10
光夜の手は温かかった。
「あの、ごめんなさい。嘘をついて。」
「ミコトはわかりやすい。」
光夜は振り返り優しく言った。
「えっ、それも神の力?」
「まさか。」
立ち止まり私を見る。
「体、もう大丈夫なの?学校行けた?」
「ああ。今日は無理のないように早退したんだ。だから会いに来れた。」
「こんなところまで来て、光夜のお母さん心配していない?」
「大丈夫だ。ところでミコトはあの耳飾り、どこで拾った?」
わたしは光夜に月乃神社のことを話した。そして耳飾りを拾った経緯も。
「あの大木が…まだ残っているのか?」
光夜の瞳の色が濃くなった。神の力を感じさせる神々しい輝きを伴いながら。わたしはつい、見惚れてしまった。
「ミコト?」
「あっ、なに?」
ボーっとしている私を光夜が現実に引き戻す。
「その神社に連れて行ってくれ。」
わたしたちは月乃神社まで来た。長い階段の先、山の中に存在する月乃神社。鬱蒼とした森を背後に見事な大木、その前には社がある。
光夜は大木を目にした瞬間走り出し、社の横を通りすぎて大木の目の前まで行ってしまった。彼の足は速く、わたしがようやっと追いついた時には光夜は木に手を当てて目を閉じていた。
「光夜?」
「まだあったんだな、この木が。立派になって。」
光夜の瞳からは涙が流れていた。
「毎夜、ここで祈りの舞を舞った。あの日もここで。あの濁龍をこいつは耐えたのか。」
「あの日?濁流?」
「そう、濁龍だ。濁った龍と書く。」
「濁龍...。」
「社は建て直されたのか?俺が居たときとさすがに違うが。」
「わたしはよく知らなくて。おじいちゃんに聞けばなにかわかるかもしれないよ?」
「そうだな。」
「耳飾りはここに落ちていたの。」
わたしは木の根元をさした。
「どういう状況だった?」
「この木が、もしかしたら切り倒されるかもしれないって話を聞いたから。なんだかかわいそうになって。こうやってこの木を抱きしめたの。」
わたしはあの時自分がとった動作を光夜にやって見せた。
「そしたらチャリンって音がして。」
「そうか。」
この木は俺の分身のようなものだ。数百年この木の上で祈り続けた。黄花に渡した耳飾りがその後どうなったのかはわからないが、俺の力が宿った木にミコトが深く振れたことで神の力が働いたのかもしれない。耳飾りがミコトの前に現れた事実は彼女が黄花である証拠だ。
「光夜?」
木の上を無言で見上げている光夜の姿が一瞬夢で見たツクヨミとかぶった。ツクヨミはとても神々しく存在自体が人間離れしているように見えた。でもその眼差しはとても孤独だった。胸が締め付けられる。
「ん?」
わたしの問いかけに光夜が振り向く。木に肘を当て頭をもたれさせ、私に微笑みかける。たまらなくかっこいい。彼の表情にドキッとさせられてしまう。
「おいで、ミコト。」
光夜が空いている手をわたしにさし伸ばす。戸惑うわたしの気持ちとは裏腹になぜか体が自然に動き、光夜に歩み寄った。わたしは光夜の腕の中にすっぽりと納まってしまい、そのまま優しく額を彼の方に抱き寄せられた。
「これからはずっと一緒だ。」
自分になにが起きたのか、わたしは恥ずかしすぎて顔を上げられない。ガチガチに固まっている私に気付いたのか光夜が笑い出した。
「あはははは、ミコト大丈夫。きっとお前も思い出す。俺にはわかる。」
光夜が雰囲気を壊してくれたおかげで、やっとわたしの金縛りが解けた。顔を上げ光夜に尋ねた。
「それも神の力?」
「両方だ。」
光夜は確信のある目で答えた。
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