21
かつて黄花がツクヨミのために建てた神社、月乃神社。それは今は神主不在でひっそりと山の中に佇んでいる。
「この神社、残してあげたいね。おじいちゃんになんとかお願いしてみようかな。」
光夜と二人で大木の下で空を見上げている。空にはうっすらと白い月が見えていた。
「光夜?」
「聞いてるよ。そうだな。そうしてやりたい。」
まだ空を見上げたままそう語る光夜の横顔は夢でみたツクヨミとかぶった。つい見とれていると彼に気付かれてしまった。
「なに?」
「ううん、なんでもない。」
なんだか急に恥ずかしくなって目を逸らした。その瞬間強く抱きしめられた。とたんに光夜の匂いに包まれる。心臓がどきどきする。
「光夜、どうしたの?」
「ミコト、好きだ。今度こそ離れない。」
「え?」
ふいに顔をあげると光夜の唇がわたしの唇に触れていた。彼の長いまつげがすぐ目の前にある。触れている唇は少し冷たくて柔らかくて。
わたし...。光夜にキスをされている。
どんっ!
「ミコト!」
わたしは光夜を思い切り両手で押して体を引き離し一目散に駆け出していた。心臓は爆発しそうなくらい早く鼓動を打っている。足もだるいし息も続かない。どれくらい走ったのか、わたしはようやく足を止めた。膝ががくがくと震えている。振り返るが光夜は追いかけてきてはいなかった。
わけもわからずに涙が出てきた。トボトボと歩きながら家へと向かう。翔愛の話を聞いてから、光夜の様子が変だった。ツクヨミが消えた後の黄花の様子を聞いて、きっとツクヨミの気持ちが抑えられなくなったんだ。ツクヨミは今も深く黄花を愛しているから。
でもわたしは黄花じゃない。彼女の身代わりにキスをされたのがたまらなく悲しかった。うつむいたまま歩き続ける。
「もしかして、ミコト?」
こんな状態で誰かに会いたくなかったのに声の主を確認するために顔を上げると、そこにはレンがいた。
とても気まずい。最悪だと思いながら、なんとこたえようかと言葉を探し黙ってしまった。
「なにかあったのか?」
「別に。」
「俺の家、この近くなんだ。今母さんもいないから来ない?」
「え?」
レンの突然の誘いにわたしは戸惑った。学校でもわたし達は必要最低限しか話さない。祖母の家からの帰りだって無言だった。わたしのこと、嫌っているんじゃないの?どうしようかと答えに困っているとレンが笑顔で話し続けた。
「俺の秘密、ミコトに見せてやるよ。」
「秘密?」
「見たくない?」
秘密だなんて、とても魅力的な言葉だ。誰でも他人の秘密には興味をそそられるのではないだろうか。わたしはこの誘惑に抗えなかった。どうせ弟なんだしと気持ちを切り替えることにした。
「行ってみようかな。本当にレンのお母さんはいない?帰ってきたりしないの?」
「今日は夜勤の日だから大丈夫。こっち。」
レンはそう言ってわたしを自宅へと案内した。
父の実家からいくらか援助があるのか、レンの母は看護師だからか彼の自宅はおしゃれな新しいマンションだった。古い戸建てのうちとは大違い。家の中もごちゃごちゃとはしていなくて綺麗に片付けられていた。
「適当に座って。」
広いリビングのベージュ色のソファに腰をかける。ふわふわで気持ちいい。レンは二人分のアイスティ-を入れ「ちょっと待ってて。」と言って違う部屋に自分の秘密のものを取りに行った。さっきまでは気持ちが乱れていたのに、ここに来てからは妙に落ち着く。レンの存在を知ってからまともに口をきくのは今日が初めてだ。でもとても普通に話せている、不思議な感覚だった。やはり兄弟だからなのだろうか。
「お待たせ!」
レンは大きな箱を持っていた。レンの秘密とはいったいなんなのだろう。
「こいつ、俺の友達なんだ。」
レンがそっと箱を開けたので、わたしはおそるおそる中を覗いた。
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