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影宮さんが語った白宝のかつての記憶。やはり、悲しい偶然が重なり濁龍へと身を落としてしまったということか。
「でも助けるって?どういうことだ??」
光夜が疑問を口にする。
「そこなのです!!」
翔愛が興奮した様子で話し続ける。
「影宮さんには念のため検査を受けてもらいました。なにせ半年の間飲まず食わずでしたから。そしたらですよ!!なんと、影宮さんの病気が跡形もなく治っていたのです!!」
一同驚きで息を呑む。影宮さんは末期癌だったはずだ。
「父さん...。」
ソウの目に涙があふれる。父親のことをとても心配していたのだろう。
影宮さんがわたしたちの疑問に答えていく。
「蛟龍は…。『絆』を結んだ者を依代にして成長しますが、自らが天に還ったあかつきには依代に心身共に安寧をもたらすのです。わたしは癌に侵され余命いくばくもありませんでしたが見事に完治しました。蛟龍はわたしにありがとうと言ってくれた。護り、慈しんでくれて感謝していると。」
影宮さんは白宝とのやりとりを思い出し、噛み締めるように語り続ける。
「愛を持って接してくれた相手には愛を持ってかえす。蛟龍はそういうものなのです。それが蛟龍の本能。白宝はかつての依代の少女を救えなかった心残りがあるようです。」
そういう宿命だったのか、現人神達の時代に誕生した蛟龍は不幸な生い立ちの少女と出会った。互いに慈しみ合い、やがて彼女と『絆』を結んだ。しかし、自分の存在が災いとなり、その少女は酷い死を遂げる。蛟龍は幸せにしたかった彼女をどうしても諦めきれないのだ。それほどまでに深い『絆』だったのだと、自身が依代となった影宮さんは語った。
そして、影宮さんはレンに視線をとどめた。
「白宝は…。レンくんには自分で伝えると言っていました。」
みんなの視線がレンに集まる。レンはしばらく黙っていたが、意を決したように頷いた。
「白宝は俺のもとに来ました。お別れを言いに。」
その場にいる全員が息を呑む。レンは最初から落ち着いていた。全て白宝から聞いたということ?みんなが思っているであろう疑問にレンが答えるように話し始めた。
「夢を...見たんだ。夢の中で俺は蓮の池公園にいた。多分、ずっとずっと昔の蓮の池公園だ。そこは湖のような大きな池があって。満開の蓮の花で池が埋め尽くされていた。」
なぜかレンはこれは夢だとわかった。そして誰かが自分を呼んでいる。自分は今からそのものに会いに行くのだと。
池のそばを歩いてくと、池が近づくにつれいったい誰が自分を呼んでいるのかもわかった。その瞬間、池に浮かぶ蓮の花の中から顔をのぞかせているものに気付く。その瞳を見てレンはかけだす。
「白宝!」
レンが名を呼びそばに来ると、澄龍となった白宝は水面から顔をあげた。その姿はレンが知っている龍の姿であった。とても大きな白龍だ。白宝の頭の毛は水を含みキラキラと輝いていた。瞳は薄紫の澄んだ美しい瞳に変化している。まるで全てを達観しているような瞳。白宝はレンの脳内に語り掛けた。
「レン。お別れを言いに来た。」
「白宝...。無事に成長できたんだね。」
「ありがとう、レン。レンとレンの友達のおかげ。元あるべき姿に戻れた。」
「よかった。本当によかった。」
「レン...。自分にはやり残したことがある。それが未練になってこの時代に転生した。」
「それは...白宝にはとても大切なことなんだね?」
「レン...。」
白宝が大きな頭をレンの方に差し出した。まるで触れてくれというふうに。レンは感じたままに自分の手を白宝の頭に触れる。するとレンの脳裏に映像が流れた。それはかつてチビと名付けられた白宝と鶴奈との思い出である。レンは悟った。白宝はこの鶴奈という少女を救いたいのだと。
「この子は転生しているの?白宝にはわかるの?」
「必ず見つける。」
白宝の瞳はゆるぎない決意を表していた。「鶴奈の転生した魂を救う。」白宝のやろうとしていることがレンにはわかった。神に著しく近づいた今の白宝に不可能なことはない。姿を変え彼女に寄り添うのか、運命を見守るのか…。
レンは白宝が先程見せたビジョンで見た鶴奈の顔を思い出した。本来ならば彼女の顔は澄龍の力で治っていた。悲しい運命のいたずらがなければ。白宝に触れたレンには前世の白宝の無念を感じ取ることができた。
「レンには素敵な仲間がたくさんいる。」
「うん。俺はもう大丈夫だ。白宝、ありがとう。一緒にいられてとても幸せだった。」
レンは本音を隠して、涙を流しながら白宝に気持ち告げる。レンにとって、白宝はとても大切な存在だ。離れることはつらい。でも、白宝の希望は聞き入れてあげたい。ようやく澄龍となった白宝のやりたいようにやらせてやりたかった。
レンは白宝の広い額に両手の平を触れ、瞼を閉じた。お別れをするために。
「レン。ありがとう。さようなら。」
白宝がそう告げると次の瞬間にはその姿はさあぁっと消えていった。空を見上げると天へと駆けあがる美しい白い龍の姿が目にはいる。レンが光り輝く白宝の姿を見つめていると、雨が降り始めた。
それは不思議と安らぐ優しい雨だった。レンは頬に流れる涙と一緒に雨に 濡れる。瞼を閉じ再び目を開けると夢は終わっていた。レンはいつもの自分のベッドの中にいた。
ベッドに体を起こし、両手に顔を埋めとめどなく涙を流す。レンの手からはむせかえるような蓮の花の匂いがしていた。
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「花鳥風月の神様」は残りあと一話です。




