第八節 ◇ 桜桃
次の手紙は、ブラックホールを過ぎてすぐに、トロッコの中に落ちてきた。
「今度の『象徴』は、なんだろうね。」
ボクは、ふたりを交互に見てから封を切り、手紙を取り出して読み上げた。
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『求めるもの』
この姿は、
夢の中で寄り添う形。
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「今回の『象徴』は、形が重要なのか。」
トキワが、うーん、と考えている。ヒマワリは、ボクの腕の中で首をかしげて考えている。そのたびにヒマワリの耳は楽しそうにゆれた。
「意味が分からないのは、あいかわらずだね。」
でも――、と、ヒマワリは微笑んだ。
「たぶん、あれのことね。」
前方に目を向けると、巨大な黄色いサクランボが見えた。二つのサクランボがヘタの先でくっついていて、トンネルのように線路をまたいでいる。
「『夢の中で寄り添う形』とは、二つの実がヘタでつながっている、あの形のことをさしているのだろうな。」
トロッコは『象徴』にどんどん近づいた。
ボクたちはその大きさに圧倒された。
黄色い実の高さは、ボク二人分くらいありそうだ。ヘタの長さは、その何倍もある。目眩がしそうな高さだ。
サクランボにさしかかると、ボクもトキワもヒマワリも、首がぽっきりと折れるんじゃないかと思うほどに首を後ろに曲げて、巨大なサクランボを見上げた。
トロッコが、サクランボの下をコトンコトンと通過する。
二本のヘタのつなぎ目が、ボクたちの頭上に見えたときだった。
「ねえ、どうしてくっついているのかしら。」
ヒマワリの言葉を合図に、ボクたちは首をまっすぐにもどした。
「わたしたちがサクランボを思いうかべるときって、二個くっついたあの形を思いうかべるでしょう? 一個でもサクランボなのに、どうしてかしら。」
たしかにその通りだ。サクランボと言われたら、二個くっついたあの形を思いうかべる。でも、売られているサクランボのほとんどは、つながっていない。
――ああ、そうか。
「二個くっついてるのがサクランボだと、思いこんでるんだ。」
トキワが、なるほど、とつぶやいた。
「我々は、いつも誰かを求めたがる。本当はひとりでできることなのに甘えてしまうのだ。もちろん、まったく頼らないのも危険だが、全てにおいて『おんぶにだっこ』では、成長は期待できない。それでも私たちは、楽なほうに逃げたがるのだ。心も同じだ。この形でなければ何もできない、と思いこみ、現実に目を向けないことで、ある意味、自分を救っているのかもしれない。」
そうね、と、ヒマワリは続けた。
「この『象徴』は、きっと、わたしたちの心の弱さを表してるのね。」
どんどん遠ざかるサクランボはを見ながら、ヒマワリは、まるで誰かに届けようとしているみたいに、そっとつぶやいた。




