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逆さまの迷宮  作者: 福子
第三章 ◆ 蛇道
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第四節 ◇ 時計 ①


 試験管を眺めながらトキワの背中をなでていると、手紙がボクの膝の上に落ちてきた。


「ずいぶんとせわしないな。最初のころに比べて、内容も難しくなっているんだ。我々の頭脳に休憩くらい与えてくれてもいいだろう。」


「まったくだね。『象徴(シンボル)』を見ながら、次の『象徴(シンボル)』の手紙を手にするなんて初めて。」


 トキワは、ボクの手からゆっくり離れると、開けてみろ、とボクをうながした。

 ボクはうなずいて封を切ると、手紙を読み上げた。



 ┏━━━━━━━━━━━┓


    『悪魔の足音』


    時を刻む音は、

  破滅へのカウントダウン


 ┗━━━━━━━━━━━┛



「トキワ、これって……、」


「ああ、おそらく、そら豆の時計だ。」


 あの時計は『コンクリートの道』の階段の途中にある、すべての階段が交錯する場所に浮かんでいた。でもここは『鉄錆の道』、つまり蛇の舌の道だ。ここにもそら豆の時計があるのだろうか。


「コンクリートの道にあった時計がこの道にもあるのか、それとも別の時計なのか、こればかりは行ってみないと分からないな。」


 トキワは、背伸びをするように翼をグッと広げ、ゆっくり折り畳んだ。


「それにしても、今回の手紙は、なんだか気味が悪いね。コンクリートの道で拾った時計の手紙には、出会いまでのカウントダウン、って書いてあったのに、この道の時計の手紙には……、」


「破滅へのカウントダウンと書かれているな。私も気になっていた。」


 イヤな予感がするけれど、トキワの言う通り、行ってみないと分からない。きっと近くに階段があるはずだし、その先には時計があるはずだ。


 トキワを肩に乗せて道を進むと、思った通り、試験管の『象徴(シンボル)』から少し進んだところに階段があった。長い長い階段を見上げると、トキワはボクを気づかって肩から降り、ぴょんぴょんと階段を上っていった。


 ボクは、ザリ……ザリ……と、気持ち悪い鉄錆のこすれる音がそこら中に響く階段を、転ばないように気をつけながらのぼった。


 あれ……、おかしいな……。


 自分の体の異変に気がついたのは、それから間もなくだった。

 どんなに階段を上ったり下りたりしても疲れたことなんてなかったのに、身体中からエネルギーが奪われていくような感覚に襲われている。息が切れて、心臓がバクバクして、目眩がする。


 めまい――?


 そういえば、トキワと出会う前に、目眩におそわれたことがあったような……。


 ボクはその場に座り込んだ。もう、立てない。


「トキワ……、助けて……。」


 トキワは、ボクのずっと先を飛んでいる。そして、どんどん小さくなっていった。



 ――おい、大丈夫か。


 遠くで、声が響いている。まるで、海の底にいるようだ。返事をしたいのに、声が出ない。ああ、そうか。ここは、声が吸収されるんだ。


 ――おい、しっかりしろ。


 ああ、トキワだ。トキワの声だ。


 体が鉛のように重い。手を伸ばしたいのに、まったく言うことをきかない。


「大丈夫か、しっかりしろ。」


 ああ、今度ははっきり聞こえる。


 ボクの意識は海の底から少しずつ浮き上がり、これまでのことを思い出していった。ずしんと重かったまぶたは軽くなって、ボクは目を開けた。


「気がついたみたいだな、よかった。まだ顔色はよくないようだが、大丈夫か? 君が倒れているのが見えたときは、心臓が止まるかと思ったよ。」


 エメラルドグリーンの瞳が揺らめいている。ボクは、トキワの背中をそっとなでた。


「もう、大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだから。」


 トキワは、眉をひそめた。


「おかしくないか。この世界は、疲れなど感じないはずだ。それが、気絶するほどの疲労を感じるというのは、どういうことだ。」


 ボクは、疲れを感じ始めてから倒れるまでのことをトキワに話した。


「ボクも、なんか変だなって思うけど、今は先に進もうよ。ヘビさんの舌を取り戻せば、コンクリートの道に戻れるから。」


 トキワは眉をひそめたまま、そうだな、とうなずいて立ち上がった。そして、ボクたちは時計を目指した。


「トキワ、見て!」


 遠くに時計のシルエットが見えた辺りで、ボクは、上を指さした。頭上には、鉄錆の道を歩く前にボクたちが歩いていたコンクリートの階段が浮かんでいた。


「あのコンクリートの階段から私たちを見たら、きっと、コウモリのようにぶら下がっているように見えるのだろうな。」


 ボクは、ギュッと拳を握った。


「こんな世界、早く出よう。」


 そして再び階段を上った。あと少しで時計にたどり着く。まだフラフラするけれど、少しでも早くこの世界から出るために、ボクは力をふりしぼって上った。



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