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数ある中から選んでくださりありがとうございます。
登場人物の描写が少ないので、こちらで紹介します。
登場人物
★美琴
本編主人公。小学六年女子。母と祖父と暮らす。祖父は月乃神社の神主をしている。四カ月下の異母弟、レンがいる。小柄、リスのような黒目の大きい瞳を持つかわいらしい顔立ち。
★蓮
ミコトの異母弟。年の割に大人びた雰囲気。クールな印象。琴が上手い。
ここはわたしの隠れ場所。
「月乃神社」
山の手前に立てられたこの神社には昔、月の神様がいたそうだ。社の後ろには一本とても太くて大きな立派な木が生えている。その木はこの神社のご本尊とも言われており、天高くまで届く木の上で昔神様が祈り、ここに住む人たちを災いから守ってくれていたとか。
この神社はわたしには大切な神社。今は入院している母方の祖父がずっと神主をしていた。以前はここにお参りに来る人がたくさんいたけど、今ではすっかり侘しい場所となってしまった。廃社にしようかという話まで出ているらしい。ご本尊と言われる木も大きくなりすぎて危ないから、一度切った方がいいのではという意見まであると聞いた。
夕闇が迫る空を見上げ、そろそろ帰らなければと思い小さなため息をつく。
小学校の最終学年になったわたしの学校生活はつい最近まで何も問題はなかった。
今日学校で聞いてしまった事実を知るまでは。仲良くしていた友達の態度が最近何となく冷たいとはうすうす感じてはいたが。
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4時間目前に気分が悪くなったわたしは保健室でしばらく休んでいた。昼食前に回復したので、一人トイレに向かう。そこで嫌な話を聞いてしまった。
仲の良い友人のユイカとクラスでリーダー的存在のマリがわたしの悪口を言っていた。
「ユイカ、ちゃんと言った方がいいよ?」
「うん、わかってるけど。」
「ミコトは能天気だから絶対に気付いてない。ユイカ、レンのことが好きなんでしょ?なのにあんなことをするなんて。」
わたしは二人の話にただただ驚いていた。ユイカがレンに好意を抱いているなど全く思わなかったからだ。
二人がわたしの悪口を言っていることもショックだったけど、親友の好きな人を教えてもらっていなかったこともショックだった。親友だと思っていたのはわたしだけだったのかと思うと途端に悲しくなった。
レンはわたしたちの同級生で、六年になった時に他校から転校してきた男子だ。小六にしては大人びた雰囲気のレンは女子たち数人の好意の的になった。
でもわたしは絶対にそうはならない。なぜなら、このレンとは因縁がある。わたしとレンは母違いの兄弟だからだ。
わたしは初めて異母弟のレンと会ったときのことを思い出す。
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「ミコトさん、もう一回弾いてごらんなさい。」
父方の祖母は有名な琴の家元だ。そのためわたしは物心ついた時から琴を弾かされてきた。でもわたしには全く才能がないようだ。琴はちっとも楽しくないし、だからこそ上達するはずがない。美しい琴だなんてたいそうな名前をつけられていい迷惑だった。その上、冷たい雰囲気の祖母の前だと余計に緊張してうまく弾けなかった。
「ごめんなさい。おばあさま。もう一度やってみます。」
祖母は「はぁ」とあからさまなため息をついた。
「今日はミコトさんに紹介したい人がいるの。そろそろ潮時みたいだから。」
「はい?」
何のことかと思い様子を見ていると、祖母が隣の部屋にいる誰かに声をかけた。
「レンさん、いらっしゃい。」
「はい。」
隣の部屋から現れたのがレンだった。ここで初めて腹違いの弟がいることをわたしは知らされた。弟と言っても四カ月違いだったけど。
「レンさんは亡くなった貴方たちの父に似て、とっても琴が上手なの。これからはレンさんに集中して琴を教えていきたいから、ミコトさんはもう練習に来なくて結構です。」
こんな感じでわたしは祖母から見下り半を叩きつけられた。
好まずともこうしてわたしとレンの接点は生まれてしまった。出会いが出会いなので、わたしとレンは兄弟と言っても仲良くなれるはずもない。
きっと祖母の家から自宅まで、形ばかりの送迎をレンにしてもらった所をユイカに目撃されたんだろう。ひたすら無言での帰宅の途だったが、家の事情でもあるからわたしから進んでユイカに詳しく話すわけにはいかない。ユイカのことを考えるととても憂鬱な気持ちになる。学校に行きたくない。
物思いにふけりながら、わたしの足は自然と大木の下まで来ていた。ここでよく祖父に内緒でお菓子をもらった。母に叱られてここに隠れて拗ねているときもいつも祖父が迎えに来てくれた。わたしはいつの間にかこの大木が自分の味方のように感じていた。
「わぁ、やっぱり大きいな。」
近いうちに切られてしまうかもしれない木がとてもかわいそうになって思い切り手を伸ばし木を抱きしめた。
しばらくそうしていると小さな音がした。
チャリン...。
何かが落ちた音。
何だろうと思って木の周りを見てみるとキラキラと輝くものが落ちていた。
手に取りよく見てみるとそれは月の形をした凝った細工の耳飾りだった。とても綺麗。
しばらく見とれていたら、木々に留まっていたカラスたちが「カァ」と鳴き、一斉に飛び立った。
びくっとなり我に返る。
「帰らなきゃ!」
拾った耳飾りをポケットにしまい、わたしは急いで家路についた。
読んでくださりありがとうございます。