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039話 収穫

 明るい大通りを会話を挟みながら歩き、薄暗い小径へと何度も折れて辿り着いた小さな酒場。

 知る人ぞ知るといった隠れ家のような場所は洒落っ気など皆目不必要だとばかりに看板すら立てていない。

 扉に手書きで書かれた汚い字が店名なのだろうが、それも掠れて読めなかった。



「このような場所に入るのは抵抗がありますか?」

「いえ、特には」



 魔界の中でも美人の枠組みに入るだろうコラリエッタがルカへ心配をかけるも、湿気に塗れた陰気な場所に不釣り合いなのはコラリエッタの方であった。

 酒場に着くまで話した内容はコラリエッタが属する騎士団のことが主だった。彼女が団長を張る【ワルキューレ騎士団】はステラⅢ、医療を専門とした騎士団であり、人々の綺麗なところ、汚いところ、そして生死を何度も見てきたと言う。

 そういうこともあり、このような表の世界とは無縁のような場所にも耐性がついてしまったのだろうと、何の躊躇もなく店内へ踏み入るコラリエッタを見てルカは感じた。



「ご無沙汰しております、マスター様。バウム様は既にご来着ですか?」

「奥の個室だ」



 マスターと呼ばれる人物はコラリエッタの挨拶を無視し、顎でぞんざいに奥の部屋を示す。堅物という以外に形容出来ないほどに必要事項だけを放つマスターは、続けて入室するルカの姿にも一目くれただけで反応を一切表わさなかった。


 店内は外よりも薄暗く、客も二名しか見当たらない。裏社会に生きる人間のように生気は感じられず、しかしコラリエッタの美貌に下卑た笑みを浮かべるのは禁じ得ないようだ。

 マスターに礼を告げたコラリエッタは後続のルカに一度微笑むと奥の部屋へと足を進めた。



「お待たせ致しましたバウム様。本日はもうお一方、情報屋である貴方様にご相談がありまして、ご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「ん? あぁ、俺は構わないぜ。払うモンさえ払ってもらえりゃあな」



 扉を開き、ホールと部屋の境界で立ち止まり許可を取るコラリエッタ。コラリエッタの背で内部が見えないルカは相手の声にどこか聞き覚えと嫌な予感を感じたが「ルカ様こちらへ」とコラリエッタの導きに従い部屋へと入室する。

 果たしてその予感は的中し、見事なまでにルカは眉をひそめることとなった。



「よう兄弟、また会ったな」



 男小熊猫(ヒーレスパンディア)の男。詐欺紛いの押し売りと、甚だしい勘違いによって夜道でルカに襲撃を仕掛けた男。

 外套を被らず曝け出された全貌は屈強とは言えないまでも引き締まった身体をしており、その上にはいくつもの刺青。高価であろう銀の時計、指輪や腕輪などの数々の装飾品が取り巻いており、以前の正体を隠していた時とはまた異なる印象を与えるが、概ね方向性は変わっていない。

 見るからに野蛮といった容姿の男はくくく、と笑いながら手元のジョッキを煽った。



「……リッタさん、この男は止めといた方がいいと思いますよ……? 絶対騙されてますよ?」

「そりゃーないぜ兄弟!? 運命的な再会に酷い言い草だな!?」

「どこが運命的だよ、因縁塗れの間違いだろ」



 男と遭遇する度災難を被ってきたルカは男を指差し、コラリエッタへ注意喚起を促す。

 二人のやり取りに僅かに驚愕しながらも男の正面に座ったコラリエッタは、隣の席をポンポンと叩きルカを誘う。



「あらあら、顔見知りでしたのね。ですがルカ様、大丈夫ですわ。バウム様は相応の報酬さえお支払すれば清濁併せ呑み、きちんと仕事して頂ける御方ですわ。濁寄りで銭財には賤劣ではありますが」

「金に汚いのは否定しないが、濁寄りってのは頂けねえぞリッタさん!?」

「言葉の通りだろ」

「それは兄弟のタイミングが絶妙に悪いんだよ! 普段はそうでもないんだぜ?」

「どうだかな」



 コラリエッタの隣へと腰を落ち着けたルカへ猛抗議を行うバウムは酒が入っているのか、悪態をつかれながらも上機嫌に喋っていた。

 ぐびぐびと豪快に胃へと酒を落とし込み、空になったジョッキをドン、と机へと置いた瞬間、マスターが部屋へと静かに入室する。



「リッタは紅茶、少年は珈琲でよかったか」



 コラリエッタの目線による確認にルカは首肯し「ありがとうございます」とコラリエッタは優しい声音でマスターへと返答する。入店の挨拶から見て何度も足を運んでいるであろうコラリエッタはともかく、注文を聞いてもいないのにルカの趣向を把握しているのはマスターの鑑識眼というべきか。


 片手に持っていた酒ジョッキをバウムの眼前に置き、追加注文のタイミングまで完璧であるマスターに流石だなと感心を抱く。

 そんなルカの前に紅茶を、コラリエッタの前に珈琲が置かれ、マスターは無言で立ち去っていく。

 紅茶と珈琲のどちらからも心地良い香りと、温かな湯気が立ち上っていた。



(詰めが甘いよマスター……)



 ルカが内心ツッコミながら、コラリエッタが笑顔で取り替える。

 そんな様子に鼻を鳴らすバウムは、招集の目的である情報屋としての仕事を切り出す。



「さて、本題に入らせてもらうぜ。まずはリッタさんへの報告だ。俺も真剣に調べ回ってはいるんだが、悪いが今回も成果は無しだ」

「あらあら、一筋縄ではいきませんわね」



 優雅な動作で紅茶を口に含み、コト、とカップを置いたコラリエッタは小首を傾げながら談ずる。

 ぞんざいに椅子に背を持たれたバウムは脚を組み替え、報告を続けていく。



「長期間待たせちまってるのは申し訳ないんだが『例のブツ』の情報がどこの情報網にも一切引っかからない。疑うわけじゃないんだが、情報屋を名乗る俺でも名前すら聞いたことがないのに実在するのか?」

「断定は出来ませんわ。(わたくし)も先代達から引き継がれてきた医学古書で目にしただけですので……現在にもなって情報が一切ないというのは聊か不自然……本より存在自体が不明瞭な代物ですので、お気になさらないで下さいませ」



 コラリエッタの依頼とはどうやら何かを探しているような会話だった。ルカがいるためか、重要な単語を伏せながら話す二人だったが、雲行きが怪しいらしい。

 赤みがかった橙黄色の髪をガシガシと掻くバウムは苦虫を噛み潰したような表情を取っていた。



「とはいえ、流石に成果も得られていないのに報酬を貰い続けるのも夢見が悪い。毎回言わせてもらってるが、何か進展があるまで無報酬ってわけにはいかないかリッタさん」

「いいんですの。必ず事態が急変する時が来る筈ですから」

「また『御告げ』か? 女子ってのは好きだねぇそういうの」

「御告げ?」



 情報屋としての自負を持つバウムはこれまで何度も報酬の受け取りを拒否しているらしい。しかし事態の進展を確信しているコラリエッタは報酬の支払いを継続、その理由として飛び出た単語に無言を貫いていたルカも反応を示した。



「占いのようなものですわ。団員様に天からの御告げを詠める方がいらっしゃいまして、話半分に聞いてはいるのですが、的中率が申し分ないのですのよ」

「未来を告げられるとその通りに動く心理、みたいなやつじゃないのかよ?」

「そうかもしれませんわね。ですが例え当たらなかったとしても、(わたくし)の可愛い団員様ですので信じてあげたいと思っておりますわ」



 人は未来に不安を抱える生き物だ。己の未来を知ることが出来ればと思う者も少なくないだろう。

 占いとはそういった人々の未来の不安を解消するために存在し、一方で悪き未来の警告及び良き未来への誘導を兼ねている。未来を詠まれたとあれば実現のため行動することによって、あの時の占いは正当だったと認識する人間の真理を説いているのだ。


 しかしコラリエッタはそんな胡乱げな眼差しを向けるバウムの言葉を呑み込み、団員を信じる道を選ぶと公言する。それは騎士団長として信頼の証であり、何よりコラリエッタも女の子だということだ。



「団員想いだねぇ。俺にはその気持ちさっぱりわからねぇが」

「信じるという行為が、時には未来を変える大きな力になることもあるのですわ」

「ふーん、ま、俺からの報告は以上だ。他に何かあるか?」

「いえ、大丈夫ですわ。引き続きよろしくお願い致します」



 座ったまま深くお辞儀するコラリエッタは淑やかであれ、猫の耳はどこか寂し気に萎れている気がした。

 コラリエッタとバウムの間に湯気が立ち上り、バウムは半分ほど一気に喉へ酒を流し込み、眼前の珍客へと仕切り直した。



「次は兄弟だな。何やら聞きたいことがあるって? 都市外から都市内暗部まで情報網のパンダ、バウム様にお任せよ!」

「情報網のパンダって威厳でないな……あんたが追っていた少女について知りたい。一体全体何をしたら第一級指定の犯罪者になるんだ?」



 どかっと座りどんどこいと言うようにバウムが諸手を広げて意思表示をする中、ルカがシロと名乗る少女について話を切り出す。

 話に一区切りついたコラリエッタがカップを手にして口付けるが、ルカの相談の内容にピクリと耳が揺れ動いた。



「あー、兄弟忠告しておこう。あの女と関わるのは止めておけ。俺はあいつと所属騎士団が同じなんだが、クソポンコツパンダの皮を被った大犯罪者だ。何も出来ない振りをして土壇場で団長を殺し、要人を誘拐して逃亡し続けているイカレ女だよ。関わらない方が身のためだ」



 厳しい評価に警告。ミュウから仄聞した情報に加え、更なる罪の告白にルカの左胸に黒い靄がかかる。

 希少種(ポンコツパンダ)、要人、逃亡、全ての情報と生活環境が一致してしまう。少なからずあの少女のことではないかもしれないと無に等しい期待を抱いていたのは間違いないが、それも同騎士団であるバウムの証言が見事に断斬してのけた。



「そうは言うが、それじゃああんたはなんで追いかけてたんだ?」



 不干渉を推奨するバウムが言葉とは裏腹に追蹤していた理由をルカは突き付ける。



「騎士団の責任だ。大犯罪者が都市に潜伏していては民も安心出来ないだろ?」

偽物銃(レプリカ)を売りつけて、話も聞かずに襲いかかってくる奴が住民の心配なんて偽善のようにも聞こえるけど?」



 偽物銃(レプリカ)の売買が騎士団周知のものであるのかは判然としないが、少女を追っていたのは騎士団としてのケジメだともっともらしいことを理由にするバウムを、悪の面しか知らないルカは非難する。

 しかしバウムは飄々とし、ルカの非難にも意を介さない。



特殊電磁砲(エネルギアオヴィス)のこさ言い訳は出来ないな。あれはかなり割りの良い依頼だったから、ついな。襲いかかっちまったのは悪いと思ってるよ。未だ上手く逃げ回ってるあの女をようやく見つけたって時に限って兄弟と出会っちまった。千載一遇の好機を逃せまいと、かなり気が立ってたんだ」

「その割に俺しか狙ってなかったよな!?」

「逃げ足はえーのなんの。正直逃げられそうだったから見失った口実が欲しかったのは俺等だけの秘密だぜ?」

「だからなんで急に距離間近くなるんだよ! ……はぁ、俺はただのとばっちりだったってわけか」



 薄暗い室内で明朗に当時の心境を語るバウムだったが、ルカは自身が本当に間の悪い瞬間に居合わせたのだと辟易した。

 しかしコラリエッタとバウムの会話も含め、バウムが根からの悪人ではないかもしれないと感じ始めるルカ。それでもバウムを信用するには親密度が(マイナス)に振り切ってはいるが。


 干渉の忠告を受けた身であれこれ詮索するのも不審がられると判断したルカは、話の方向性を変えてみることにした。



「いくつか質問したい。あんたは本当に彼女がやったって思ってるのか?」

「俺は事件当時別の仕事を受けてたから何があったか知らない。真実なんて俺が考えたところで無意味だし、深く詮索するつもりもない。無駄に時間を使うくらいなら依頼を受けて金を稼いでた方がマシだ」

「同じ騎士団の仲間じゃないのかよ……」

「仲間、ねえ……興味ねえなぁ。騎士団も同族の数とそこそこの騎士団階級で不便なく暮らせるだろう、ってだけで選んだしな。俺だけいつも別依頼で浮いてるし、特段仲間意識はない」



 自虐を織り交ぜ面白おかしく笑う。騎士団の必要性をただの威を借るだけの枠組み程度にしか捉えておらず、心から仲間や友に関心がないようだった。

 身を飾る装飾品がシャラシャラと発する音は言外に、信頼出来るのは金だけだと言っているのかもしれない。



「彼女が団長を殺害したと仮定して、それだけの実力があるのなら逃走しないんじゃないか? 団長がどれだけの実力者か知らないから断定は出来ないが、返り討ちくらいは出来るように思えるが」

「おお、そりゃ名推理だ兄弟。だが俺は探せ捕らえろと言われたからやるだけで、それも俺の領分じゃない。言っただろ? 起きたことが真実であって、見当違いなことを考え悩んでも時間を無駄にするだけだ。自分に無関係な人間を気にかけるほど自分の時間の価値は下がっていく」



 バウムの心には何一つ響かない。

 手を伸ばせば救えるかもしれない、考えを変えれば救われるかもしれない。そのような不確定な未来を思案するだけ己に害を齎すと、私利私欲のために生きるバウムは持論を曲げることはないだろう。

 過程か、結果か。バウムは圧倒的後者の現実主義なのだ。

 

 しかしルカも譲れない。

 ()()()()()()()()()()()ルカには。



「子供達は誘拐されたんじゃなくて、望まれて匿ってる可能性は?」



 要人、子供達。

 要人としか発していない筈のバウムの情報にすり替えられた人物像。

 誘拐、秘匿。

 魔界の住人が誰一人知らない情報を持つルカは、既に無関係ではなかった。

 故に。



「おい、兄弟――何を知ってる?」



 懐疑が湧き立つことも道理だった。

 ルカと睨め付けるバウムを剣呑な空気が席巻する。

 握るジョッキに亀裂が入り、色の判別がつかない液体が机上に広がっていく。



「バウム様」



 物騒な空間に落とされる優しい玉音の声。

 眼球だけでルカの隣を視るバウムへ、コラリエッタは無言で訴える。

 止めましょう、本日は争いにきたのではないのだと。

 本よりコラリエッタ達は客として訪問しているに過ぎず、バウムとしても悶着を起こし軋轢を生じさせる必要性は限りなく低かった。



「……まぁいい、今回は聞かなかったことにしてやるよ。けどな兄弟、あんまり亜人族(たしゅぞく)を信用するんじゃねえぞ。故郷でどうだったかは知らないが、人族の立ち位置を理解しておかないとただのお人好しはいい風に利用される。リフリアで生きていくためには順応は必須だぜ?」

「ルカ様、そろそろお暇しましょう」



 空気感を読んでのことか、これ以上得られるものはないとの判断か、コラリエッタはルカへ退出を誘掖した。席を立つ二人の姿に目を細め、バウムは今一度ルカへと告げる。



「繰り返しになるが、奴と関わることは俺はお勧めしないぜ。何を信じるかは兄弟が決めりゃいいが、他者に自分の人生を左右されるなよ。賢く生きろ」



 誓印での会計を机越しにバウムと瞬間で済ませ「マスター代わりの酒くれ!」と野太い声を背中に浴びながらコラリエッタはマスターとも会計を済ませて店を出る。

 日が傾き、狭い路地裏の形に切り取られた空は赤い。

 やや臭気が立ち込める路地裏から、二人並んで大通りへと足を動かし始めた。



「得たい情報は手に入りましたか?」



 ふわっふわっ、と揺れるドレスの前で手を組みながらコラリエッタはルカへ進展を尋ねる。



「そうですね。ありがとうございました」



 これといって確定した情報が手に入ったわけではないが、シロを名乗る少女が都市から追われている理由が、そして張本人だということが判明しただけでも収穫はあったとみてもいいだろう。機会を提供してくれたコラリエッタとの出会いと心遣いに感謝を述べた。



「案外ルカ様とバウム様は似た者同士かもしれないですわね」

「ちょ……冗談でもやめてくださいよ。なんであんな人と……」



 ふふっといじらしく笑うコラリエッタは、徐々に大きくなる都市の人々の喧騒から目を背けるように夕陽に焼かれた空を仰ぐ。



「自他目的は異っても信念を貫こうとする御方は輝いて見えるものですわ。それが出来る御方というのは都市を見ても、世界を見ても極僅かですから」

「信念、ですか……リッタさんに何が見えているのかはわからないですけど、俺はそんな大層な物持ち合わせてないですよ。サキノ……知人と比べたら俺なんて天地の地を訳も分からず彷徨ってるだけの存在です」



 周囲に合わせ生きてきた受動的な己にそんな大仰な物がある筈がないと、サキノの生き様を見てきたルカは言い切る。



「あらあら、無自覚でしたの。これはまた大物ですわね」



 それでもコラリエッタはゆらゆらと黒い尾を靡かせながら、無自覚であることにルカを更に称賛した。

 自覚がないばかりに、ありもしない度量を褒められるルカは少し体がむず痒く感じる。そんなルカの様子を眺めるコラリエッタとルカは大勢の亜人族が往来する大通りへと直面する。



「では不躾ですが、(わたくし)からも少しばかり進言をさせて頂きたいと思います。ルカ様が先程お聞きになっていた話なのですが、バウム様の仰る通り、平穏でありたいのであれば関与しないことを私も推奨致しますわ」



 世間一般的な見解としては正しい選択であり、バウムが言ったように「賢く生きる」には取捨選択も必要なのだろう。悪事を働いた人間を擁護する方が珍しく、また自身も非難される恐れがあることに誰が進んで首を突っ込むだろうか。

 己の安全を第一に考えるべきだとルカを諭すコラリエッタだったが。



「ですが(わたくし)が団員様を信じるように、信じるべき者はルカ様の目で見て、感じたもので間違いないと思いますわ。誰に決められるでもない、自分の道を征くことが偉業の第一歩ですので」



 最後に一番の笑顔をルカへ向けたコラリエッタは、ルカへ幸樹の方角を示し深々と頭を垂れた。

 行き交う人々に接触しないよう右へ左へと進路を確保するルカの背中で、ぽつりと本日一番の情報が落とされた。



「期待、してますわよルカ様。――――様をよろしくお願い致します」

「……え?」



 ルカが背後を顧みた時、そこには女猫人(シーキャット)のコラリエッタの姿はなく雑踏に呑まれていた。

 立ち止まってコラリエッタの黒髪を探すも、人の波に逆らうことも簡単ではなく、亜人族達の嫌厭とした苛立ちが逆行を許さない。


 ただでさえ混雑した大通りに諦念が支配したルカは、橙黄色の瞳を引き連れながら流れに乗り、その場を発ったのだった。


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