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「本当によかったわ。なかなか目を覚まさないから心配したのよ。」
母はベッドの横の椅子に座りリンゴの皮をむいている。わたしは自分の中に流れるツクヨミの血を愛おしく感じた。
「なぁに?さっきから人の顔をじっと見て。」
「別に、なんでもない...。」
わたしは母からさっと目をそらした。月思人が繋いでくれた命だと思うと自分だけでなく、母にも愛しさがこみ上げた。
「レン君に会ったわよ。」
「え?」
「とてもいい子ね。レン君のお母さんもあなたにつらく当たってしまって悪かったって言ってたわ。」
「お母さん、レンとおばさんに会ったの?」
母はリンゴをむいていた手を止めわたしに視線を移して続けた。
「レン君の方がミコトより先に意識が戻ったの。それで様子を見に来てくれたのよ。」
「おばさん、怒ってなかった?」
わたしは一番気にかかることを聞いた。
「むしろ謝りたいって。レン君の気持ちに気付いてやれなくて。レン君は昨日退院したから、ミコトが良ければお見舞いに来てもらう?」
「わたしも明後日退院でしょ?学校でも会えるから大丈夫。メールするから。」
「そう。それから光夜くんだっけ?彼、毎日来ているわよ。」
「光夜が...。」
ツクヨミと光夜の顔がダブる。今、光夜に会ったらわたしは泣き出してしまうかもしれない。
「一途よね。いい子つかまえたじゃない。イケメンだしね。」
「もうっ!」
母はふふふと微笑みながらわたしをからかった。
白宝を捕まえに行ってから丸三日たっている。あれからどうなったんだろうか。レンが無事だということは白宝は翔愛たちがどうにかしたに違いない。あとでメールしてみよう。
コンコン...。
「あらっ、噂をすればね。そろそろだと思っていたの。」
「えっ?」
母がドアを開けると、そこには光夜と翔愛がいた。
「今日はお友達も一緒?」
「翔愛と申します。よろしくお願します。」
光夜と翔愛は母に挨拶をし、目を覚ましベッドに座るわたしの姿を認め笑顔になった。
「ミコト!よかった。意識が戻ったんだな。」
優しく微笑む光夜。
彼の顔は...。不思議と月思人を思わせた。
「ミコトちゃん...。」
頬に涙を流すわたしに翔愛が声をかけた。
「ミコトったら。目を覚ましてから泣いてばかりなんだから。なにか飲み物でも買ってくるから。」
「お気遣いありがとうございます。」
翔愛が母に礼を述べると、母はゆっくりしてねと声をかけ病室を出て行った。
「ミコトちゃん。なにかまた思い出したのですか?」
さすが、翔愛がわたしの様子の変化に気付いたようだ。
「過去の夢を見たのか?」
光夜の問にわたしは黙って頷いた。
「白宝はどうなったの?」
わたしは自分の過去を伝える前にまず白宝のことを尋ねた。
「蛟龍は影宮さんと一緒にいます。状況が切羽詰まっていたので、レン君と会わせてあげることができませんでした。」
翔愛は蛟龍と影宮家の関係を教えてくれた。とても衝撃的な話だった。
「『絆』がないほうがいいというのはそういうことだったの。」
わたしは疑問に思っていることを口にした。
「白宝はレンと『絆』を結んだのに、影宮さんとまた結べるの?」
「そこなのです!蛟龍はとても中途半端な状態でレン君と『絆』を結び、依代としました。濁龍に傾きかけていた蛟龍ですがそれほどまでにレン君に固執していたのでしょう。普通は濁龍になっていると依代は必要ありません。そばにいる者だけでなく負の気を自ら引き寄せるようになるので勝手に育つからです。」
翔愛は少し興奮した様子で話し続けた。
「今回のような状況は古文書の中にもなく先が読めない状況だったのです。ミコトちゃんのおかげで蛟龍は依代のレン君から離れました。しかももともとの蛟龍の姿に戻りかけていました。とても不思議です。まるで浄化されたように。」
『浄化』この言葉が心に響く。きっとわたしに流れるツクヨミの血がそうしたんだ。月思人が繋いでくれた力が役にたったんだ。
「わたし...。黄花は...。過去にツクヨミのこどもを産んでいたの。」
わたしの告白に光夜も翔愛も目を見開き言葉を失くした。
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