18
わたしも自分の地を守らなければならず、それからしばらくは黄花に会うことはなかった。二年が経とうとした頃、黄花を訪ねると彼女は花開くように美しい女性へと変身していた。
そんな彼女を周りが放っておくはずもなく、言い寄る男たちが大勢いたが、ツクヨミの耳飾りの力のせいであろう、彼女の身は守られ、彼女が望まない者との関係が築かれることはなかった。そして彼女は誰とも関係を持とうとはせずに、ついにはある徳のある僧侶の弟子となった。
黄花はこの辺りの地域の人たちを献身的に世話をし、ことあるごとにツクヨミがこの地を守ってくれた、彼は今も守り続けてくれていると伝えて歩いていた。
そのうちに黄花は月の巫女様と呼ばれるようになり、長い年月をかけて建てられた月の社に住むようになった。
数百年を生きるわたしたち現人神からすると、通常の人の命は瞬く間だ。彼女は三十を過ぎてしばらくして病に倒れ、そのままはかなくなってしまった。しばらく足が遠のいていたわたしは彼女の最後を看取ることはできなかった。彼女の遺言は
「秘密の場所にこの身と供に耳飾りを埋葬するように。」
とのことだった。そして彼女の跡は彼女の姉の息子が引き継ぐことになっていた。月の社はこうして継承されていった。
そして不思議な出来事が起こった。黄花の死後、わたしは自分の体に変化を感じた。数百年生きてきた時を取り戻すように体が内側から急速に衰えていくのを感じた。
花鳥風月の現人神は四人で一つ。現人神が四人そろった時点でカナウ様との秘室は閉じられた。新たな現人神がこの世に現れることはない。ツクヨミが消滅し、彼の耳飾りが愛する者を守るために発していた神の力の影響力が無くなったのか、我ら花鳥風月の神の力の均衡が崩れ去ったのだ。現人神としての生の終わりを感じた。
わたしはこの身が動かなくなる前に再び月の社へと赴いた。
不思議なことだが、この地には神の力をかすかに感じる。その身を滅ぼしても愛する者のために残された耳飾りが黄花の願いを聞き受けるようにこの地にわずかながらも力を及ぼしているのだろうか。
残り少ないトリゴエの力でツクヨミが毎夜祈っていた大木に触れる。ツクヨミの最後の姿が見えた。トリゴエの力を使い果たしたわたしはそのままそこで意識を失った。
「最後に見た姿って?」
ソウはツクヨミに関することには間髪入れずに質問する。
「ツクヨミに襲いかかった濁龍は彼の力と衝突し彼と一緒に消滅したのです。しかし、その時にツクヨミと濁龍はあまりにも深く関わりすぎました。二人の間に因果関係が生じてしまったのです。」
「因果関係って、いったい?」
わたしも翔愛の話の先が気になった。ツクヨミと蛟龍の関係について。
「濁龍の魂は汚れています。それに触れたツクヨミは自然の時の流れでの転生に抑制がかかってしまったのです。」
「そんなことが...。」
光夜は翔愛の口から語られる事実に驚いているようだ。
「長い年月が過ぎ、汚れた魂の影響が薄れたためあなたは転生したのです。」
「他の現人神たちは?」
「わたしと同じ、三度めの転生です。しかし、彼らは過去二回の転生の記憶はありません。わたしはトリゴエの記憶が残り、多少なりとも彼らを辿ることができたので過去二回の転生時、彼らの様子を見に行きましたが、彼らは世代も異なっていました。今回は全員が同世代の上に、記憶があったのです。これはもしかしたらと思い、影宮さんになにかあったら連絡をいただけるようにお願いしていたわけです。」
「俺が転生し、なにかしら行動すると思ったわけか。」
「ツクヨミのことは翔愛の力で辿れなかったの?」
ソウも疑問に思っていることを質問する。自分の家が深く関わっていて、まだ現実味がないようだ。
「ツクヨミの場合、最後が特殊なのでわたしの力では無理でした。」
「うちとはずっと繋がっていたということ?」
「はい。最後にツクヨミの地を訪れる前にわけあって接触しました。そして転生の度にも。先ほどの鳥の石碑はなにかのために二度目の転生時にわたしが用意したものです。」
翔愛の話はこれまでの疑問を大きく解消するものだった。月乃神社の始まりは黄花だった。彼女は限りなく深くツクヨミを愛していた。
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