まじない花
このエピソードからの登場人物
★桃花
黄花の姉。明るく心優しい。妹思い。
★憂那
桃花の友人。ふくよかな体形。地味な顔立ち。
「で、どうだった?咲いた?」
「それは秘密。」
「顔がにやけてる。咲いたのね!色は?」
姉の桃花と友人の憂那がなにやら話している。最近この手の話をよく耳にする。
「一体なんなの?咲いたとか色がどうしたとか?」
横で二人の話を盗み聞きしていたわたしは日頃の疑問を解消するべくこの件について聞いてみることにした。
「黄花にはまだ早いんじゃないかな。」
桃花はわたしには内緒にしておきたいらしい。
「そうね。でもこの間この子、隣の村の男子に声をかけられていたじゃない。結構いい男だったよ!」
憂那の言葉にそんなことあったっけとわたしは記憶をたどる。そんなに騒ぐようなことなのだろうか。
「そうなの?黄花、私は聞いてないわよ、そんな話。でもたしかにあんた、最近綺麗になったわ。」
桃花に言われるとなんだかこそばゆい。自分ではちっともそんなふうには思わないのだけど。でも...。ツクヨミ様も桃花と同じように思っていてくれたらいいのに。
「だってそんなんじゃないんだもん。」
わたしは面倒臭くなってはぐらかした。
「あんた、まだ恋してないもんね。」
「男と一緒にいたいなんてまだ思わないでしょ?」
憂那も桃花と一緒になってわたしをからかう。
でもそれなら...わたしには一人いる。あの寂しそうな人が。
最近ツクヨミ様のことばかりを考えている。あの人は神様だからかもしれないけれど、他の男たちとは違っている。綺麗だしとても優しいし一緒にいるとほっとする。ツクヨミ様はあまり笑わないけど、笑った顔は大好きだ。これが恋なの?
「なに、その顔!いるのね、心当たりが!」
ツクヨミ様のことを考えていたら憂那が突っ込んできた。
「いないよっ。それよりなんなの、その花?」
わたしは深く追求されることを避けるために話を逸らした。
「山を越えたところに平地がひろがっているでしょ?」
はいはいという感じで桃花が花について教えてくれる。
「湖があるところ?」
「そう。その湖のそばに蕾のままの花があるのよ。」
「蕾のままって、なにそれ?」
「とっても不思議な花でね。その花を手折って意中の相手に手渡すの。」
憂那と桃花は花を手渡し受け取る素振りを見せた。
「相手が花を受け取り花が咲く。咲いた花の色が赤なら両想い!相手も自分のことを同じように思ってくれている。」
わたしは桃花の話に驚いて声を出してしまった。
「えっ!本当に?」
二人の話にすっかり夢中になる。
「白なら努力すべし。蕾のままなら思いは通じない。」
憂那が花の説明を続ける。
「そんなのその花の状態で変わるんじゃ。」
「それがね、そうでもないの。本当に当たるの。」
憂那は大真面目な顔で言い切った。
「むかし遠い海の向こうからきた徳の高い僧がこの地で世話になった礼にこの花の種を置いていったの。
まじない花と言われているわ。」
まじない花。わたしはこの花に大いに興味を持った。
「今年やっと花の蕾が育ったから試しに何人かがやってみたら本当にあたりで。」
「そう。だから試しに私たちもね。」
本当にそうならすごい花だ。わたしは本心が読めないツクヨミ様にこの花を渡してみたくなった。あの人はわたしのことをいったいどう思っているんだろう?花が咲かなかったら神様には効力がなかったと思えばいい。
「二人とも赤い花だったんだ。」
「桃花はね。わたしは白だったの。でも頑張るからっ。」
とてもいいことを聞いた。わたしは早速こっそりとその花とやらを探しに山を越え湖の所までやってきた。
あった、湖のそばに。不思議な光景だ。遠くから見るとまるで緑の花のようだ。ガクがすっぽりと花びらを覆っていて花の色はまったくわからない。わたしは中から一番元気そうに育っている花を手折った。
早く、早くツクヨミ様に渡したい。速まる鼓動を感じながら急ぎツクヨミ様の社へ向かった。
いつも会う大木の下でツクヨミ様を待つ。振り返るとツクヨミ様がいた。
すごくドキドキする。
「どうした、黄花。」
わたしはツクヨミ様にばれないように深呼吸をして花を手渡す。
「これ、受け取って。」
「いったいなんの花だ?」
ツクヨミ様が花を受け取った。ガクのせいで固く蕾を閉じている花にツクヨミ様も訝しんでいるようだった。
お願い、咲いて。赤色の花が...。心の中で強く祈る。
二人で花を見ているとやがてゆっくりと蕾が開き出した。甘い香りに包まれる。中からは鮮やかな美しい赤色の花びらの花が咲いた。
「これは...?なにかのまじないか?」
ツクヨミ様も驚いている。
『咲いた花の色が赤なら両想い!相手も同じように自分のことを思ってくれている。』
ツクヨミ様の顔を見つめる。花の変化にまだ驚いている。わたしのことを好いてくれるこの人とずっと一緒にいたい。でも今はまだ...。
「秘密。」
わたしは小さな声で答える。このことをきっかけにわたしはツクヨミ様への恋心を自覚した。それが愛に変わるまで、時間はかからなかった。
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