第一節 ◇ 記憶
『あなたは、わたし。』
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ねえトキワ、ありがとう。
大好きだよ、トキワ。
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あれ……、何だろう……?
これは……、この音楽は……。
聞き覚えのある音楽が、あたりに響いている。どこで聞いたのだろうか。ボクは、記憶をたどった。
コンクリートの道かな?
……いや、違う。
安定感はあったけど、どことなく冷たい道だった。こんな、あたたかい音楽が聞こえるような道じゃない。
じゃあ、鉄サビの道?
……それも違うな。
あの道はヘビの舌だった。ボクたちの精気を吸い取る恐ろしい道。こんな音楽なんか聞こえるわけがない。
それなら、木の道なのかな?
いや、それも違……、
……ちょっと待って。そうだ、木の道だ。
木の道の、竪琴の音楽だ!
そうか、きっと、ボクは今、木の道にいるんだ。
目を開ければ、ヒマワリがボクのそばで微笑んで、トキワは空間を優雅に飛んでいるんだ。
ボクは、ゆっくりゆっくり、目を開けた。しかし、ボクの目に最初に飛びこんできたのは、お皿のような形の機械部分に、何本かのひも状のビーズ飾りがぶらさがっている。先端には、丸っこい竪琴の飾りがあった。そんな不思議なものが、オルゴールのような音楽を奏でながらクルクル回っている。聞こえてくるのは、竪琴の音楽だった。
これは……、何?
きっと、トキワとヒマワリならこれを知っているはずだ。
ふたりを探そうと首を左右に動かしてみたけれど、うまく動かせなかった。起き上がろうともしたけれど、まるで誰かに押さえつけられているかのようにビクともしない。
動かせる範囲で情報を集めようと首を動かすと、窓が左側に見えた。古い木の枠に、ガラスが居心地悪そうに納まっている。掃除は行き届いているようで、ピカピカにみがかれていた。
窓の外に、青い空と白い雲が見えた。
あれも、『象徴』なのかな。
逆さまの迷宮には、真っ白な空間しかなかった。青い空なんて初めてだ。とても美しい。
青い空に見とれていると、一羽の白い鳥が、窓の外をかすめ飛んだ。
トキワ、ボクはここだよ。
声を出してトキワを呼んだはずなのに、ボクの耳に届いた音は、まるで違うものだった。思ったように言葉を発することができない。
今度は窓に手を伸ばした。驚いたことに、空に向けたボクの手は、すらりと伸びた指を持つ大きな手ではなく、ぷっくりとした小さな手だった。
ボクは、自分に何が起こったのか理解できなかった。
「あらあら。どうしたのかな?」
どこからともなく、穏やかで優しい声が聞こえてきた。なんだか、ヒマワリの声に似ていた。
「ミルクかな? それともオムツかな?」
その人は、そう言いながらボクを抱き上げた。揺りかごのように優しく揺れる腕の中で、ボクのまぶたはどんどん重くなっていく。
ふんわりとした柔らかい髪と甘いにおいで、ボクを心ごと包み込んだその人は、優しい歌を口ずさんだ。
「いっぱい、いっぱい、幸せを運んでおいで。
いっぱい、いっぱい、福を呼んでおいで。
いっぱい、いっぱい、笑顔を運んでおいで。
ね、……子。」
……子。
それが、ボクの名前?
ずっと、ずっと、ボクだけの名前が欲しかったの。
名前。ボクの名前だ……。
ボクの胸いっぱいに幸せが広がる。ボクは喜びに包まれながら、いつの間にか眠りに落ちていった――。
ねえ、トキワ。
ボク、ヒマワリに会えたよ。
だからね、いつかきっと、トキワにも会えると思うんだ。
ねえトキワ、ありがとう。
大好きだよ、トキワ。




