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169話 新生【零騎士団】

 任務当日午前八時前。

 上がり切っていない熱気に蒸されながら、リフリア北門前に転移先を指定した下界組は地に足を着けた。既に多くの商人達が活動を始めており、荷物の搬入出を騎士団員と行っている。朝から騒々しい様相に一躍有名となったルカ達の存在にも気が付いていない。尤も気が付いていても時間との勝負である商人達は声を掛ける余裕すらなかったが。

 そんな北門前の広場の一角で体を動かしたり、ソアラが用意してくれた袖珍で復習を行ったりと、各々の準備に取り掛かっている一団へ、早足に幾つかの足音が接近した。



「キャメルてめェ俺様の事手足のように使いやがって! ぜってェ許さねェからな!」

「やかましい。しかしそうは言いながらも団長命令を聞く従順な貴様も大概だぞ?」

「チッ!! 元はコイツ等の任務なのに道具を取りに来ねェコイツ等が悪ィんだろうが!」

「ゼノンやクゥラも今や【零騎士団】の一員だ。全ての準備は彼等がすると言い出したそうだぞ。そしてローハート等にそれらを届ける役目を買って出たのは私だ」

「道具だけならてめェが持ってけばいいものをガキ共まで連れてく前提なのがおかしいんだろうが!」



 ギャイギャイと騒ぎ立てるラウニーの激怒を歯牙にもかけないキャメル。その背には二人共子供達を背負っており、どうやら荷物持ち代わりにこき使われていることがラウニーは気に召さないらしい。



「ありがとなエレオスさん。元々はクゥラだけ見送りに行かせるつもりだったんだが、急遽俺も出向かなきゃいけない用が出来ちまったんだ」



 よっ、とラウニーの背から飛び降りるゼノンに、再び舌を弾かせるラウニーは何を言っても無駄だと悟りもう何も言わなかった。

 その背後からマシュロとチコがルカ達に歩み寄り、皆へと次々にアイテムポーチを手渡していく。



「すみません、お待たせしてしまいましたか?」

「いや、俺達も今来たばっかりだ。気にしないでくれ」

「俺達が責任を持って準備したが、一応各々で確認はしておいてくれ。それとルカ兄ちゃん、ちょっといいか」

「ん?」



 マシュロの合流に伴い、全員に生き渡る荷物。それぞれが中身の確認作業に入る中、ゼノンは輪の外側へとルカを誘う。ゼノンが唯一持っていたアイテムポーチを手渡し、その中から一つ瓶を取り出した。



「この任務は恐らく途轍もなく過酷なものになると思う。未知への挑戦、強大過ぎる魔物に皆の士気が(マイナス)に染まっちまう事もあるかもしれない。そんな時はこの薬にルカ兄ちゃんの魔力を微量込めて割ってくれ。回復効果は無いが、きっと皆の支えになってくれる筈だ」

「ヤバくなったら俺の魔力を込めて割ればいいんだな? わかった。だけどどうして離れてこの説明を俺だけに?」



 使用法を簡潔に復唱し、率直な疑問を素直に問う。

 透明に近い白い液体が小瓶の中でちゃぷんっと揺れ、ゼノンは再びアイテムポーチの中へとそっと仕舞った。



「この薬は効力を()()()()方が効果が高い。一般に出せる代物でもないし、使用者を選ばなけりゃ逆に全滅になり兼ねない。これはルカ兄ちゃんにしか使えない劇薬だよ」

「……もしかして治験かこれは?」

「いやいや、大事な任務でそんな危ねぇことしねぇって! 効果は俺とクゥラで検証済みだ。まあ俺もクゥラも効果を知ってるから大きな効果は感じられなかったけどな」



 劇薬という単語に苦笑を浮かべながら可能性の一つを冗談交じりに零したルカに、薬学を追求するゼノンは汗を湛えながら否定を呈する。効力はまだまだ可能性に溢れているが、安全性は保障すると笑うゼノンの頭をルカはそっと撫でた。



「ありがとな。ゼノン達の力、期待してるぞ」

「っ! おう!」



 嬉しそうに顔を綻ばせながらゼノンは尻尾をぶんぶんと振るった。

 説明を終え皆の元へと帰る二人。しかしそこには一つのアイテムポーチを持ち周囲をキョロキョロと見渡すマシュロの姿が。



「どうしたマシュロ」

「レラさんがまだ来ていないようなんです」

「レラが?」



 レラ不在の旨の報告を受けルカが周囲を見渡すも確かにレラの姿は無く、付き合いが長かったサキノも頭を悩ませている。



「依頼や任務に遅刻は戦闘好きなレラにしてみれば珍しいけれど……何かあったのかなぁ?」



 急な同行中止という可能性は【クロユリ騎士団】団長のソアラからしてみれば考えにくく、もしそうだとしても一言くらいあってよさそうなものだ。伝言すら送らないということはレラの身に何かがあった可能性が高く、しかし実力を持つレラが道中事件に巻き込まれたなど想像に難い。

 懊悩し一向に任務へと発とうとしない一団に【夜光騎士団】が首を傾げる中、



「うわぁっ!? びっくりした! コイツ何でこんな所で寝てるんだ!?」



 広場で悲鳴に近い驚倒の声が上がり、皆一様に元凶が誰であるのかを瞬時に汲み取った。

 ルカを筆頭にぞろぞろと声の上がった方へと一行が赴くと、そこには果たして予想に違わぬ人物が植栽に隠れた木陰で気持ちよさそうに眠っていた。



「やっぱり……」

「緊張感の欠片も無いね……流石と言うか、相変わらずと言うか……」



 口を開き、仰臥で眠るレラはまるで休日の如く。これから死地に出向くとは思えない程の楽観振りで寝息を立てていた。



「【楽戦家(トリックスター)】って呼ばれてたかいな? 噂に違わぬ大物やなぁ」

女子(おなご)の自覚があるのかこやつは……」

「サキノ、起こしてやってくれ……」



 それぞれにレラの大物ぶりに辟易と感嘆を抱き、ルカがサキノへと指示を飛ばす。

 指示を受けたサキノはレラの付近に膝をつき、身体を揺さ振る。



「レラ、起きて。皆待っているよ」

「んん……ん? サキちゃん……? え? サキちゃん!? もしかしてもう――」



 上体を起こすレラとサキノの頭部がゴンッ! と強烈な鈍い音を発した。



「あああああああいたぁぁあっ!?」

「いったぁぁぁいっ!? ちょ、急に起きないでよレラ!?」

「ご、ごめんサキちゃん! ルカ君に皆……完全に寝過ごしちゃってた……ごめんっ!」



 悶絶するサキノと困惑し謝罪するレラに、苦笑と辟易が皆一様に降りかかった。

 何はともあれレラの安否に安心を博したルカは地面でのたまう二人へと手を差し伸べる。



「何かあったのかと心配してたぞ……どうしてこんな所で寝てたんだ?」

「【零騎士団】の皆と未知の禁足地にって考えてたらわくわくし過ぎてあんまり寝れなくて……はは……どうせ寝れないなら先に集合場所行ってればいいか、って思って待ってたらいつの間にか眠気が来ちゃってこの有様だよ……ごめんっ!」



 仲の深いルカやサキノとの共同任務、【クロユリ騎士団】から勝利をもぎ取った強者の集い、そして未知への挑戦に、どうやら興奮し過ぎて前夜はよく眠れなかったようだ。どうせ騎士団でごろごろしていくるくらいならと、先行して集合場所へと辿り着いたレラだったが急激な眠気に耐え切れず仮眠のつもりで眠っていたようだ。しかし極度の興奮の反動は深い眠りへの誘い。周囲の騒音を気にもかけない眠りに陥ってしまっことをレラは謝罪した。

 しかしその緩さに救われた者も【零騎士団】の中にはいて。



「ふふふっ、本当レラはマイペースだね。お陰で私の緊張まで解れちゃったよ」

(わたくし)もです。こんな方が仲間なのは心強いですよ。よろしくお願いしますねレラさん」



 サキノの機転にて一瞬で空気は弛緩した。

 過度な緊張は身体機能の低下を招く。徐々に慣れていくとはいえ、やはり心の消耗は激しくなってしまう。

【クロユリ騎士団】がステラⅡへと上り詰め、どんな任務をもこなしてこれたのはレラ・アルフレインという少女の働きも大きいのだと、この時ルカは面映ゆく笑うレラを見てそう感じた。



「よし、これで全員揃ったな。レラもアイテムポーチの中身を確認しておいてくれ」



 マシュロから手渡されたアイテムポーチの中を早急に確認するレラ。自然とルカに集まる視線に【夜光騎士団】の誰も言葉を発さない。唯一ラウニーだけは無言で「俺と再戦するまで死ぬことは許さねェ」という圧を送っていたが。



「きっと思いもよらない出来事が起こるかもしれない。だけど俺を――仲間を信じてくれ。どんな困難な任務でも俺達は絶対に龍封石を持って帰って来る。誰一人として欠けず、全員で」



 己を信じて着いてきてくれるのなら、自分はそれに応えるだけだ。ココから授かった団長としての心得を、ルカは今一度言葉にして周知させる。



「出発しよう」



 ルカの出立の声に、一同が歩みを連ね始めた。

 手首、手の甲、胸元、首元、それぞれの誓印が陽の光を浴びる。

 そして新しく刻まれた少女の右肩の誓印も同じく。


【零騎士団】はS+任務――『龍封石採取任務』へと繰り出した。


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