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あの後塾の先生たちが来てくれて、光夜くんは救急車で運ばれていった。
わたしは光夜くんの友達のシュウマくんに自分の連絡先を渡した。彼が目を覚ましたら連絡をくれるようにと。
「きっと大丈夫だよ。」
「うん。」
「光夜に何かあったら絶対電話するからさ。」
あれから数日経ったが、シュウマくんからの連絡はなかった。嘘をつくような感じの子には見えなかったから、光夜くんは本当にまだ目が覚めていないのだろう。
砕けた耳飾りはなんとか回収した。月の形以外は元の原型がないぐらいに粉々になってしまった。
何故か涙があふれてくる。
「ミコト、どうしたの?学校でなにかあったの?」
「お母さん...。大丈夫、なんでもない。」
「大丈夫って。泣いてるじゃないの。」
母が粉々になった耳飾りに気付いた。
「あら、どうしたの、それ?」
「壊れちゃって。それで泣いていたの。お気に入りだったから。」
母は耳飾りをジーっと見ている。
「どうしたの?」
「なんか見たことがあるような気がして。どこで見たのかしら?」
「え!思い出してっ!お願いっ。」
母にしがみつき必死の形相で訴える。わたしの様子に母は驚いたようだ。
「そうだ。社の中で見たのと似てるんだわ。ここ。月の形じゃないの?」
母は耳飾りの唯一形が残っている月の部分を指した。
「そうっ!」
「なにこれ?社で見つけたの?」
「えっと...。」
言いよどむわたしのことはあまり気にせずに母が教えてくれた。
「今度おじいちゃんに聞いてみたらいいんじゃない?神社のことはお母さんより詳しいから。なにか知っているかもよ?」
「そっか。そうしてみる。」
ルルルルル...
その時、電話が鳴った。
「わたしが出るっ!」
「もしもし?」
「ミコトちゃん?俺、シュウマ。」
「シュウマくん、光夜くんは?」
お願い、無事でいて。わたしは受話器を握りしめシュウマくんの言葉を待つ。
「大丈夫。目を覚ましたよ。あいつ、ミコトちゃんに会いたいって。病院まで来れる?」
シュウマくんの話によると、光夜くんは三日間意識不明だった。原因が分からず、医者も家族もとても心配したそうだ。彼は三日目の夕方に意識を戻したそうで、検査の結果どこにも異常は見つからなかった。
本当に良かった。驚いたのは、光夜くんは目覚めてすぐにわたしに会いたいと言ったらしい。
どうしてだろう?倒れる前にわたしを見たからだろうか?
早速次の日、学校が終わったらそのまま光夜くんが入院している病院まで行くことになった。一人では心細いので、シュウマくんが付き添ってくれることになった。
「ミコトちゃん。」
病院の最寄りの駅でシュウマくんと待ち合わせをしてもらい病院までの道を行く。見舞いに手ぶらではいけないと思ったので、わたしは小さな花束を持って来ていた。
「シュウマくん。今日はありがとう、つき合ってくれて。」
「いや、俺も心配だったから。それに他のやつらも押しかけているかも。」
病院は大きな総合病院だった。やはり私の地元の病院とは規模が全然違う。一人で来ていたらきっと迷子になっていた。
いよいよ光夜くんの病室へと近づいていく。心臓がどきどきと早く鼓動を打つ。
「光夜、入るぞ。」
ドアをノックし、シュウマくんが先に病室に入る。わたしも慌ててそれに続く。
ベッドに腰掛けた病着姿の光夜くんがこちらを見て微笑んでいた。彼の傍らにはランがいた。彼女は冷たい目でわたしを見ている。
「元気そうだな。心配したぞ。」
「ああ、もう大丈夫だ。ミコト、来てくれてありがとう。」
わたしに視線を移し光夜くんが優しく声を掛けてくれた。
「わたしのほうこそごめんなさい。道路に飛び出すところを引きとめてくれて。それで...。」
「俺が倒れたこととミコトは全く関係ない。気にするな。」
「あの、これ。お花持って来たんだけど...。」
花瓶がないか部屋を見渡すと、花瓶には既に立派な花束が生けられていた。きっとランが持ってきたものに違いなかった。自分の持ってきた花束がとても貧相に見え花を渡していいのかわからなくなった。
「ありがとう。もらうよ。」
「え。」
光夜くんがわたしの花束を受け取ろうと両手を差し出した。
「うん。」
彼に花束を渡そうとしたらランがわたしたちの間に入ってきて、わたしの小さな花束を受け取った。
「ありがとう。後で光夜のお母さんに渡しておくわ。これに合う花瓶を用意してくれると思うから。」
ランはくすくすとわたしの花を見下すように微笑んだ。わたしは言い返すこともできずに呆然としていた。
「ラン、それかして。」
光夜くんの言葉に意表を突かれたランが「えっ?」と言って彼に振り向いた。その瞬間花束は光夜くんの手に納まり彼は花束を愛おしそうに見ていた。
「シュウマ、なんか喉が渇いた。飲み物買ってきてくれない?」
光夜くんはシュウマくんに視線を投げかけながらそう頼んだ。二人の間で無言の意思疎通があったのだろうか。
「あ、わかった。ラン、一緒に行こうぜ。」
「は?一人で行けばいいでしょ。」
「俺、そんなにたくさん持てないから。ほらほら。」
そう言ってシュウマくんはランの背中を押しながら病室を出ていった。静かになった病室にはわたしと光夜くんだけになった。光夜くんは花束からわたしに視線を移していた。
「ミコト、やっと会えた。」
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