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「少女を救いたいって...。」
美路が感じたままの疑問を口にした。確かに謎だ。いったいどういうことなのだろう。
「澄龍は神族です。そのあたりの感覚は神にしかわかりませんね。どういう形で救うのか...。人智の及ばぬところです。」
翔愛が自分の考えを述べた。
「レン。大丈夫?」
わたしは気丈に振舞っているレンのことが気にかかった。無理はしていないか?
「大丈夫。」
レンは顔をあげ吹っ切れたような表情で続ける。
「その翌日、雨が降ったんだ。夢で感じたのと同じ優しい雨。白宝が降らせているのだとわかった。雨が降り続いている間、白宝に別れを告げられてから最悪だった気持ちが日に日によくなっていった。わかったんだ。これが澄龍の力なんだって。きっと俺みたいにふさぎ込んでいた人たちも不思議と気持ちが安らいだはずだ。あの雨に癒されて。白宝は澄龍になって魂に刻まれた役割を果たした。今の世の中で奇跡みたいな存在の白宝に出会えて本当によかった。今は心からそう思っているんだ。」
レンは強くなった。澄んだ健気な強さだ。レンの明るい表情にもう大丈夫なのだとわたしは確信した。きっとそう感じたから、白宝はレンの元を去ったんだ。わたしたちにレンを託して。
レンのもとに光夜が歩みよる。咲生も。男子たちは知らぬまに絆を深めたようだ。父である影宮さんの無事を確認し安堵の涙を受かべるソウを美路が慰めている。みんな各々の思いを抱きながらも納得のいく結果となってよかった。
でもわたしは今だ過去に捕らわれたまま。夢で見た我が子のことが気になって仕方がなかった。
「ミコトちゃん。おつかれさまです。」
声がする方に視線を向けると翔愛が優しく微笑んでいた。彼女の微笑みが過去に見たトリゴエの微笑みと重なる。翔愛はきっとわたしの思いに気づいている。でもわたしを責めるような眼差しではない。翔愛はそのまま光夜に視線を移した。その瞬間テレパシーのように夢で耳にしたトリゴエの声がした。
【時間が解決する。あなたには運命の人がいる。】
「ツクヨミ、黄花。そして月思人...。あなた達の思いは報われた。」わたしは心の中で彼らに報告する。
過去には戻れない。前を向いて未来を生きていくしかない。わたしたちは通じあったように再び視線を交わす。そしてわたしは溢れる涙をこらえ微笑み返した。
「うん。おつかれさま。」
帰り道、わたしは光夜と二人、月乃神社に向かった。幼い時からこの神社が好きだった。神主をしている祖父が優しかったということもあるけれど、ここにくるとなぜか安心した。その理由が今ならはっきりとわかる。
あの日、ここでツクヨミの耳飾りを見つけなければ光夜と会うこともなく、自分の前世も知らないままだった。
わたしは大木にそっと手を触れる。この木はずっと見てきたんだ。
ツクヨミがこの木の上で舞った。月思人がここで愛する人と逢瀬を重ねた。その後、ツクヨミの血をひいた者達の人生を見守ってきたんだ。
この木の下にはかつてのわたしの亡きがらが今も眠っているのだろうか?とても不思議な気分だ。
大木に触れたわたしの手に光夜が手を重ねる。
「ここはとても大切な場所だ。失くしたくない。」
「うん。」
「影宮さんにお願いしたんだ。神社取り壊しの件、なんとかならないかと。」
「え!?」
わたしは光夜の顔を見つめた。
「影宮さん、尽力してくれるって。だから、月乃神社は大丈夫だ。」
光夜も大木からわたしに目を向け笑顔で言った。
「光夜。ありがとう。影宮さんにもお礼を言わなくちゃ。」
「うん。今度一緒に行こう。」
光夜から目が離せない。長い時間を経て、ようやっと巡り合えた。わたしの心にぽっかりとあいた穴は光夜しか埋められない。わたしの大切な運命の人。わたしたち二人は互いの両手を繋いだ。どちらともなく顔を近づけそっと唇を触れさせる。唇を離し額をつけたまま光夜が話す。
「ミコト、一緒に生きていこう。 今生ではもう離れない。」
わたしは過去に言えなかった気持ちを今こそ彼に伝える。
「絶対に約束だよ!!ずっとそばにいて。」
ー完ー
読んでくださりありがとうございました。長い話になってしまいました。もっと簡単に短く終わらせるつもりだったのですが。過去編と絡み合いながらでしたがお楽しみいただけましたでしょうか。また機会がありましたら別のお話でお会いしましょう。




