黄花9
隣でわたしを見つめる優しい瞳。それにすごく綺麗な長い髪。ツクヨミが髪を全て下ろしている姿を初めて見た。雰囲気がガラッと変わってとても色っぽい。わたしが何気なく彼の髪に手櫛を通していると手首を掴まれた。
「なにをしている?」
「綺麗な髪だと思って。」
「黄花、美しいのはお前だ。」
ツクヨミがわたしの首元に顔を埋めた。
「あっ、これ、つけたでしょ?」
わたしはツクヨミにつけられたキスマークを彼に問いただした。
「気付いたのか。」
この言い方、確信犯だ。
「わざとつけたの?」
「一応お守りだ。以前よりお前から男の匂いがしたから念のためにな。男除けみたいなものだと思えばいい。」
男の匂いって、大葉とのことがあったからだろうか?
「こんな目立つところは困るんだけど。」
「では今日からは目につかない所に付ける。」
こんな感じでわたしの体にはツクヨミ曰く男除けの印がつけられた。そのせいかそれ以降は大葉との一件のようなことは起きなかった。
ある日、桃花がもうすぐ出産するからとまたうちに帰ってきた。
「黄花、あんたまた綺麗になったんじゃない?神様には愛されているようね。」
「うん、まぁ...。桃花はもうすぐお母さんだね。」
桃花は少し照れたような顔をしたが、すぐにその表情が曇った。
「さっき憂那のところにちょっと顔をだしてきたの。」
「そう、元気そうだった?」
最近わたしも彼女に会っていなかった。
「また好きな男ができたらしいわよ。」
「よかったじゃない。」
「でも、どこのだれかわからないんだって。それでふさぎこんでるみたい。かなり惚れているね、あれは。出会っのはもうずいぶん前みたいだけど。」
「え、そうなの?」
「あとでまたこっちに来るから。話、聞いてあげよ。」
桃花は体がかなり重いらしく、すぐにわたしとツクヨミのことは聞いてはこなかった。しばらく横になって移動の疲れをとっていたら、憂那がやってきた。
「桃花、お腹、大きくなったね。」
「すごく蹴ってこの子元気だわ。」
「元気がなによりよ。きっと男の子ね。」
「で?愛しの君はどんな人?」
「多分年下だと思うんだけど。優しくていい男だった。落ち着いていたし。」
憂那はうっとりとした表情で語っている。桃花の言ったようにかなり惚れているみたいだ。
「あんた、ほんとに面食いね。」
「あれを見たら誰だっていいと思うはずよ。」
「ふぅん。」
「で、どこで会ったの?」
「実はそれが..。社に向かう道で。だからもしかしたら違う場所から来た人かも。」
「どんな格好していたの?」
「村の人たちと同じ格好よ。旅の人だったのかな。だったらもうお先真っ暗。」
「またいい出会いがあるわよ。」
「できたらあの人がいいの。こんなわたしでも受け入れてくれそうな雰囲気だった。年下なんて今まで眼中になかったのに。名前だけでも聞いておけばよかった。ところで黄花、あんたの男はどうなの?」
「それは...。」
急に話を振られて困ってしまう。ツクヨミのことはまだ言えない。桃花には話してしまったけれど、みんなに話すのはツクヨミと相談してからでないと。
「訳ありなのよ。」
「桃花は知っているの?」
「よく知らない。見たこともないし。でも、この子はもう経験済だからっ。」
桃花がそう言ってわたしの胸を揉みだした。
「ちょっとっ、やめてよっ。」
「なによ、そんなこと、もうされまくっているでしょ。」
「そんな乱暴なことしないもん。」
「そうかそうか、お優しい人だもんね。」
二人で和やかに笑っていると憂那が急に泣き出した。
「ちょっと、どうしたの?」
驚いた桃花が憂奈を気にかけ彼女の肩にそっと手を置いた。
「わたしはまだそんな経験もない。一生ないかもしれない。」
「そんなこと心配しないで。大丈夫。あんたのこと思ってくれる人が必ずいるから。」
桃花は泣きじゃくる憂那を優しく慰め続けた。
憂那との久々の再会だったが彼女が急に泣き出してしまったので、その慰め役に徹した桃花は疲れてしまったようだ。また横になりふぅとため息をついた。
「桃花、大丈夫?それにしても憂那、心配だね。」
「ありがとう。大丈夫よ。憂那のことは心配することない。まだ若いんだから。かわいいところもあるし年下にだって絶対に大丈夫よ。」
「あれ?これ、憂那のじゃない?忘れてる。」
それは憂那が気入りいつも持ち歩いている綺麗な色に染まった手ぬぐいだった。
「涙ふいた時に忘れたんだわ。明日出かける前に憂那に届けてあげたら?明日も彼に会いに行くんでしょ?」
「うん、まぁ。」
「じゃ、その前にでも、ね?」
「うん。」
出会いは大切だ。わたしだってツクヨミと会っていなかったら今頃どうなっていたか。憂那が一目惚れをした彼とまた再会できたらいいのにとわたしは思っていた。
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