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172話 戦場に不要なものを持ち込むべからず

『ヒンドス樹道は一種の生物のようだった』

『あの森には()()がある』


 昔日、英雄に憧れ新境地の開拓という名目で禁足地ヒンドス樹道に騎士団総出で立ち向かい、まんまと返り討ちに遭った騎士団員のたった一人の生き残りはそう語る。『ひとたび足を踏み入れたのなら命は既にないと思え』を提唱したのも彼であれば、ヒンドス樹道の恐ろしさを誰よりも知るのは彼だろう。

 そんな男がヒンドス樹道を最も狡猾だと感じたのは、魔物にも意思はあるというのに森が魔物を指揮するという点だった。言わばそれは洗脳――傀儡に近いと男は感じた。

 魔物だけでは事足りない知能を補い、確実に侵入者を仕留める。それは時として弄んでいるかのようで、楽しんでいるかのような『狂気』を孕んでいた。藻掻き苦しみ、帰還を最後まで信じ、活路を切り拓こうと足掻く侵入者を『掌で躍らせる』。そして決して逃がさず、心を折り、最後には白骨化するまで見届ける。

 そのようにヒンドス樹道の恐怖は代々受け継がれてきた。


 唯一の生き残りの男は奇跡的に――いや、必然的に()()()()()のだと感じている。

 ヒンドス樹道の恐ろしさを広めるために。


 その男の伝記の最期にはこう書かれている。


『もし万が一迷い込んでしまい生還を望むのならば、決してヒンドス樹道を怒らせてはならない』


 と。




± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ±




「ふっ!!」



 囲まれていては自由に動けるものも動けないと判断したマシュロは戦端を切り拓く為、特大の電磁砲を正面に向けて撃ち放った。蒼色の弩砲が広範囲に直線を描きながら驀進し、小盾を構える三体のリザードマンへと直撃する。

 手応えあり。回避の隙を与えない先手必勝はマシュロに期待感を沸き登らせたが。



『グルァァッ……』



 盾を破壊し腕を火傷こそしているものの、本体に致命的な損壊は認められなかった。



「なっ!? その程度ですか!?」



 力の受け流し。知力と武力に特化したリザードマンは直進してきた小盾の角度を調整し、電磁砲の威力を上部へと受け流したのだ。歴戦の戦士ですら躊躇する決死の判断に慄くマシュロを他所に、全身を武装したリザードマンは地面へ手を突っ込み新たな盾を手にして突貫を始めた。



「一撃で倒せないのならもう一撃ッ!」



 規模が小さくなった電磁砲を今度は回避し、素早い動きでマシュロの懐へと飛び込んだ二体のリザードマンは阿吽の呼吸の如く一線を斬り結ぶ。



『ガアッ!?』



 しかし地帯全体が影場の禁足地では常時発動している絶対防御の前にはその攻撃も塵芥に過ぎず、マシュロの日傘と左腕に阻まれ困惑の声が漏れた。



「リザードマンはまっかせて~! よいっ!」

『ガアッッッ!』



 上方から降りかかる翡翠の影にリザードマンは瞬時に距離を取り、レラの攻撃を躱す。続けて迫り来る凶刃を三体のリザードマンは鮮やかな剣技をもって交錯を続けた。

 速度と膂力が売りのレラの攻撃は、次々とリザードマンの鎧を剥がし血線を刻み込んでいく。やがて一体のリザードマンが波濤の連撃に武器を折られ、首が飛ぶ。そんな劣勢を見兼ねたバステトは軽やかに木の上へ飛び移り、レラの視界を奪って一瞬の隙を生み出そうと木上から跳び発つも。



「させませんよ!」

「ないっすマシュロちゃん! ありがとねんっ!!」



 マシュロの電磁砲が宙で自由の利かない闇猫を焼き尽くし、レラの攻撃が加速を始めた。



『アガッ!!』

『ギギャアアッッ!』

「ちょいちょいちょい、三対一はズルやて! 僕の重力が魔力にしか反応せんこと理解しとんか君等!?」



 そんな激戦の中に飛び交うのは情けない悲鳴。巨大な槍を防御に追われながら回避を敢行していくポアロは二体のリザードマンと宙から隙を狙う獅子鷲グリフォン。三体のバステトを撃ち落としたポアロの魔力に反応を示す重力を見切り、魔力を必要としないリザードマンが前駆で勝負を仕掛けてきたのだ。

 魔物に理解出来ているのか本能なのかはわからなかったが、明確に役割を分担して襲いかかって来る知力にポアロは驚いていた。



「ま、どっちでもいいのだけれど」

『ガッッ!?』



 しかしポアロ・マートンにとってはそのような適材適所は意味を成さない。

 ポアロと入れ替わりで肉体を手にしたマートンは、無魔力に頭を垂れる重力を解放した。平伏しながら動揺するリザードマンの首筋を狙い一突、苦鳴を漏らしながら血を吐き出しリザードマンは屍と化す。

 もう一体も立て続けに屠ろうと視線を向けた瞬間、上空から鋭敏な凶器と化した羽が飛来し、マートンは一時撤退を余儀なくされた。



「おっと。適度な距離を保ちながら狙ってくるグリフォンは厄介だね」



 重力で縛り付けたリザードマンか、それとも上空で仕留めさせまいと邪魔をしてくるグリフォンが先か。視線を交互に走らせるマートンだったが。



紫紋(しもん)



 騒然とする戦場に落とされる透き通るかの如く玉声。剣戟や奇声に紛れ、聞こえる筈の無い雫の音ですら聞き取れるほどの異質な空気感が一人の少女の周囲に拡散していく。

 若紫色の球状が範囲を拡大していき、グリフォンが球状の範囲内へと身を収めた。

 その瞬間ゾクッ、と鷲の体内に粟立ちが走るが時すでに遅く。



明鏡紫水(めいきょうしすい)



 刀が鞘の内部を滑る音と共に抜刀。十メートルの上空を浮遊していたグリフォンの首が、若紫色の閃光に断ち斬られた。

 そしてもう一度鞘に納刀し、サキノは木間を跳躍。更に上部に控えていたグリフォン二体を同等の明鏡紫水で連続撃破する。



「グリフォンは任せて。全部掃討するっ!」

「頼もしいね。僕も負けていられないな」



 サキノの気炎に感化され、マートンは縛り付けたリザードマンと新たに戦場へ駆けつけた魔物を相手取り始めた。



『ギアッッ!』



 下方から、下方から。戦場で唯一無二の隠蔽能力を誇る影狼ハティの爪が、ルカの機動力を狙い影から振るわれる。防戦――回避で手一杯のルカへここぞとばかりに攻め立てる二体のハティは連携を駆使し、また一枚ルカの薄皮を撫でていく。

 次こそ当たる。その次こそ当たる、が何度繰り返されたかは定かではないが。



「影から出てこない事にはやりようがないんだよなぁ。今は他の魔物を皆が引き付けておいてくれてるから何とかなってるが……」



 ぽつりと呟いたルカの瞳は橙黄色。視野広角によって未来を見通すルカに、ハティの不意を衝く攻撃は当たらない。それが例え自身の影場からの奇襲であろうと、木々の影から飛び出てくる攻撃であろうと。

 ルカの魂胆は仲間の元へと向かせないよう、ギリギリの防戦を()()()こと。実際己がいの一番にハティと対峙したが、想像以上に影場に潜り込み奇襲を主体としてくるハティの存在は厄介だ。他の魔物と敵対中では、ハティの突如の奇襲まで対応出来ないだろう。

 ハティの一手が魔物達にとって敵対する相手の隙を作り出す決定打(ピース)であることは明白だ。合同任務でステラⅢ以上の戦士達が挙って盤面をひっくり返された中層の魔物相手に【零騎士団】がやり合えているのは、混沌と混乱を生み出すハティの機能停止がやはり大きかった。

 そのため、交戦中の仲間達の元へとハティを向かわせないよう遺憾を残して引き付けておくこと、それが影場から出てこないハティを倒す以外で出来る事だった。

 


『ガルァァッ!』



 またもハティの爪がルカの足元で遊ぶ。

 惜しいのに当たらない。その絶妙な匙加減がルカを断念出来ず縫い付けられている事にハティ達には気が付けない。

 だからこそ溜まる苛立ち(フラストレーション)。一体のハティが業を煮やし、回避のために宙へと跳んだルカへと遂に全身を現し牙を剥いた。



「これで一体ッ!」

『キャ――』



 そんな酌量をルカは見逃さない。逃がせない最大の好機に、一体の狼を狩る時にも一体の獅子は全力で。地面から飛び出たハティに既に向けられていたのは黒の翼を生やした一丁の特殊散弾銃。

 まんまと罠に誘い込まれたと悟った時には全身に幾つもの風穴を開けられ、ハティは地に沈んでいた。

 そんなハティの絶命に焦燥を覚えたのは他の魔物達だ。一方的な詰め将棋を行っていた筈が、気が付けば形勢が覆されている。

 戦場の趨勢を窺っていた二体のバステト、新手のリザードマン、サキノの領域から逃れるように高度を上げていたグリフォンは、一斉にルカへと照準を変更した。



「ぅえっ、いきなり危険視してきやがったか! やっぱりハティはコイツ等の肝か!」



 骸となったハティを身体強化で蹴飛ばし戦場の片隅へ。混戦状態であればあるほどに足場の確保が肝要になると意識しているルカは戦場の整理を怠らない。

 ハティが見事に遺体置場に突っ込んでいく様を横目で見たルカは、しかし僅かな違和感を覚える。



(気のせい……じゃない気がするんだが……まさかミミック……? それにもう一体のハティもどこにっ!?)



 以前禁足地に踏み込んだ時ほどの違和感ではない。魔物の遺体も眼に見えて増えているわけではないのだが、妙に違和感が募って仕方がなかった。

 同時に相手取っていたもう一体のハティの猛攻も鳴りを潜めており、思考が落ち着く暇も無い。そんな禁足地の手管を思慮する余裕など与えないとばかりにルカへ多数の魔物が襲いかかる。

 が。



「来ることが分かっているのなら掃討も容易いね――明鏡紫水ッ!」



 ルカの背後へと着地したサキノは己の領域に踏み込んだ魔物へと刀を遠距離から一閃。一体のリザードマンは咄嗟に防御を取り腕が吹き飛んだだけに終わったものの、残りの魔物は揃いも揃って両断された。

 


「ありがとうサキノ!」



 礼を告げながらもルカの心は此処にあらず。間断なく攻め込んでくる魔物を片手間に、戦場を四顧し違和感の正体を探る。

 そんなルカが見たもの。やや疲労の見えるサキノの奥、距離が離れた一人の仲間の足元で動きを覚える一体の死体。



「ミュウ! ミミックが紛れこんでる! ミュウっ!!」



 一人距離を持って、奇声を発するマンドラゴラと少数の魔物と武器を交えるミュウにその声は届かない。




(少々戦場が荒れてきたの。戦闘音が更なる魔物を呼び、収拾がつかんくなっておる。この程度の魔物ならば蹴散らす事も容易いが今回妾は観測者。適当に魔物を相手にしながら奴等の動きを観察させてもらうとするか)



 銘々が窮地を打破しようとする一方、ポアロが懸念していたミュウの計略。それは()()()()()事。禁足地と言う本物の危地で、全員が窮地に陥った際に仲間を犠牲にする人間としての薄弱を暴くための傍観。ミュウが今回禁足地への同行を呑んだのも、ルカの人間性を暴くことが全てだった。

 だからミュウは隙を見計らい手を抜くことを己に課していた。猫の手でも借りたい状況で最大限彼等を戦わせることで、心身ともに疲弊を負わせることが出来るのだから。


 そんな謀を仲間達も魔物も知る由も無く。

 奇声を発するマンドラゴラを完全無視するミュウへとリザードマンが得物を交錯させ、ルカの手から逃れたハティが影場から爪を突き出す。



「っと、ルカ・ローハートとやり合っておったことくらい見ておるわ。逃げ出したこともな」

『キャンッ!?』

『ガッッ!?』



 後方へのバックステップと同時、ハティの手に糸を巻き付け影場から引き摺り出す。まるで釣りのように地面から釣り上げられたハティは、技術を頼りに剣を振るうリザードマンとの衝突を誘発された。



「そぅら、他愛もない。二体揃ってその程度か、串刺しじゃ」



 味方同士の衝突によって奇襲も無駄に終わり、ミュウが魔鞭を後方に引き絞る。リザードマン、ハティ、二体揃ってその程度かと悪態を衝き、終焉を迎えようとした――その時。

 ミュウの後方でゆらりと動く俊敏な影。



「は」



 首の骨をへし折り、あらぬ方向を向いたリザードマンが刺突の構えを完了させていた。

 そう、ここは中層。ミミックがいるという情報もなければ、低層で侵入者を弄んでいたミミックが生息する可能性が低かったのだ。

 しかしそれはあくまで可能性の話であり、低いというだけだ。可能性はゼロではない。ただ力や速度しか取り柄の無い低層の魔物と同棲しているミミックが、中層の魔物に適応し、紛れている訳が無いという偏見が此度の隙を生む。



(ミミックがおるなぞ聞いておらんっ!? 間に合わ――)



 背後から飛来する鋭い銀閃。

 その銀閃は血を弾いた。



「あぎっっ!?」

「マシュロ・エメラ!?」



 ミュウとリザードマンに擬態したミミックの間に介入したのは、ルカの焦燥を一早く感知し、ミミックの姑息さを身を持って経験しているマシュロだった。

 一点突破を計る刺突を背で受け、絶対防御を発動させているマシュロの肩は浅傷を刻んだが、ミュウへは届かなかった。 振り向きざまに『アストラス』で打擲し、リザードマン程の耐久を持たないミミックを吹き飛ばす。

 マシュロの介入に面食らったミュウだったが、眼前に詰め寄るリザードマンとハティを慌てて糸で縊り倒した。



「ぐぅ……」

「お、お主……」



 生まれた些細な隙。肩を押さえながら膝を衝くマシュロの姿に魔物の軍勢は、鋭い眼光をマシュロへと向けた。治療、回復する時間など一切許さない。蹲ったマシュロを包囲するかの如く飛びかかる。

 新手に次ぐ新手に流石のミュウもマシュロを庇いながら戦闘へと踏み切った。



「チッ!」



 ミュウは苛立っていた。

 どうしてルカに感化された人物は自身の犠牲も厭わずに身を挺するのか。

 親、近縁、世間、芸能。全ての人間に失望してきたミュウは、自己を犠牲にして他者を庇う、という行動が理解出来なかった。放っておけば失態を侵した自分自身だけが傷付くだけで済む話なのに。



(どうしてこんなに苛つく!?)



 そして何より自身の不甲斐なさを。

 とっくに自分自身の中では答えが出ている筈なのに未だ理由をつけてルカを知ろうとする己に。

 だから仲間を偽りだと呼称し、本音で歩み寄れないことに。

 そんな偽りの仲間であっても傷付けば心が痛むことに。

 己が仲間を傷付けた事実に。

 誰も信用していない筈の己が守られていることに。



(どうしてこんなにっ!!)



 攻め込んでくる魔物に鬱憤をぶつける。

 助力に駆け付けたマートンが尻込みしてしまうくらいに。

 ミュウ・クリスタリアの心はとうの昔に荒んでいた。



「良いか、マシュロ・エメラ。他者に守って貰わずとも妾は一人で生きていける! お主の自己満足の為に妾を利用するな!」



 だから強がってしまった。

 自分の生き方(これまで)を否定されたくなくて。

 自分の(マイナス)を憐憫だと思われたくなくて。


 そんな都合はマシュロにも、マートンにも理解されるわけが無く。



「え……?」

「ミュウちゃん流石にその言い方は無いだろう。君を庇うためにマシュロちゃんは身を挺して傷付いたんだ」

「だから妾を守らんで良いと言っておろう! それで妾が傷付けば妾の責任じゃ!」

「マシュロちゃんの仲間意識を自己満足だと言うのがおかしいと言っているんだ」

「どうして自身のせいで他者が傷付く恐れを妾が心配せねばならん!?」



 魔物を相手取りながら始まる口論。板挟みに合うマシュロは傷に苦悶しながらも視線を右往左往。

 怪しくなる雲行きに魔物達の攻撃の勢いは苛烈さを増す。



「ミュウ! マートン! 今は言い争ってる場合じゃないだろ! 話はこの状況を何とかしてから――」



 ドォン、ドォン! とルカの制止を遮るように連続微動する一帯。



「きゃっ!? な、何!?」

「全部全部見てるって……? とことん俺達を追い詰めようってことかよ。リキッドリザードめ……」



 低層で見たリキッドリザードよりも一層存在感を増したリキッドリザードが、声も無く一行の前に姿を現した。頭長高五メートル、全長十メートルにも及ぶ巨体はまさに名の通り液状。牙も、爪も、反対側がよく見える透明状のドラゴンモドキは、まるで仲間割れの時を見計らってきたかのようだった。



「レラ! 俺とサキノがリキッドリザードを食い止める。その間に進行ルートの魔物を一掃してくれ!」「了解~! タオゼント・レーゲンいっくよぉ~!」

「マートンはマシュロの治療の時間を稼いでくれ! 治療が終わり次第ミュウと進行ルート以外の魔物を相手に!」

「承ったよ。ミュウちゃん、負担かけるけど少しの間広範囲を頼むよ」

「わかっておるわ……」



 全ての団員に指示を出し終え、先行して交戦し始めていたサキノの元へとルカは向かう。

 リキッドリザードに実体はなく、まともに相手をしても疲弊してしまうだけで戦果は得られない。リキッドリザードが現れた以上、強行軍路線へと切り替え、レラが道を切り開くのを耐え忍ぶ作戦へと切り替えたのだ。



「ふッッ!!」



 リキッドリザードから振り下ろされる短い手足がサキノの白刀によって斬り刻まれていく。斬ろうが斬ろうがすぐさま再生し原型を取り戻すリキッドリザードだったがその圧力は変わらない。



「サキノ。リキッドリザードが龍封石の何かに関与している可能性がある以上、こいつを仕留めないといけない可能性もある。魔力が嵩んでもいい、多岐に渡る攻撃を試すぞ」

「実態が無い相手を倒さないといけない可能性かぁ……雲を掴むような話だね……了解っ!」



 二度目の対峙、逃亡を図った以前とは状況が異なる。変わらぬ進展の無い攻防戦にルカは変化を求めた。特殊電磁銃(エネルギアオヴィス)による電磁砲や、散弾銃による手数重視の砲撃、そして武器種を変化させながらルカは次々と攻撃を見舞う。

 そんなルカの攻撃の合間を見計らいながらサキノは明鏡紫水を放ち、紫電重閃で多重斬撃を見舞うも成果はゼロ。アイテムポーチから黄色の魔力回復薬(エナジーポーション)を引き抜き、魔力の回復に努める。



「何にも手応えが無いっていうのはやっぱり薄気味悪いな……」

「攻略法は武器でも魔力でも手数でもないみたいね。うーん……あんまり効果なさそうだけど『エルフの力』も試してみるね」



 言うが早く白光を身に纏い飛びかかるサキノ。

 その少女の変化に、リキッドリザードは誰にも察知できない程僅かに、ほんの僅かに瞠目した。

 そしてサキノの一太刀を浴び、パシャンッと姿をその場から消した。



「え……?」



 困惑に暮れるのはサキノとルカ。

 効果があったのか無かったのかすらもわからない一瞬の出来事に、言葉が禁足地で迷いを覚える。



「ルカ君! 道拓けたよ!!」



 同時にレラの呼び声がかかり、ルカとサキノは二人我を取り戻す。



「全員進め!」



 レラが切り拓いた道を皆が次々と進んでいく。

 後味の悪さは残ったが、指示を出したルカも後方にサキノを携えて前へと進む。

 マシュロも回復を果たすことが出来、何とか窮地を脱し、中層の洗礼に誰一人欠けることなく生き延びられたことに安堵を抱く。

 そんなルカの胸に去来した悪寒。

 頭が理解するよりも早く橙黄眼を発動してルカが未来に見たもの。

 それは。



「サキノッッッ!!」

「えっ――?」



 サキノの後方――いや足場で開く巨大な口。

 当然未来を見ていないサキノはルカの呼び声の意図に反応出来るわけが無く呆気にとられる。

 口で説明時間などある筈も無く、ルカは身体強化を施し驀進的な速度を持ってサキノを突き飛ばした。

 その瞬間。

 バクンッ! と。

 サキノと立場が入れ替わったルカはリキッドリザードに呑み込まれた。



「ル――このぉぉぉ!!」



 まるで水中に閉じ込められたかのように口内でも透けて見えるルカを救出しとうと、突き飛ばされたサキノは顔面蒼白で斬りかかるも、リキッドリザードはバシャンと水音を立ててその場から消失した。

 ルカ・ローハートの姿諸共。



「ルカ!? ルカっっ!?」



 サキノの怒声に振り返った一同は、ルカの姿がリキッドリザードと共に焦燥を覚える。



「サキちゃん! ルカ君は――」



 悪夢は終わらない。



「わっ!?」

「地震か!?」

「大きいよ!」



 一同を襲う大地震。

 その大地震に一番危機を覚えたのは勿論レラだ。



「絶対に生かして帰さないってことぉ!? そんな場合じゃないのにぃ!!」



 ルカ不在に方針を見失う一同を出迎えたのは。

 切り拓いた筈の前方から、置き去りにした筈の後方から、左右から迫り来る骸と化した筈の魔物達だった。


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