121話 信じる価値
連続で迸る深淵の雷が地面を焦がす。
当たらない。周囲を駆け回るルカにその攻撃は当たらない。適切な距離さえ見極めればルシファーの口撃も高濃度の魔力攻撃も『思惑を超える事のない』攻撃は脅威が薄い。とはいえ策と言う策は無い。弓矢や実弾銃、更には手榴弾と趣向を変えて反撃をするもまるで効果は無く、試行錯誤の沼へと陥っていた。
『ハハハハハハハハハハハハ!!』
依然と不気味な高笑いを続けながらもルシファーは攻撃の手を緩めない。
息切れ、出血、疲労。様々な負荷を被っているルカが望んだ早期決着とは対極的に、終演の兆しは見られない。
彼我の間隔を詰められないよう細心の注意を払いながらルカは立ち回る。
「はっ、はっ……どの攻撃にも手応えが無い……流石に耐久レースじゃ勝ち目はないな。やっぱり奥の手しかないか……?」
溺れんばかりの魔力で構成されているルシファー。魔力を消滅させる奥の手ならば有効打になり得るとの確信をルカは持ち得ていた。
しかし負滅救斬を叩き込むためには接近がかかせない。無力化を使えない一瞬の間に呪言を唱えられれば命はないと考えた方がいい。
「駄目だ危険がでかすぎる……接近するには無力化は必須だ。奴の意識を上手い事逸らせられれ、ば――」
最終目的に辿り着くためにルカは画策を働かせるが、その思考は眼前の光景にて一瞬で吹き飛んだ。
『降レ』
巨大な隕石。直径十メートルもあろうかという隕石が上空からルカへと向けて降下を始める。
「冗談じゃねえ! 何でもアリかよ!?」
支配をもたらすのは人間だけに非ず。街路一帯を埋め尽くすほどの三つの巨大な岩の塊にルカは魔力の消費を懸念しながら、一回り大きな特殊電磁銃を創造する。
しかし、後方より飛来した特大の五条の蒼き光線が隕石を穿ち、ルシファーの上空で瓦礫となって振り注ぐ。
『ハハハハハハ――アァ』
「させませんよ!」
タイミングを見計らったのか男の体が瓦礫に埋没する中、空髪の髪を後方に流しながらマシュロがルカの元へと駆け付けた。
「マシュロどうしてこっちに来た!? 逃げろ!」
思わぬ援軍に一瞬の安堵を浮かべたが、ルシファーの理不尽且つ超常的な能力を知るルカは特殊電磁銃を消失させ、声を荒げて追い返そうとする。
「私も共に戦います」
だがマシュロはアストラスを構えたまま退こうとしない。強い覚悟を持って瓦礫の山に埋もれたルシファーを未だ睨み続ける。
そんな希薄な危機感しか持っていないであろうマシュロにルカは焦燥感が募った。
「あいつの能力は冗談抜きにヤバいんだ!」
「知ってます」
「だったら頼むから逃げてくれ!」
「いくらルカさんのお言葉と言えども、こればかりは従う事は出来ません」
「庇いながら戦える程余裕がある訳じゃないんだ! だから――」
「ルカさん」
マシュロと目が合う。
恐怖と不安の介在する黄金の瞳。怖くない訳が無い。
しかしルカが見たのはその奥にある確かな決意。そして願望。
「絶対防御の無い私は頼りないかもしれません。臆病者の私が出張っても無意味だと思うかもしれません。ですがエレオス副団長との諍いは元より私が蒔いた種です。全ての責任をルカさんに押し付けたまま引き下がれる程弱いままの私でいたくありません!」
「!」
誰よりも弱い自分を嫌っていたのは誰だっただろうか。
誰よりも逃げ出したくなる小心者は誰だっただろうか。
自身の非力を一番に痛感していたのは他の誰でもない。
――マシュロ・エメラだ。
黄金の瞳に確かに映る『変わりたい』という願望。負の自分から孵化するための階段を前にした曇りなき神気。
ルカは知っている。この願望を抱く契機を。成し遂げる困難を。
「……悪かった。そうだな。マシュロ、二人で攻略するぞ」
「はい!!」
マシュロの覚悟を誰よりも否定されたくなかったのはルカだった筈だ。
己がここでマシュロの安全の為に突き放していい訳が無いと思い直し、ルカはマシュロとの共闘に思考を切り替える。
「手短に状況を説明する。奴の能力は高濃度の魔力による直接攻撃と、下した言葉が現実のものになる『絶対支配』。さっきのような隕石はどうしようもないが、絶対支配の効果範囲は恐らく奴の声が届く範囲――二十メートル程度だ」
「なるほど……口は災いの元と言う訳ですね」
「う、ん……? 少し違う気もするが……まあ似たようなものだ」
真剣な顔つきで意味を履き違えたマシュロの言葉にルカが難色を示す中、漆黒の雷が膨れ上がり、積もっていた瓦礫群を吹き飛ばしルシファーが再び姿を現す。
堪えた様子はルシファーには見られなかったが、ラウニーの身体は裂傷、圧潰、出血とただでは済んでいないように見えた。
そんなルシファーへ牽制のつもりで放った二発の電磁砲を、まるで塵芥だとでもいうかのように腕の一本で握り潰す。
「効きませんか……」
「奴にはどんな攻撃も効果が薄かった。だけど今の奴を見る限り、エレオスの身体にはダメージが入っているみたいだ。確証はないが突破の糸口はダメージの蓄積くらいしか……」
「ダメージの蓄積……」
「それと奴にエレオスのような機動力は無い。距離を取って戦えるマシュロにはお誂え向きかもしれない」
「…………」
積み上げてきたルシファーとの戦果を口早に浸透させるルカは疲労が濃い。コラリエッタの魔法や万能薬を使用したとあっても、強敵との連戦に精神的疲労は抜けない。
長くは持たないでろうルカの姿に、マシュロは傘の先端に目を落としながらもう一度電磁砲を放った。
「ルカさん、私を信じる価値はありますか?」
「……?」
変わらない結果を叩き出すルシファーに、魔力消費を抑えた小さな規模の電磁砲を何度も撃ち込みながらマシュロは問う。
「少しの間、詠唱の時間を私に下さい。今のエレオス副団長に通用するかも、夜間に発動出来るかもわかりません。それでもそんな私の事を信じる価値はありますか?」
戦場が銃声に塗れる中で毅然とした玉声が今一度ルカに問いかけられる。
絶対防御しか突出した能力のない己を信用することが出来るか。マシュロはそう問いかけているのだ。
そんなマシュロの質問にルカの答えは決まっている。
「勿論だ。時間稼ぎなら任せてくれ」
元よりマシュロを評価しているルカにとって一切の混迷など無い。
そのルカの自信に溢れた返答に、マシュロは口元が優しく緩んだ。
「ありがとうございます。少しの間よろしくお願いします!!」
マシュロの最後の電磁砲を皮切りに、二人は前後へと散った。
「待たせたなエレオス! いや――ルシファーと言った方が正しいか? もう一度二人きりの戦闘の時間だ!」
『ハハハ!! 朽チ果テロ! 這イツクバレ! 死ネ!!』
無力化を発動しながら挑発気味に周囲を駆け始めたルカへ、嬉々として絶対支配と魔力による同時攻撃を再開させた。無力化を発動している間は身体は生身だ。高濃度の魔力を一撃でも貰えば体は焼き尽くされる事だろう。
慎重かつ大胆に気を引き、ルカはマシュロの為に時間を稼いでいく。
その後方約五十メートル。
十二分な距離を走り、安全地帯へと退避したマシュロは振り返り大きく息を吸って瞑目する。
心と思考を凪の水面のように冷静に。
空色の魔力を体の核から全身へと循環させるかのように熱く。
マシュロは『アストラス』を胸に宛がい、小振りな口を開いた。
「【詠唱。我、脆弱なる絶対守護者、惰弱なる相反攻者。夜に目覚めぬ覚醒に悲嘆するこの想い、長き幽冥の時を経て他に認められし時真価を発揮す――】」
透き通る玲瓏な声。つむじ風のように巻き上がり始める魔力の奔流は足元から具現化し。
遠方からでも分かる明確な変化の前触れに、ルシファーの意識がルカから離れ、マシュロへと移動を始める――が。
『ッ――』
その体は急制止を強いられた。
「させねえよ!」
ルシファーの体には何重にも巻かれた鎖。鎖鎌を用いたルカの全力の足止め。
強行突破も出来たが傲慢なルシファーは己の邪魔をするルカに不服を孕み、強攻撃を再開する。
ルカが懸命に足止めをする先では、マシュロが脈々と詠唱と思考を継続していた。
「【負の想いと共存を。愚童は求道の糧と成り。日照に光る絶対守護を手放し、全てを殲滅する力とせよ――】
(この魔法が顕現した時、私は運命を呪いました。最大の武器である絶対防御を手放し、攻護翻転したところでどうなると……だけどもしこの瞬間のためにあったのならば――)
あの時も。
オーガの大群に囲まれていようとも凛々しく佇む勇敢な黒髪の後姿。
あの時も。
夜光修練場でラウニーと戦い、死を覚悟した時にですら颯爽と現れてくれた黒騎士の天使様。
そして今。
本来無関係のルカが己の為に戦い、傷付き、生の道を示してくれている。
守られて、守られて、守られている自分を変えたくて。
(――この身が裂けようとも、私も守れる人間に!!)
失うものを甘受するだけでなく、抗う力を手に。
子供達と逃げ惑うだけでなく、手を引く存在に。
少年の後ろで委縮せず、堂々と隣に立つために。
「もっと……もっと、もっと、もっともっとォ!!」
爆発的魔力が暴走のように増幅充填される。
激発的魔力が空間を席巻していく。
高濃度な魔力が、悪魔に匹敵するほどの青白い魔力が、小さな体を充溢していく。
ルカやルシファー、そしてラナとサキノまでもが目を奪われる中。
彼女は――マシュロ・エメラは今。
「【攻護顛倒】!!」
他者の為に立ち上がる。
まるで体内で収束しきれなかった魔力がマシュロへ随従しているかのように、マシュロの背には空色の巨大な片翼が形成されている。ルカやサキノとは異なった魔力そのものの翼は幻想的と言っても差し支えない。
そしてそれは見かけだけでは終わらせない。
以前とは一線を画した爆発的な加速を以てルシファーとの距離を詰め、二十五メートルの距離から電磁砲を放った。
「でかいッ!」
魔法発動前よりも密度が濃く、一撃が巨大な電磁砲。
速度も早くなった電磁砲は一直線にてルシファーへと肉薄する。奇襲ですら無い電磁砲の接近に、由無いとばかりにルシファーは握り潰そうと右腕を掲げた――が。
『ッッ!?』
腕は弾かれ、電磁砲はルシファーの顔面へと直撃した。
ギロリと睨む灼眼。だらりと垂れる右腕はもはや再起不能のように焼け砕けている。
「一撃が段違いだな……イケるぞマシュロ!」
『チ――』
再び充填を始めるマシュロに、ルシファーはルカを相手取りながら左手で魔力の稲妻を放つ。
マシュロは平時より時間をかけて魔力の充填を完了させ、二度目の電磁砲で雷を相殺する。その電磁砲は相殺に留まらず、ルシファーへと直進するが。
『チイ――』
直撃には至らずルシファーは回避した。
「躱したっ!? やっぱりマシュロの電磁砲は有効か!?」
初めて見たルシファーの回避行動に、僅かな光明が差し込む。
いつでも言霊を退避出来る距離からの鎖鎌を鬱陶しそうに跳ね除けながら、ルシファーは依然とルカを狙う。
時に鎖での束縛に成功するものの『朽チロ』の一言で鎖鎌は一瞬にて朽ち果てる。元々創造した得物である事から損壊に支障は無かったが、妙に違和感が先立つ事にルカは眉を顰めた。
「…………」
それは標的。現在ルシファーへと明確な有効打を持っているのは明らかにマシュロだ。ルカの攻撃は今や気を引くためだけにしか機能しておらず、先に仕留めておくべきはどう考えてもマシュロだろう。
しかし幾ら電磁砲を射出されようがルシファーは標的を変えようとしない。マシュロへの牽制で雷を放つものの、視線の先にいるのは常にルカだ。
マシュロの詠唱による機微ですら、標的を変えたと言うのにも関わらず。
(エレオス?)
それは一つの可能性。ルシファーへのダメージによりエレオスの自我が回帰してきている可能性。
仮にその可能性を肯定するのであれば、意固地とも言えるほどに仇敵を狙い続けるのも納得だ。そしてもう一つ可能性への根拠を挙げるのであれば、戦闘中に打ち上がっていた哄笑がダメージの蓄積を負う毎に激減している。
ゼロではないために根拠としては弱いが、希望的観測としては十分だ。
「はあああああッッ」
マシュロの電磁砲が再三ルシファーに牙を剥く。
『アアッッ!!』
回避が叶わないと悟ったルシファーは焼け砕けた右腕を更に犠牲に振り上げ、電磁砲の軌道を逸らす。
そのなりふり構わないルシファーの行動と灼眼の一瞥に、ゾッと悪寒を感じたのはルカだ。
(ルシファーの回避が間に合わない? どうして――)
それは戦場の趨勢が硬直状態になっていたために起こったある種の自然現象。
二十五メートルもの距離を置き電磁砲を放ち続けたマシュロの焦心。
交戦するルカとルシファーの移動。
そう、ルシファーとマシュロの距離が絶対支配の射程範囲内へと縮まっていたのだ。
(いつの間に距離が!? 不味いっ!!)
ぶわっと汗腺が開く。ここで絶対支配を使われればマシュロの命が危うい。
マシュロとルシファーの距離十五メートル。
ルカとルシファーの距離十二メートル。
ルカとマシュロの距離二十五メートル。
(無力化を発動してマシュロの救出に――)
間に合う訳が無い。しかしやるしかない。声を張った方が早いのだろうが――。
「――――」
しかし、すとんと。何かが腑に落ちた。
自身は無力化を発動出来る事から無害に近い。
そしてマシュロは後方に全力で退避すれば辛くも離脱可能な位置には居る。
――だとすれば本当に奴は絶対支配を使うだろうか?
見方を変えれば最大の好機だ。これを逃す手はないだろう。
だが確実に最低でも片方を仕留めるとなれば、この状況での絶対支配は不確定性が高い。
ラウニーが戦場に立っていたとすれば果たしてこのギャンブルに乗じるだろうか。
強者を自負するラウニーが。
否。
(違う! 奴の狙いは――)
ルカは翠眼を解放して一直線に駆けた。マシュロへと。
直後。
『消エロ』
ルシファーの姿が一瞬で消え、電磁砲を放とうとしているマシュロの背後へと出現した。
「え……」
突然の出来事にマシュロは硬直する。
ルシファーの一種の奥の手。ルシファーは自身に絶対支配を適用し、最大の好機を必至な終焉に昇華させたのだ。
確実に仕留められるゼロ距離にマシュロは死の予感が芽生えた。
(そんなのアリですかッ!? 早く逃げて――)
逃げたとしても間に合わないだろう。
ここまでか――そう、以前までなら諦念を抱いていただろう。
けれど、だけど。
一人じゃない。
背中を預けられる英雄がいる。
絶対に諦めない仲間がいる!
(だとすれば私がやるべき事はッ!)
一歩前進したマシュロの強引な反転と同時にルシファーの口が開く。
『死――』
「閉じてろ!!」
「グゥッッ!?」
マシュロの退いた僅かな空間を利用し、地に手を着いたルカの強烈な蹴り上げが火を噴く。顎に叩き込まれた蹴撃によってルシファーは強制的に閉口させられ、脳を揺らしながら上空へと退避する。
決定機を無に帰した要素は、最大の信頼。
マシュロはルカを。
ルカはマシュロを。そしてラウニーを。
『傲慢』の化身であるルシファーがラウニーの体と脳内を牛耳っていたのならルカの読みは外れ、二人揃って命を落としていただろう。
しかしルシファーが支配する中でも、ラウニーが抗っているだろうと。
呑まれてたまるかと、戦っているだろうと。
ルカは最後まで信じていたのだ。
ラウニーの傲慢性を。
確実に戦場を支配する絶対強者を。
「ぶっ放せマシュロ!!」
「はいッッッ!!」
終わらない。終わらせない。
ルカの疾呼に応える――応えられるよう事前に反撃の準備を講じていたマシュロ。体勢の是非をとかく言わない背を地に落としながらの尽力の追撃。特大の電磁砲は意表を衝かれたラウニーの全身を容赦なく呑み込んだ。
「グオォォォ……痛ェ、畜生エメラの野郎ッ……!」
「ようやくお目覚めか? 起きた直後で悪いがケリをつけよう!」
全身の火傷、多大な出血を被ったラウニーへと迫るのは極彩色の八芒星を瞳に灯した少年。
どこまでもどこまでも上回る策略で常に足元を掬ってくる仇敵の手には極彩色の剣身を象った光剣。
禍々しくも神々しい魔力の追随は前戦の再来を想起させた。
「ルカッ、ローハートォォォォ!」
「力に溺れる前のお前の方が強かった! エレオス!!」
「ッ! 砕けろォォォォォ!!」
翼を焼失し折衝するのみのラウニーは最後の抵抗として、最高峰の威力を誇る踵落としを高々と振り上げる。そして欠片として残っているルシファーの力、絶対支配を無意識に口走った事で広がる『粉砕』の呪言。
迫る二つの脅威に。
「負滅救斬」
ルカの光剣が淀みなく振られた。
絶対服従だった言の波を斬り裂き、剣身はラウニーへ。
光刃鯨波。
夜闇に瞬く多色の花火。大爆発のように大荒れの暴風が辺りに吹き、地に転がっていたマシュロを吹き飛ばす。
瓦解した工業地帯を揺るがす大震動と夜明けの如く虹彩に、魔物を相手にしていた戦士達も、サキノも、ラナも一つの戦いの終わりを感じ取った。
円弧を描きながら全ての力を使い果たしたラウニーが降下を始める。
「チッ……やっぱ強ェな……」
誰にも聞かれることの無い是認ははっきりと。
傲慢の牙が二度に渡り折られたラウニーは上空で意識を途絶えさせた。
どさっ、と地に墜落したラウニーへと遅れて着地したルカは覚束ない足取りで近寄り、意識が無いと理解していながらも口を開く。
「ふー、ふぅー……いつでも相手になってやるよ。だけど周りを巻き込むな。仲間に手を出そうものなら、俺は絶対にお前を認めない」
それはルカの『切望』。
己だけならば幾らでも相手になろう。しかしマシュロや子供達を巻き込む事だけはするなと。
自身だけが狙いならばそれでいい。老紳士の伝言をゼノン達から聞いていないルカは周囲への被害だけを忌避していた。
戦うのならば正々堂々と。正面から。強者であるラウニーとの公平な戦いならば望むところだと。届かない切望をラウニーへと告げたのだった。
「ルカさん……」
「……行こう。まだ皆が戦ってる」
もう既に限界は越えている事だろう。それでも魔界の為に脚を止めようとしないルカにマシュロは胸が痛んだ。
マシュロは自派閥の副団長に一度頭を下げ、サキノと合流するために駆けていくルカの背を追っていったのだった。
ラウニー・エレオス撃破。
× × × × × × × × × × × × ×
膝の付いたサキノを眼前に、勝敗の着いたルカ達の進撃を確認したラナは妖艶に微笑む。
「終わったようね。まさかエレオスが負けるとは思いもしませんでしたが。まあいいわ、それじゃあ、また遊んでね、サキノちゃん?」
「ハァ、ハァッ……!」
空色の片翼から充填されたマシュロの電磁砲をひょいと躱したラナは、大跳躍でルカ達から射線を切った。ルカ達のサキノへの憂慮の声が響く中、ラナは扇子を口に宛がいながら一声。
「爺」
「はっ、こちらに」
待機していましたと言わんばかりに広がる亜空間の円形門の中には、胸に手を当てお辞儀をする老紳士。
「エレオスの所まで」
「畏まりました」
別の亜空間がラナの横に開門し、老紳士の門が閉じられる。コツコツと楚々とした足音を響かせながら門を潜ったラナの前には仰臥で倒れ伏したラウニーの姿。
周囲を回顧し戦禍を目の当たりに、目尻を妖しく吊り上げ笑う。
「くすふふ、無様ですね。『魔織化』を解放しても負けるだなんて、些か傲慢が過ぎたわね。自己を律せぬ者に力を使いこなせる訳がないでしょう? 貴方はもう要らないわ」
ラナはしゃがみ込みラウニーの顔を隠すよう扇子を被せ、
「いただきます」
手を合わせ瞑目した。
黒い魔力が沸々と周囲で沸き立ちながら、ラナは暫時『食事』に興じていった。




