2話 出会い
少年から離れ、僕はスラムをひとり歩いている。
(まずはこの空腹感をなんとかしないと。腹が減っては戦はできぬ、だしな。でも僕はお金もないしもちろん権力もないしどうしようかな。やっぱりこういう時って冒険者になるのかな。)
僕は前世で読んだ物語の知識を総動員し考えていた。
『レオ』はスラムの徒党に属していた。そこでは生きるギリギリの食糧が与えられる。その見返りとしてさまざまな仕事をしていた。俗にいう悪いこと、だ。そんな中でも『レオ』は前を向いて生きていた。
(とりあえず何か食べるものを盗むか。そこから考えよう。)
ものを盗むことに罪悪感は覚える。が、生きるためだ。そんな甘いこと言ってられない。
(前世では法律なんて破ったことなかったな。あ、お酒だけは18から飲んでたっけ。大学生でサークルに入ってお酒飲まない人なんて会った事ないや。)
そんなくだらないことを考えながら僕は安全に食料を盗める場所を探した。生きるためにしなければならないこと、それが僕をひどく興奮させた。前世で感じたことのない空腹感も今はさほども感じない。
(よし、ここにしよう。)
スラムはひどく治安が悪い。スラムのお店は盗みに対処するためにいつだって警戒している。しかし、用心棒を雇うことは金銭的事情でできない店が多い。ほとんどのお店が前世の凄まじいセキュリティに比べれば月とスッポンではあるが、それでも14歳にも満たない少年がそのお店から盗みを成功させるのは至難の業だ。だからこそ、スラムの少年少女は生きるために徒党に属している。1人では生きられないのだ。
失敗すれば死ぬかもしれない。その緊張感が僕をまた興奮させた。
僕は歩いている途中に拾った汚れた布で頭を覆い、狙っている横の店の前で精一杯低い声で叫んだ。
「スリだ!!!!」
場に緊張が走る。僕は小さい身体を利用して即座に人影に隠れる。そして、人の間を縫いながらお目当ての店の近くに留まる。店主たちは商品を守るために、この現状を作ったスリを見つけようとする。その瞬間、商品からほんの少し注意が逸れる。その隙を逃さず、僕は目についたものを盗み、路地裏に隠れてその場から立ち去った。
「ふぅ、なんとかなるもんだな。よし!これで一旦は生きていけるはずだ!」
盗んだものをよく見ると、地球では見たことがあるようなないようなものばかりだった。赤い色をしたバナナのようなもの、キャベツのようなもの、黄色い棒状のなにかなどよくわからないものばかりだ。
(よくわかんないけど食うしか生きる道はないんだしありがたく頂くとするか。店主のおじさんごめんな。)
心の中で軽い謝罪をした後、盗んだものをむしゃむしゃと食べながら考える。
(あんまりうまくないな。まぁスラムで売られてる商品なんてこんなもんか。よし、せっかくの新しい人生なんだし色々楽しみたいな。まぁ退屈じゃなければいっか。退屈になったら死のう。その時枷があると死ぬのが難しくなるし、今回は枷を作らずに生きなきゃだな!)
「おい。」
その時、背後から低く獰猛な声がした。
(だれだ!!)
即座に声の震源から距離を取り、声を発した人物を見る。黒髪で背は高く、ワイルド系の顔をしている。服は清潔とは言えないがスラムの中で暮らす人の中では汚くはない。そして、なにより僕では相手にならないほど強そうだった。
殺されては元も子もないので距離をとりながら丁寧に聞く。
「なんですか?」
男は少し驚いた顔をして話した。
「お前、さっき店から食料盗んだだろ?」
(ここら辺を占める徒党の者か。だとしたらまずい。逃げなければ。)
逃げようとした瞬間、それよりもはやく男は僕の腕を掴んだ。目と目が合う。理由はわからないが、男ははっきりと驚いていた。
「お前...!」
「くっ!はなせ!」
男は落ち着きを取り戻し、レオに告げた。
「まぁ待てよ。一応言っとくが俺は徒党の人間じゃない。お前に興味があって来たんだ。」
(徒党の人間じゃない?くそっ、情報が、知識が少なすぎる。)
「じゃあ何の用だ?俺が盗んだものを盗みにでも来たのか?」
男は少し口元を緩めた。
「だとしたらどうする?」
(僕はもう、自分を殺さないと決めたんだ!)
僕は男の脇腹に蹴りを入れてどうにかこの場から離れようとした。しかし、無情にもその蹴りは男には一切のダメージを与えず、逆に男の拳が僕の腹を殴った。そして、僕は意識を失った。最後に僕が見たのは男の笑った顔だった。
「こいつはいい拾いもんだ♪」




