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174話 【白薔薇御前】の成長

 茫漠の地での行方不明者の救出とは往々に困難を極める。ほんの僅かにでもすれ違いが起きれば永遠に再会することすら出来なくなる可能性を孕んでいるのだ。

 しかし時として奇跡的に発見に至る場合と言うのも見受けられるのは何故か。

 それは遭難者、そして捜索者が同じ目的を持って、同じ場所へと向かう事で再会確率を格段に跳ね上げているからだ。一朝有事の際は事前にとある場所へ向かおうと待機場所を予め定めておく事で、不時の厄災リスクを軽減することが可能となる。


 そして此度。ルカとサキノは両者間で口裏を合わせていた訳ではない。

 しかし延々と続く樹海で指標となるべき建築物は存在しない中、冷静に最も救出確率の高い選択を弾き出した。それは互いの思考の先の帰結を理解しなければ到底不可能な合致であり、元々の任務の目的の遂行――禁足地の攻略という不明瞭な目的があったからこそ導き出すことを可能にした必然だ。

 そんなサキノの胆斗の如し提案に驚愕を瞳に宿す一同だったが、ルカの明確な居場所が分からない今ではより最善の策などある訳も無く。



「つまりルカ君が通過した痕跡を探しながら最速で先を急ぐってことだね?」

「うん。ルカが私達に向けて何も痕跡を残さない筈がない。だから私達はルカを探して当てもなく彷徨うのではなくて、先を急ぎながら痕跡を探す。何らかの痕跡が認められれば、私達はその痕跡に沿ってルカの救出を行う。どうかな?」



 ぐるりと皆の顔を見回すサキノに、反論の声は上がらない。

 それは一種の責任。提案も発言も、責任が伴って然るべきだ。誰もが臆している訳ではないが、己の発言によってルカの命運、そして皆の行動を変えることになる。

 しかし決してサキノは臆さない。ルカを救うためならばどんな責でも負う覚悟が彼女にはあった。



「ウチは賛成。【クロユリ騎士団】でもそうすると思う」



 騎士団としての先輩である【クロユリ騎士団】幹部レラのお墨付きをもらい、一同の行動方針が決定した。



(まさかウチが知恵を貸さずに済むなんてね~。立派立派)



 幾度となく危機に直面した事の有る【クロユリ騎士団】。先駆者として知恵を貸す事も出来たが、自力で、それも司令塔を失って尚、最善手に辿り着くことの出来た新米騎士団【零騎士団】の底力を見たレラはにっこりと微笑んだ。



「そうと決まれば急ぎましょう! まずは()達がこの魔物群を突破しない事には作戦会議も水の泡なのですが……」



 意識を避難所の外に向ければ、依然としてドームを破壊しようと轟音が響いている。

 ルカと合流するにしても先を急ぐにしても、避難所を出た矢先に対峙しなければならない不死の魔物を相手にどう突破を計るか頭を悩ませるマシュロだったが。



「妾を見くびるでない。一時の安寧の為にこのような苦肉の策を取った訳ではない。会すれば会するほど一網打尽に出来る、それが妾の能力である事を忘れたか?」



 不敵に笑うミュウに策あり。

 略奪闘技(ルーティングゲーム)で占領ポイントに会した【クロユリ騎士団】団員達の結末を知る一同は、そのミュウの言葉を瞬時に理解した。唯一ルカとの戦闘に勤しみ何も知らないレラだけが首を傾げていたが。

 良いか? とミュウの最後の確認に一同は首を縦に振り。



開花(アンシシ)



 ガリガリ。雄叫びを上げるリザードマンや半身を失った亡霊達がドームに殺到する中、内部で響いた清雅の呪文を合図に糸のドームがまるで華の開花のように蓋を開けた。



『ギギャアアッッ!?』

『…………』



 糸の濁流。ドームの容積を遥かに超える糸の大波は魔物達を纏めて呑み込む。

 その中心地から生まれるのは勿論【零騎士団】達。



「行くよっ!!」



 早急に燃ゆるサキノの声を皮切りに、一同は糸に呑まれた魔物を足蹴に、または糸の被害が及んでいない唯一の足場を見極め一帯から脱出を図る。

 不死の亡霊達は糸に絡め取られ一歩も動けず、息あるリザードマンやハティは糸の中で藻掻き憤怒の声を浴びせるだけで通過していくサキノ達を見送る。



『キシャアアッ!』

重力(グラビティ)!」



 空を飛行していた三体のグリフォンや距離を取って潜んでいた数少ない魔物が追跡を始めたが、マートンの重力に圧し潰され後続を断つ。

 一瞬にて魔物の密集地帯を切り抜けた先は静かな木々の道。散発して現れる魔物を退けながら全力で一行は先を急いだ。



「どうやら付近にいた魔物は全てあの地へ集まっていたみたいですね。ミュウさんの粘着糸がなければ全ての魔物と亡霊(モルタリス)を相手にしなければならなかったと考えるとゾッとしますね……」

「相手が不死ならば身動きが取れぬよう捕えれば良いだけじゃ。不死でなくとも魔物程度の足止めは容易い」



 一度口論になったことも、リキッドリザードの出現や亡霊(モルタリス)の発生によって自然と曖昧となった両者はこれ以上触れなかった。

 仲裁に入ったマートンも、両者が頓着しないのであれば無理に掘り返すこともないだろうと、何も言わずに最後尾を追いかける。



「サキちゃんさ、存外に冷静でウチ驚いちゃったよ」



 冷静を失った一団は必ず崩壊する。何度も危地に赴き、他騎士団の崩壊を見て来た【クロユリ騎士団】幹部のレラは戦場における生殺の掟を知っている。普段はおちゃらけて真面目というものが欠如しているレラであっても、ここ一番という時には至って冷静。【クロユリ騎士団】団長のソアラ・フリティルスもレラの泰然性を認めている。それは能力を隠秘している余裕からなのか、元々の肝が据わった性格からなのかはわからなかったが、レラを騎士団の幹部に抜擢したのは俯瞰的に場を見る能力が長けているからだった。

 ソアラに直接言われたわけではないが、レラも自然と己の役割を理解している。だからこそ誰よりも冷静でいなければならず、今回のように他騎士団に協力している時は最後の砦でなければならない。

 そんな己の手を必要とせず、ルカを失った一団で誰に言われるでもなく領袖を務めたサキノを、隣で並び走るレラは評価した。



「私の油断でルカが分断されちゃったから悲嘆しかけてたけれど……後悔してルカが帰ってくるのなら幾らでもする。でも現状はそうじゃない。悲嘆は何の解決にもならない。そんな無意味な自己憐憫に思考と時間を費やすくらいなら、最優先にすべき事がある。そうでしょう?」

「うん。その切替は中々簡単に出来る事じゃない。でも混乱に呑まれた戦場では仲間や自分を守るための何物にも代えられない一番の武器になる。大切に思う人達の為にも自若は絶対に忘れないで」

「クロユリで学んだこと、無駄にはしないから」

「うんうん。成長したねサキちゃん。それじゃ、急ごっか!」

「そうだね!」

(今行くからねルカ……!)



 経験は糧に。

【クロユリ騎士団】で偉大な先人達の背を見て来たサキノは改めて【クロユリ騎士団】の、そして団員達の優秀さをひしひしと感じた。

 そしてこれからは自分が。

 大切な人達を、大切な居場所で。

 背を追っていた元騎士団の幹部と隣に並び、更なる加速で進行を続けていくのだった。


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