黄花8
次の日。ツクヨミに会いに行く前に身支度を整えるため、水面にうつる自分の姿を確認する。昨日桃花に言われたキスマーク、確かにそれはわたしの首元にしっかりと赤い跡が残っていた。首元を詰め、立ち上がり急いで社まで向かう。
大木に着くと、木の前にある大きな岩の上にツクヨミが胡坐をかき目を閉じていた。とても綺麗。「あの人がわたしの夫。わたしだけの人。ツクヨミ...。」わたしの心の声が聞こえたのかツクヨミがゆっくりと目を開いた。
「黄花。」
「おはよう、ツクヨミ。」
わたしは少し恥じらいながらツクヨミの元に行った。
「今日は早いな。」
「うん。今日は桃花の見送りの後は自由だったから。」
「眠れたか?」
「うん、ぐっすり。」
「無理をさせてしまったのではと心配した。」
ツクヨミは岩から降り、そう言いながらわたしの頬に触れる。わたしは目を閉じその手に自分の手を重ねた。
「黄花。」
目を開けると同時にツクヨミの唇が触れた。昨日の今日だけど全然足りない。最初は穏やかだったものが激しくなり、ついには二人とも我慢できなくなってしまった。
「ねぇ、またあの部屋に行きたい。」
「わかった。ただし今日は社の中に神使たちがいる。あいつらに見つかるとやっかいだ。俺が今から黄花に術をかけるから、黄花は決して言葉を発しないように。術が解けてしまうから。」
「わかった。」
ツクヨミはわたしの額に指を二本あて瞼を閉じなにか呟いた。瞼を開いた瞬間彼の瞳が一瞬美しい空色に変わった。
[術がかかった。いまから言葉は禁止だ。]
ツクヨミの声が直接脳内に響いた。人差し指を口元に添えて、静かにという仕草でわたしに伝える。その姿がたまらなく素敵で私はツクヨミに抱きつくのを必死にこらえた。
社の中に入った。いつも通りひんやりとし、静まり返っている。秘室に向かう廊下の途中で、例の神使達の声が聞こえてきた。
「ツクヨミ様は本当にすばらしい。昨夜の舞を見たか?」
「もちろん見ました。毎夜見ても惚れ惚れする。今宵は満月ぞ。神への供物の用意をしなければ。」
「そうであった。忙しいことだ。ツクヨミ様が心地よく過ごせるよう社も整えなければ。」
「まことに。右月よ、あれはどこへやった?」
忙しいと言いながらも常になにかを話している二人の様子がおかしくて、わたしはつい声を出しそうになった。ツクヨミに視線をむけられすんでの所で笑いを耐えた。
「おや、これはツクヨミ様。どうなさった?」
「瞑想はもうお済になられましたか?」
「ああ、続きは秘室で行う。」
「それはっ!」
「おさすがでございます。カナウ様のお力が無くなったとはいえあの部屋は特別な部屋。さらにツクヨミ様のお力に良い影響を与えるでしょう。」
「そうだな。しばらく近づくな。」
「承知いたしました。」
「ごゆるりと精進されてくださいませ。」
ツクヨミは二人をやり過ごし、ゆっくりと秘室の前に来た。開き戸を開け、さっと閉じる。
「やりきったな。」
ツクヨミには珍しい少し少年っぽい笑顔。わたしはあの神使達がおかしくて仕方がなかった。
「彼らはとてもおもしろいのね。あっ。」
わたしが話し終わらないうちにツクヨミが抱きしめてきた。
「あいつらは人の匂いに敏感なのに、お前の匂いには全く気付いていない。どうしてだと思う?」
「え?わかんないよ、そんなの。」
ツクヨミが額を私の額に当てる。
「それはお前の魂が汚れていないからだ。人は負の感情が強くなると匂いがきつくなる。黄花にはそれがない。」
「わたしもいろんな嫌なこと考えてるよ。そんないい子じゃ...んっ。」
ツクヨミが唇を深く重ねてきた。わたしたちはそのあとたっぷりと時間をかけてまたお互いを確かめ合った。
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