15
翌週、わたしと光夜はソウの案内で風の現人神がいたと記録されていた神社の跡地に足を運んだ。
「この下にある。」
ソウが指さしたのはダムの底だった。
「この下...。」
わたしの言葉を聞いてソウが説明を続ける。
「もともと川のそばにあった神社らしいよ。長く続いた雨で川が氾濫し飲み込まれたと記録されているわ。」
これでは本当にここにあったのかさえ分からない。光夜を見ると、彼は深いダムの底に目を凝らしていた。
「なにか感じる?」
わたしの言葉に反応して光夜が顔を空に向けた。心地よい風が吹き、彼の前髪をなびかせる。一瞬、光夜の瞳の色が濃くなったような気がした。
「いい風が吹く場所だ。」
昔は穏やかな川の水が運んでくる風がこの場所を浄化していたのだろう。ごく僅かではあるが、俺と同じものの存在の影を感じる。ここにあったのだ、風の現人神の社が。
「光夜?」
光夜がさっと後ろを振り返った。彼の背後には山の木々があるだけだ。
「なにか気になることでも?」
ソウも光夜の様子がおかしいことに気付いたようだ。光夜はなにかを探るようにじっとその場を見つめていた。
「光夜。」
わたしは不安になって光夜の服の袖をひっぱった。彼が私に気付き、意識を戻した。
「ごめん、なんでもない。」
「どうする?鳥の神社の場所はここからそんなに離れていない。行ってみる?」
ソウの提案にもちろん賛成する。
「ああ、行こう。」
わたしたちは最後の現人神、鳥の神社の跡地へと足を運んだ。ここからそんなに離れていないと言っていたけれど。ソウが連れてきた場所に私たちは驚いた。だってここはこの辺りでの唯一の商業施設だから。大きなショッピングモールがあり、飲食店や雑貨店が立ち並んでいる。そばには小さな子供たちが遊べるように公園まである。こんなところに神社が?
わたしが驚いているとソウがある石碑の元へと案内した。
「これ。」
ソウがさした石碑をよくみると、石碑には鳥の翼のような印があった。とても古そうなものだ。
「よくわからないけど、花鳥風月の神社が存在したのって太古なんでしょ?これが残っているだけでもすごいことだと思うけど?」
わたしは不思議に思った。どうして月乃神社はああまでも完璧な形で残っているんだろう?
光夜はツクヨミの最後を知っているんだろうか?それについて彼はわたしには話そうとはしなかった。
光夜は黙って石碑を見つめている。すると彼はふと顔を上げ、歩きだした。
どこへ行くのかと様子を見ていたら、こちらを正面に公園のベンチに座っている女子の前で立ち止まった。
「なにか用か?」
唐突に光夜が彼女に尋ねた。彼女は赤い淵の眼鏡をかけ、前髪はその上で綺麗に切りそろえられていた。さらさらの髪は腰まであり、頭の良さそうな雰囲気を醸し出している。美味しそうにアイスを食べていた彼女は光夜の突然の質問に目を丸くした。
「あの...いったいなんでしょう?」
突然声をかけられ、彼女は困っている感じだった。
「光夜!」
わたしとソウは光夜の元に駆けて行った。
「ずっと俺たちを見ていたのはお前だろ?」
ずっと見ていた?光夜がなんのことをいっているのかわたしはわけがわからず、二人のやり取りを見守った。
「あらまぁ。」
彼女は光夜の言い分にも気を悪くすることなくのほほんと答えた。そして彼女はわたしを一瞥し、にっこりと微笑んだ。
堂々とした不思議なオーラを持つ彼女の存在に狼狽えてしまう。
「よかった。少しは残っているみたいですね。」
「は?なんのことだ?」
彼女はゆっくりと立ち上がり笑みを浮かべたまま自己紹介を始めた。
「鳥の現人神、トリゴエの記憶を持つ翔愛と申します。」
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