その二
部室の戸が勢いよく開けられたのはそんな時だった。手を止めて、そこを見れば、中久保カツミにとって現下のお悩みのお相手がおそろいでいらっしゃる。ともに文芸部たる川波聖羅と静間秀子は、実に重そうな着物姿で、髪型も馴染みから程遠い昔風な感じになって、息を切らしていたのである。前記の通りすでに文化祭は終了しているし、ハロウィンもとうに過ぎている。さらに付け加えるならば、そんな格好は西洋を源流とするイベント時には適していない。なんていう戯言を彼があっけにとられながら思っていたのは、単なる現実逃避以外にはない。なにせ、二人とも必死の形相で懇願しているのである。他でもない。
「これ、どうにかしてよ」
「なんで、こんなんなってるのか、さっぱり分かんないんだけど」
つまりは、彼女らにとっても困惑するほどに原因不明というわけだ。日本史のコスプレをしでかしたらしい張本人たちが主体的意志の元に着替えたわけでもないらしいのだから、文芸部室で黙々と一人お悩み相談室を施していた中久保カツミに原因が分かったり、現状を解消したりできるわけがなく、
「まあ、そこにいては目立つ。中に」
なんて言って二人を招く以外に対処できる術はなかった。