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『ナツカシイニオイ。オチツイテヤスラグ。デモレンノニオイジャナイ。』
白宝は暗い暗い暗闇の中にいた。しかし恐怖や不安はない。自分は護られている。知らないうちに誰かと『絆』を結んだようだ。おそらく、この香りを焚き染めた者の中に今自分はいる。白宝は日に日に体が変化するのを感じていた。しかしそれはとても心地よい変化だ。
【あるべき姿に戻る。】
白宝は何故か自然にそう自覚していた。
しかし白宝にはただ一つ気にかかることがあった。それはレンのことだ。わずかだがレンの存在をそばに感じることがある。彼がつらい思いをしていないか、寂しい思いをしていないか、白宝はそれが気にかかった。そうすると心地よい変化の波が止まり、体がきしむように痛む。しかしその度にとても優しい声で語りかけられるのだ。
「なにも心配することはない。あなたもレンくんも一人ではないのだから。」
そうすると不安がさぁと消え、白宝は再び心地よい変化の波に飲み込まれた。いったい声の主は誰なのか、確認しようと思うが次の瞬間にはそのことは忘れてしまう。そんなことが幾日も幾日も続いた。
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影宮家の地下。影宮当主と白宝がここに籠ってから半年近くが経とうとしていた。あれから一切誰もこの場に足を踏み入れてはいない。
誰にも邪魔をされずに成長した白宝の姿は優に100mを超えていた。白宝は美しい半透明の体となり、とぐろを巻き深い眠りについていた。とうとう白宝は蛟龍から澄龍へと変化したのだ。澄龍が天に還る日も近い。白宝は懐かしい夢を見ていた。それは楽しくも儚い、つらい夢だ。
現人神たちがいた時代。
鶴奈を求め、荒れ狂う気持ちのままに川を下っていた濁龍となったチビは最近自分にまとわりつく呪いのような力に苦しんでいた。月の光のように輝くこの光に捕らわれると激しい頭痛がし、口から血反吐を吐いた。もがき苦しみながら災いをまき散らし、その根本を食らい尽くそうとひたすら川を下る。
この辺りで一番大きな川の上流に差し掛かった時に、この光り輝く力はいっそう強力なものになった。チビはこの力で自分を苦しめている者がすぐそばにいることを悟った。川から巨大な身を乗り出し、目的の者がいる場所まで宙を掛け上がる。
チビは大木に光り輝く剣を手にした少年の姿を確認した。そしてこの少年こそが自分を苦しめている原因であると確信する。チビは彼と目があった。濁龍と化し、濁った眼をした自分とは異なり、少年の瞳は澄んだ美しい瞳をしていた。その瞳にチビは鶴奈の澄んだ瞳が重なった。
怒り、悲しみ、こうなるしかなった自分の運命を呪い、その少年に襲いかかる。少年も引く気はないようで、手にした剣をチビに向けた。互いの力がぶつかった時、体がバラバラになるような激しい衝撃を受ける。
『コワイ...』
チビの記憶はそこで途絶えた。自分は昔の夢を見ていたのだと意識下で気付く白宝。そして思い出した。どうして忘れていたのか。とても大切なもの。
『ツルナ!』
白宝は深い眠りから目覚め咆哮をあげた。
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