黄花6
あれからしばらくは怖くて外に出られなかった。桃花が大葉のことを母さんたちに話してくれて大葉との結婚話は取り消しになった。「でもまたおなじようなことがあるかもしれない。それに今度は違う相手が。」そう思うと以前のように歩き回ることなど恐ろしくてできなかった。ツクヨミ様と別れてからもうすぐで一月になる。
「黄花。」
家の隅に縮こまっているわたしを心配して桃花が声をかけてきた。
「わたし、明日帰ることになったの。体調が落ち着いたから。帰る前にあんたにいいものあげようと思って。」
「え。」
こんな状態のまま桃花が居なくなることにわたしは大いにうろたえた。桃花は大丈夫だからと声をかけながら綺麗に編まれた籠を差し出した。そして籠をあけ、中から真っ白な衣を取り出した。それは婚儀に身に着ける衣装だった。
「これ...。」
「黄花、これあんたにあげるから、これ着て好きな男に気持ちぶつけておいで。やむを得ない理由があって別れを切り出したのなら、まだ望はあるよ。あんたのこと嫌いにはなってないんだからね。こっちがなにがなんでも引かないって意思表示しなきゃ。黄花はその人がいいんでしょう?」
「うん。」
「ここにいたら望まない誰かのものにされてしまうかもしれない。その前にその男に抱いてもらいな。」
ツクヨミ様がわたしを受け入れてくれるだろうか...。でももう、迷わない。拒絶されても泣いて縋って絶対に離れない。わたしはツクヨミ様と生きたい。
「やっぱりあんた綺麗ね。薄化粧でもこんなに栄えるんだから。その男は幸せ者ね。」
「わたし、変じゃない?」
「自信持ちなさい。近くまでついて行ってあげるから。とりあえずこれ被ってね。」
白い衣じゃ目立ち過ぎるからわたしは頭の上から地味な生地を被った。
「で、どこに住んでいる人?」
どうしよう...。桃花はとても親身になってくれた。桃花になら話してもいいのかな。
「あの...、社に住んでいるの。」
「え?社って?」
「月の社。ツクヨミ様。」
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「ここからはあんた一人で行きな。」
「うん。」
「わたし、いろいろ言ったけど...。ちょっと神様は読めないな。フラれたら慰めてあげるから。」
「ありがとう桃花。行ってきます。」
ツクヨミ様、どこにいるんだろう。やっぱりいつもいるところだよね。社に入るのは久しぶりだ。神使達の姿は見えない。今のうちにツクヨミ様の元まで行かないと。気持ちが逸り、自分でもわかるくらいに胸がドキドキと鼓動を打っている。
「いた!ツクヨミ様。」一月ぶりに見る愛しい人の姿に涙がこぼれそうになる。「ダメ。笑顔で会うんだから。」ツクヨミ様には綺麗になったと思われたい。わたしを求めてほしい。深呼吸をして声をかける。
「ツクヨミ様。」
ツクヨミ様はわたしの声に少し驚いてこちらをむいた。瞳がとても寂しそう。
「黄花。とても綺麗だ。嫁ぐのか?」
「うん。」
わたしは今からあなたに嫁ぐ。
「どう?」
「よく似合っている。」
ツクヨミ様はまさかわたしがここで婚儀を行うつもりだとは知らない。わたしを幸せにできるのはツクヨミ様だけなのに。
わたしが手を差し伸べるとツクヨミ様はわたしの手に自分の手を重ねた。桃花と考えぬいた計画が上手くいった。出し抜いたようで少し申し訳なかったけれど、強引な手でいかないと神様を納得させるのは難しいかもと桃花が考えてくれたことだった。わたしはありったけの勇気を絞ってツクヨミ様の頬に口づけをした。
「なにを?」
「わたしたちは夫婦になったの。これは婚儀の契約。わたしはツクヨミ様と生きたい。」
じっとツクヨミ様の瞳を見て言った言葉。どうか受け止めて。それはほんの一瞬だったけど永遠のように長い時間。ツクヨミ様の頬に涙が流れた。わたしに会えなくて寂しかったんでしょ?ツクヨミ様の涙を見て初めてツクヨミ様の本音に触れたような気がした。やっぱりわたしはツクヨミ様が好き。幸せにしたいと思うのはあなただけ。わたしを幸せにできるのもあなたしかいない。
「わたしが一緒にいるから大丈夫。一人になんてしない、絶対に。」
ツクヨミ様に触れ彼の涙をぬぐう。しばらく見つめ合った。
ツクヨミ様の顔が近づく。お互いがそうしたいからする。やっと…。
唇が重なった瞬間幸せすぎて腰が抜けそうになった。長いまつげ、ツクヨミ様の香り、触れた柔らかい唇。どれもわたしが大好きなもの。
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