149話 ルカ・ローハートvsレラ・アルフレイン
一組の男女の再戦が幕を開けた。
「せーーーぃやっ!!」
翡翠の炎を宿したレラの初手。背後に構えていた両鎌を一瞬で高速回転させ、ブーメランのように投擲した。
魔物達の夜祭の魔物殲滅時に一度見た、魔力を莫大な刃へと転換した壮絶な一撃。どこからそんな魔力が湧き出てくるのかと疑問に思う程の高火力大規模を誇る攻撃を、ルカは全力の斬り上げによって軌道を僅かに逸らし回避する。
翠魔刃。
レラの初っ端からの大技に背後の闘技街の一角――一キロメートル程の範囲がまるで稲作のように豪快に刈り取られていく。
一目で所在が丸わかりな破壊技に本陣のソアラは双眸を眇め、副団長のツクナは笑い、画面に喰いつく観客達が大口を開けて驚倒する。しかしその規模を一度目の当たりにし、未実行に終わったがラウニー戦で己も試みたことからルカは動揺には引きずり込まれない。
大衝撃によってへし折られた長剣を消失させ身体強化で加速、得物を失ったレラへ翠線を靡かせながら突貫した。一度目の襲撃【クロユリ騎士団】本拠でレラの期待に沿うことの出来なかった肉弾戦が、何の引け目も無く展開されていく。
「あはっ! いいねいいね! ルカ君のヤル気が伝わってくるよ!!」
「本拠では悪かったな! 一方的に侵入したのに下手に手を出すのは違うと思ったんだ! だけど今は違う!」
「気にしない気にしない~! 今こうして交えられているのはルカ君の決意のお陰だよ! あぁ、もう! 昂ってくるなぁ!!」
互いに空を切る一切容赦のない殴蹴撃。ルカの繰り出す攻撃はしなやかな腕使いや体の柔らかさ、そして軽い身のこなしであしらわれていく。対してレラの体術は、アクロバティックな動きの回避に付随して死角から常に牙を剥いてくる。ラウニーとはまた異なる速度と連撃性は一瞬の気の緩みも逃さない。
「昂ってるところ悪いが、あまり時間がない事も忘れてくれるなっ、よ!!」
「うっ!」
回避から連動した下方からの背面蹴りにより、一瞬切れたレラの視線を盗んだルカは背後へと回り込む。
慣性を味方につけた強烈な回し蹴りに、レラは細腕で防御し吹き飛んだ。
一瞬通用した攻撃、その一瞬の隙を逆に狙いすましたかのように、レラの大鎌がルカの背後から飛来する――が。
「見えてる」
「嘘でしょ~!? 攻撃受け損じゃん!」
わざと曝け出した隙。こない追撃。
レラが目論んだ反撃の一手を、ルカは見透かしていた。
身を低く死角からやって来たブーメランを難なく回避したルカへ、レラは突貫と同時に鎌を掴み取り、手数重視の白兵戦へと持ち込む。
「なんて視野の広さしてんのよっ!」
「想定内だ。武器が戻ってくるところも一度見てるからな」
驚異の回転刃が台風のように気流を生みだす。無闇矢鱈と防戦に踏み切るわけにもいかず、また、大将戦を残しているルカにとって回避に傾注し体力を消耗するのは得策ではない。
レラは強敵中の強敵だが短期決戦が望ましく、ルカは勝負を決めに回避の傍ら特殊散弾銃を創造し、意表を衝くように砲撃した。
しかし。
「散弾型の特殊電磁銃でしょ。効かないよっ」
「っ!?」
魔力の塊都合三発の散弾電磁砲がレラへと直撃間際、まるで初戦時の武器のように翡翠色の魔力となり分解された。大鎌に触れるでもなく、魔法のようなものを唱えるでもなく。
分解された魔力を吸収しながらの大鎌の一刃。強引に攻撃へ転じた弊害、ルカは砲撃の衝撃を僅かに利用して背後へと飛ぶが鎌の切っ先が頬を捉える。浅傷で済んだもののレラの反撃は終わらず、次いで渾身の回し蹴りがルカの左腕へと炸裂した。
ビリビリとした衝撃を生じさせながら辛くも防御に成功したルカだったが、続けざまの肉薄に防戦を強いられる。
「初見の筈だろっ!?」
「ふふーん、一度見てるからなっ!」
「真似すんなっ! いつだよくそっ!」
強引な攻勢に転じたのも一撃で仕留められる可能性を見出したからであり、まさかレラが自身のオリジナルを知っているとは思うまい。一度体勢を立て直そうにもそんな悠長なことをレラが許してくれる筈も無く、ルカは武器吸収の危険を背負ってでも手数で互角の二刀短剣を創造した。
舞踏のように両者くるくると回りながら交錯する得物。剣戟が舞踏曲として鳴り響くが、周りには邪魔をする者も、同じように手を取り合い踊り狂う者もいない。二人だけの世界、二人だけの死闘にレラは汗を弾きながら笑う。
「たーのしいねぇルカ君!! もっともっともっと、いつまでもこうやって遊んでいたいなぁ!!」
普段の笑顔とはまた一風異なった戦闘から得られる享楽。楽しそうに武器を振るう姿は新しい玩具を与えられた子供のようだった。
しかしそんなレラの姿を見て、拳を交えて、武器を交えて、レラの全貌を察知できない程、ルカは友に対して無頓着ではない。
――レラはまだ実力を隠している。能力のほんの数割しか見せていない。
そして能力の全てを見せるつもりが毛頭ない事も。
それが何故なのかはわからなかったが、例えこの戦いに敗れることになろうともその意志は固い。
いや――元からそう仕組んでいたかのように。
『力持つ者というのは時に孤独なのだ』
レラの無邪気な剣戟を受けながらも、ルカの脳裏にキャメルの言葉がふと浮かんだ。
力の全てを見せていないレラにとって、この戦いは心から本当に楽しめているのだろうか。
魔力も体力も温存をしないといけないルカを相手に、万全の戦いと言えるだろうか。
同じ切望を抱くレラがわざわざお膳立てをしてようやく互角の戦いを、レラが楽しめるものなのだろうか。
――一度見せた攻撃しか繰り出さないレラにとって、楽しさとはなんなのだろうか。
そんなレラの想いにルカは応えたかった。
「レラ、俺はもっと強くなる。もっともっと強くなってお前を孤独にはさせない。お前の全力を受けきれるくらい、お前が全力を出しても肩を組んで笑い合えるくらい強くなってみせるから」
「――――っ」
「だから――この勝負だけは勝たせてもらうっ!」
「うっ!!」
二刀短剣を消滅させ、刀身三メートルの巨大な黒剣をルカは振り切った。
苦鳴を漏らしながらレラは鎌で受け止め、彼我の距離に空白が生まれる。
「……嬉しい事言ってくれるじゃん。ちょっと泣きそうになっちゃったよ。ふぅーーー……じゃあ終わらせないとね、この遊びも。今のルカ君の全力を持って打破して見せてよ、ウチの『タオゼント・レーゲン』をさぁ!」
「来いっ!!」
華奢な身体と大鎌に煌々とした翡翠色の炎を外包し、周囲一帯の空気が息を呑むような緊張感を覚えた直後、ルカの背後に翡翠の影が揺れた。
「くっ!?」
速度と膂力に全振りした波状攻撃を辛うじて黒剣で受け流す。しかし武器は分解され魔力として『獅駆真』に吸収され、鎌の長尺に水を与えてしまう。
しかし悔やんでいる暇も考えている暇も無い。何度分解されようが刃を強化されようが、ルカは二刀短剣を創造し、ひたすらに反射でしか対応できない速撃を往なしていく。
まるで大嵐。【クロユリ騎士団】で見せた必殺が序の口だったかとでも言うかのような暴風雨に反撃の隙も見出せない。
刻まれていく掠り傷。少しでも気を抜けば腕や脚を本拠の二の舞にさせてしまう猛撃を紙一重の所で回避していく。
「ほら見せてよっ! ルカ君の意地を!!」
レラの能力について仮説が立ったのは一度目の交戦時。
魔物達の夜祭で一度見せた翠魔刃や、防御不可の武器や結界の破壊、これらは放出と分解に関する能力なのではないかとルカは推測した。
魔力を刃として放出。武器を分解、魔力による結界を分解。分解した魔力を刃として放出。
そして散弾電磁銃による電磁砲までもを分解。
現在の戦闘を以て、ルカはレラの放出と分解という能力を確信に近いものを感じていた。
その推測は少なからず的を得ており、しかしまるっきり見当違いとも言える。
レラの本当の能力。
それは『転換』だ。
それも自身が得るものが量や価値において大きくなければならない『不等価』による『転換』だ。
相手の武器を膨大な魔力へ。
微量の魔力を激増の刃へ。
微量の魔力を傷の再生へ。
微量の酸素を体力へ。
周囲の窒素を、穿孔を生みだすほどの強烈な爆撃へ。
レラの転換はイコールではないのだ。必ず彼女が優位になる能力になっている。
故に魔力の消費幅が極端に少なく済む上、長期戦になろうとも体力魔力の補完が容易に可能であるが為、彼女は禁足地で何十時間もの戦闘に及べたのだ。
発動条件はレラの脳内で不等式が組み上がること。
発動タイミングはレラの任意で、完全に後出しの権利を得ている。
レラが禁足地で己を無敵だと言うにも無理のない能力だ。
しかしレラはそんな能力など求めてはいなかった。
勝利が確定した勝負など何が楽しいのか。
一方的な不利を押し付けてどこが楽しいのか。
対等に戦えると思っていた悪友を完封して嬉しいものか。
故にレラはリフリアへ移住する前に己の能力を制限し、隠秘するようになった。
全ては強すぎる己が孤独に潰されてしまわないように。
使用条件は緊急時、もしくは明確な『技』として使用する時だけだと、彼女は桎梏を設けた。
そうでもしなければ強大過ぎる力を持つ己を求めて【クロユリ騎士団】に略奪闘技が相次ぎ、傷付けてしまうかもしれない。
だからレラは己の能力をほんの少ししか見せない。特に生中継である略奪闘技では。
「タオゼント・レーゲンすらも破れないルカ君にサキちゃんを託すわけにはいかないねっ!」
徐々に反応が遅れ始めているルカにレラは容赦しない。ルカの武器を速度に、酷使し早すぎる体力の消耗に宛がい攻め込んでいく。
能力をルカに告げても良かった。
しかしレラは試したかった。能力を知りもしないルカが自身を打破できるのかを。
順応力、推察力、視野の広さ。ラウニー戦で見た強者に抗う力を。
物凄い速さで昇ってくるルカの成長を自分も感じたいと。
そんな期待をかけるルカとの戦闘に終止符を打つため、足元を狙った足払いを仕掛けた。
しかしレラのしなやかで長い脚は空を切り。
「っ!?」
「ようやく足元を狙ってくれたな!」
この瞬間を待っていたとでも言うかのようにルカは上空へと跳び上がった。
「逃げ場のない空中に逃げるなんて、ルカ君も焼きが回ったね! 終わりだよ!」
翠眼で身体強化を施した全力の跳躍をしたルカの着地に合わせ、レラは魔力を爆発させる。
そんなルカは空中で再び白と黒、対を為す二丁拳銃を創造した。
レラは知っている。ルカは一度通用しなかった攻撃は行わない。
つまり特殊散弾銃はブラフ。本来ソアラの得物を改良しただけの散弾銃をこの時ばかりは、アーエールとして使用し空気弾を撃つつもりなのだと。
例え魔力弾だとしても想定している分、脳内演算の方が早い。
「だからそれは効かないって――」
「どうだろうな?」
距離の開けていない両者の地と宙。散弾として撃ち出したルカの自信を、レラは着色の有無から一瞬で空気弾ではないと答えを切り捨てた。
空気弾ではなく少々想定外ではあったが、即座に魔力弾<体力の不等式を組み上げた。
しかし。
「え……?」
発動しない能力。消滅しない弾丸。
魔力というお手軽な弾丸使用の特殊電磁銃が存在する為、魔界では存在こそするが充填による不便さが目立ち使用され辛い『実弾』の発射にレラは対応出来ない。
(ヤバっ――)
着地時の反撃に備え回避の準備はしていない。レラは鎌と腕で唯一の弱点である頭部を庇うことしか出来ず、実弾を用いた散弾が下半身へと吸い込まれていく。
「いっっ……た――はっ!?」
苦悶に揺れるレラは、しかしそんな悠長なことをしている余裕など本来はない。
眼前には着地したルカ。腕を引き絞り腰の入った体勢。
逃げられない。避けられない。防げない。
激痛に支配された頭では脳内演算も追い付かない。
「返すぜ、レラ」
「がっっっ!!」
掌底。
まるで本拠での仕返しだとでも言うかのように、ルカは渾身の掌底をレラへと叩き込んだ。
吹き飛んだレラは大鎌を手放し、石造りの家へと衝突し、口から赤い液体を零す。
しかしルカは達成感に浸らない。
空中で一人遊ぶ『獅駆真』を疾駆と同時に掴み取り、翠眼でレラへと接近を果たす。
ゲホゲホとむせ返るレラの首筋へ大鎌を宛がい、黄眼へと即座に切り替えた。
「いった~い……アーエールに見せかけた電磁砲と見せかけての実弾なんて聞いてないよ~……」
基本戦闘スタイルとは個々によって大方決まっている。得物の攻撃重視なのか、魔法を使うのか、魔力による攻撃なのか、物体を扱うのか。レラの能力は脳内演算で転換が可能な為、相手の戦闘スタイルを把握すれば情報選択肢が少なく対処しやすいというところがある。
しかしルカは遠近体魔を問わない戦士で、いくら何度かルカの戦闘を眼にした事があるレラにとっても情報量が少なすぎる――常識の枠に収まり切らないのだ。
故に空気弾、もしくは魔力と想定の範囲で限定したレラの転換は失敗に終わり、普段から痛手を負う事が珍しいレラは痛覚によって動きを失ってしまった。
強者過ぎる強者ならではの弱点を、みすみすふいにしなかったルカの勝利であると言えよう。
「負けを認めろ、レラ」
そんなややSっ気のあるルカの物言いに、レラの負けず嫌い――悪戯心が働いてしまった。
「ふぅー……ウチの能力は『転換』。空気を速度に、魔力を刃に、傷を体力に。正直無敵だよ。だから何度ウチを倒したところで、ウチの命を取らない限り回復できる。サキちゃんを救うためにウチの首を飛ばす度胸がルカ君にある?」
サキノを救うためならば己を殺せるか、レラはそう問いているのだ。事実レラの能力ならばそれが可能で、やろうと思えばルカを倒すまで繰り返し治癒する事も可能だ。
能力を画面の向こうへ明かしてでも、そんな選択肢が生まれる事も非現実ではないとのレラの脅し。
実際答えなんて決まりきっている。ルカに首を落とすなんて出来る筈もない。
けれど少し妬いてしまったのだから仕方が無いではないか。
孤独にさせないと言われ、そのためには救わなければならない女の子がいる。
ならばどちらかを切り捨てないといけないのならば、どちらを選ぶのだと。
答えなんて決まりきっているだろう。
レラ・アルフレインは切り捨てられる側だ。
「レラは殺さない」
そう言うに決まっているだろう。
自身でも執拗だとは思うが、でもこの英雄がどちらを選ぶかだけは直接聞いておきたかった。
「……じゃあ終わらないねこの戦いは。本当に幾らでも回復できるんだよ?」
「やってみろよ」
どこか自信ありげなルカの言葉にぐったりとしたレラは眉根を顰める。
――本当に? 本当に二人共救おうとしているの?
レラを殺さずサキノを救う。そんなことが可能なのか。自分の能力に絶対的な自信を持っているレラは、ルカのその根拠のない自信が理解出来なかった。
回復してしまえば後戻りはできない。画面の観客達にも新しい治癒能力として露見してしまう。
それでもレラはどっちつかずのルカに引けなくなっていた。
「ふーん……? それじゃあ、お言葉に甘えてダメージを治癒力に――え?」
治らない。転換が発動しない。
「どうした? 傷もダメージも癒せるんだろ?」
何故、どうして。
初めての経験にレラは眼が泳ぐ。
しかしその理由はルカを見上げた事ですぐに判明した。
「ルカ君……何か使ってるね?」
幸樹の極彩色の輝きを背景に、まるで御稜威を背負ったかのようなルカに見下ろされる。普段の黒瞳でもなく、戦闘中に何度も切り替わっていた紫紺でも翠でもなく黄の眼に。
「あぁ、俺の能力の一つの無力化だ。自分にしか効果が無いと思ってたが、どうやら触れてる相手にも反映されるみたいだ。これはレラも知らなかっただろ?」
決戦前の訓練――【クロユリ騎士団】の偵察に見られる訳にもいかないルカ達は、薬舗『タルタロス』内部で秘境へと潜り秘密の特訓を行っていた。秘境に出入りすることが出来ないマシュロだけは別特訓となってしまったが、ミュウの秘境を使用した秘密の特訓で判明した無力化の効果範囲は、自身だけに留まらず接触した相手にも適応するとの効果が出た。
そもそも無力化の能力自体を知らないレラにとって想定外も想定外。そしてラウニーを倒した消滅の光剣も未使用。
自身だけではない。ルカはまだ力を隠していた。
その事実にレラはゾクッッっと。
ルカにただならぬ未知と嬉々と期待を抱いた。
ごくりと呑み込む血が入り混じった生唾に鉄っぽさを感じるも、そんなこと珍事も喜びへと換わり。
「あは、あはははは!」
レラは突如笑い出した。
「なーんだ、ルカ君も全然本気じゃなかったんだ。わかったわかったウチの負けだよ」
お手上げで観客達にも伝わるよう敗北の意思表示を呈した。
レラから完全に戦闘の意思が無くなったことを確認し、ルカは無力化を解除して大鎌を地へと転がり捨てた。
何も言わず早々に先へと進もうとするルカをレラは呼び止める。
「ねぇルカ君」
「なんだ?」
振り返り立ち止まったルカへ微笑を浮かべる。
「ルカ君は本当に団長に勝とうと思ってるの?」
「勝たなきゃいけない理由がある。大分ロスしちまったからな、俺は行くぞ」
「そっか……じゃあ一つだけ。団長に勝とうとは思わないで」
「……?」
それ以上喋ろうとしないレラに、ルカは背を向けて駆け出した。
どちらかを選ばなければならないのなら、どちらも選ぶ。自身ですら予想出来なかった英雄としての模範解答を繰り出したルカの背中を見送り、レラは独り言ちる。
「頑張って、ルカ君。後は任せたよ」
陽気漂う青空に思いっ切り仰向けに転がり、レラは自身の切望の達成を願う。
あの時も――本拠に突入してきたルカを逃がした事も。
あの時も――酒場『ラグナロク』にてミュウの背後で略奪闘技という手段を独り言で呟いた事も。
あの時も――サキノが【クロユリ騎士団】を切り捨てられるよう、悪人を気取り情報を騙し取った事も。
全てはレラの『サキノを救いたい』という切望の為の裏工作だ。
金の卵とは言え世話が焼けるな~、とレラは溜息を衝いた。
「全く、道化師って名付けたの、一体誰よ……否定出来ないじゃん……」
ルカから受けたダメージを睡魔へと転換し、レラは激震走る闘技街で眠りについた。
勝者――【ブラックノヴァ】ルカ・ローハート。




