたしに紙切れを手渡した。そこには光夜の電話番号が書かれていた。
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