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逆さまの迷宮  作者: 福子
第六章 ◆ 新世界
45/47

第一節 ◇ 記憶

『あなたは、わたし。』


◇--------------------------------◇



 ねえトキワ、ありがとう。

 大好きだよ、トキワ。



◇--------------------------------◇



挿絵(By みてみん)




 あれ……、何だろう……?

 これは……、この音楽は……。


 聞き覚えのある音楽が、あたりに響いている。どこで聞いたのだろうか。ボクは、記憶をたどった。


 コンクリートの道かな?

 ……いや、違う。


 安定感はあったけど、どことなく冷たい道だった。こんな、あたたかい音楽が聞こえるような道じゃない。


 じゃあ、鉄サビの道?

 ……それも違うな。


 あの道はヘビの舌だった。ボクたちの精気を吸い取る恐ろしい道。こんな音楽なんか聞こえるわけがない。


 それなら、木の道なのかな?

 いや、それも違……、

 ……ちょっと待って。そうだ、木の道だ。

 木の道の、竪琴の音楽だ!

 そうか、きっと、ボクは今、木の道にいるんだ。


 目を開ければ、ヒマワリがボクのそばで微笑んで、トキワは空間を優雅に飛んでいるんだ。


 ボクは、ゆっくりゆっくり、目を開けた。しかし、ボクの目に最初に飛びこんできたのは、お皿のような形の機械部分に、何本かのひも状のビーズ飾りがぶらさがっている。先端には、丸っこい竪琴の飾りがあった。そんな不思議なものが、オルゴールのような音楽を奏でながらクルクル回っている。聞こえてくるのは、竪琴の音楽だった。


 これは……、何?


 きっと、トキワとヒマワリならこれを知っているはずだ。

 ふたりを探そうと首を左右に動かしてみたけれど、うまく動かせなかった。起き上がろうともしたけれど、まるで誰かに押さえつけられているかのようにビクともしない。

 動かせる範囲で情報を集めようと首を動かすと、窓が左側に見えた。古い木の枠に、ガラスが居心地悪そうに納まっている。掃除は行き届いているようで、ピカピカにみがかれていた。


 窓の外に、青い空と白い雲が見えた。

 あれも、『象徴(シンボル)』なのかな。

 逆さまの迷宮には、真っ白な空間しかなかった。青い空なんて初めてだ。とても美しい。


 青い空に見とれていると、一羽の白い鳥が、窓の外をかすめ飛んだ。


 トキワ、ボクはここだよ。


 声を出してトキワを呼んだはずなのに、ボクの耳に届いた音は、まるで違うものだった。思ったように言葉を発することができない。

 今度は窓に手を伸ばした。驚いたことに、空に向けたボクの手は、すらりと伸びた指を持つ大きな手ではなく、ぷっくりとした小さな手だった。

 ボクは、自分に何が起こったのか理解できなかった。


「あらあら。どうしたのかな?」


 どこからともなく、穏やかで優しい声が聞こえてきた。なんだか、ヒマワリの声に似ていた。


「ミルクかな? それともオムツかな?」


 その人は、そう言いながらボクを抱き上げた。揺りかごのように優しく揺れる腕の中で、ボクのまぶたはどんどん重くなっていく。

 ふんわりとした柔らかい髪と甘いにおいで、ボクを心ごと包み込んだその人は、優しい歌を口ずさんだ。


「いっぱい、いっぱい、幸せを運んでおいで。

 いっぱい、いっぱい、福を呼んでおいで。

 いっぱい、いっぱい、笑顔を運んでおいで。

 ね、……子。」


 ……子。

 それが、ボクの名前?

 ずっと、ずっと、ボクだけの名前が欲しかったの。

 名前。ボクの名前だ……。


 ボクの胸いっぱいに幸せが広がる。ボクは喜びに包まれながら、いつの間にか眠りに落ちていった――。



 ねえ、トキワ。

 ボク、ヒマワリに会えたよ。

 だからね、いつかきっと、トキワにも会えると思うんだ。


 ねえトキワ、ありがとう。

 大好きだよ、トキワ。


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