第23話:下山
山を下りることになった。
山頂で一泊。
その後の朝だ。
黒の方は、穴に入ってしまい、今朝は出てこなかった。
伝えるべきはすべて伝えたから、あとはどうとでもしろ、ということなのだろう。
「今度は下りか・・・・・・」
登りがものすごく急な坂だった。
帰りは、
「転がったら、一気に下まで行けそうだよな」
「その場合、勢いがつき過ぎて、森に突っ込んだ挙句、全身の骨にいいダメージが入るでしょうね。はい」
ため息交じりにモリヒトが吐いた言葉に、ルイホウも同じような調子で頷いた。
「クルム達は、ここを降りる時どうしてるんだ?」
「滑り降ります」
「・・・・・・滑る・・・・・・?」
首を傾げたモリヒトの前で、クルムはなにやら金属製の金具を用意した。
「・・・・・・ええっと?」
「登る時は足で上る必要があるのですが、帰りの際には、頂上から麓まで、ワイヤーがはってありまして・・・・・・」
「まて、滑るって・・・・・・」
クルム達が、登り口とは別方向に向かっていく。
その後をついていくと、別の端に到達した。
そして、そこにはなにやら、台が作られ、その上にクルムの言う通り、棒とそこから伸びるワイヤーが見える。
モリヒト達が見ている前で、巫女の一人がそのワイヤーに、金属製の金具、フックをかけると、そこから伸びる紐に掴まり、跳んだ。
「・・・・・・わあ」
思わず感嘆の息を漏らしてしまうほどの、ためらいのなさだ。
巫女の姿は消えてしまい、崖の端へと顔を出せば、下の方に姿が見える。
「・・・・・・途中で二か所、止まれるようになっています」
「さすがに、一直線の降下はなしか」
「それをやると、勢いがありすぎて危険なので」
うーむ、とモリヒトは唸る。
FPSタイプのゲームなんかによく出てくるアクションだな、とモリヒトは思う。
降りるだけとはいえ、結構な勢いがついている。
「・・・・・・誰だよ。この移動方法考えたの・・・・・・」
「便利ですよ? 降りるときだけ」
「降りるときだけ・・・・・・」
確かに、降りるのはめちゃくちゃ早いだろうが、
「・・・・・・思うんだが、食料とかの割と重い荷物、一体どうやって運んでるんだ?」
「森守の集落からは、もう少し緩やかな登りの道があるんです」
「なんと・・・・・・」
「といっても、森守の巫女衆は、この山の黒岩にある程度干渉して形を変えられますから、それを使って、移動しやすいように道を作っているんですが」
言いながら、クルムは足元の岩に魔力を通して、形を変えて見せる。
「・・・・・・なるほど」
「熟練すると、この岩の変形だけで、荷物を持ち上げることができるんです。・・・・・・森守の巫女ならば、この山の上では魔力は黒様のものを無尽蔵に使えますので、ためらうこともないですし」
「すごいもんだ」
感心していると、モリヒトへ向かって、クルムが手を差し出した。
そこには、クルム達が持っている金具がある。
「・・・・・・おー」
何をさせられるのかはわかる。
「・・・・・・なあ、これ方向違うけど、どこへ降りるんだ?」
「森守の一族が、外との交流のために使っている広場の端です」
「そうか」
ワイヤーの色が黒い。
眼下の景色も、当然黒い。
おかげで、ワイヤーがどこを通っているのかが全く見えない。
「そうか・・・・・・」
ワイヤーの先が見えないため、ただひたすら森に落ちて行っているようにしか見えないのが、なんとも怖い。
「あ、じゃあ、ボクは行くね?」
クリシャは、そう言って、さっさと金具をひっかけて跳ぶ。
「ひゃっほーーーーーーっ!!!」
「・・・・・・嬉しそうだな」
スリルはあるだろうが。
「・・・・・・まあ、行くか」
悩んでいても仕方がない。
モリヒトは、渡された金具から伸びる紐を体に巻き付けて縛る。
そして、金具をひっかけると、
「・・・・・・わあこわい」
「押しましょうか? はい」
ルイホウが後ろに控えている。
「・・・・・・いや、自分で跳ぶよ。っと!」
跳んだ。
** ++ **
とりあえず、ゲームと違って、自分でやるのはすさまじく怖い。
オープンワールドゲームの主人公が、槍とか斧とかの手持ち道具だけでにたようなことをやっていたけれど、自分だったら絶対無理だな、と思った。
勢いがすさまじく、結局止まれない
「つか、こえーよ!!」
一度目の停止場についた段階で、叫んでいた。
「ははは」
クリシャが待っていて、けらけらと笑われたが、全く気にならない。
「・・・・・・普通に怖い。・・・・・・ナニコレ? 山肌が結構近くをがんがん過ぎていきましたよ? ちょっとでも触ったらこっちが削れそうなもんでしたよ?」
「勢いが着くと怖いのは分かるけどねえ」
なんtか自分の足で着地はできたが、
「ちょっとしびれてるし・・・・・・」
「おっと、モリヒト君、どいた方がいいね」
「む」
クリシャに引っ張られて空いた場所に、ルイホウが下りて来た。
「スリルがありますね。はい」
「・・・・・・スリルっていうのは、怖いものだと思う」
「だから楽しいのでは? はい」
「そうね・・・・・・」
慣れているのか、森守の巫女は特に気にした様子もなく、クリシャやルイホウは楽しんでいる。
「あー・・・・・・」
自分一人だけ怖がっているようで、ちょっと情けない。
「・・・・・・ようし! 二本目行くか」
「無理しなくていいんだよ?」
「無理はしてない。・・・・・・てか、この状況、いやがおうにも滑らんとどこにも行けんだろうが」
停止場は、山の中腹にせり出した、平たい場所だ。
それほど広いわけでもなく、ワイヤーの基部が立っているだけの簡素な場所である。
山頂から、大きく『く』の字のラインをワイヤーが作る用に置かれている。
二段目に到達したら、そこからは、森の上空を通って、広場へと到達するらしい。
「帰るため。帰るため」
モリヒトは跳んだ。
** ++ **
「・・・・・・ちょっと慣れた」
「それはよかった」
くすくすとクリシャが笑っている。
「三本目は・・・・・・」
さすがに、直接ワイヤーを見れば、大体どうなっているか分かる。
「結構長いな」
「その分、傾きもちょっとゆるいですね」
ワイヤーの下には、道が見える。
森の木々が切り開かれているのだ。
「下の道は・・・・・・」
「上に食料などを運ぶ時に使うための移動路です。表の登山道は、黒様への謁見用。こちらは森守が使う用です」
「なるほど」
狭いながらも道があるため、二か所目の停止場からなら、目的地の広場、というのが見えた。
白い幕は、帝国軍の天幕だろう。
「・・・・・・なるほど、キャンプ地とは別だが、あそこにもいるのか」
「キャンプ地は、異変が起こっている一帯に近くて、帝国側に開けた場所です。帝国側からの補給物資を受け入れやすい場所ですね」
「なるほど」
「あの広場は、来るためには森を通り抜けなければなりませんし、帝国の飛空艇が入れるほどには広さはありませんので」
クルムの説明に、なるほど、と頷く。
「ただ、三本目は、長い分傾きは緩やかでもそれなりに勢いが出ますから。注意を」
言って、クルムは跳んだ。
「んー。ボクも行くよー」
ひょい、とクリシャも軽く飛ぶ。
「では、今回は私から行きます。はい」
「む?」
「止まれなかった場合、私の方で魔術を展開して止めますから、怖がらずにどうぞ。はい」
「・・・・・・・・・・・・からかってる?」
「ふふふ。では、行きます。はい」
笑いを置いて、ルイホウも跳んだ。
「はあ・・・・・・」
やれやれ、とモリヒトは肩をすくめる。
「じゃあ、行くか」
跳んだ。
** ++ **
「じゃあ、やるか」
かはは、とミケイルは笑った。
** ++ **
しゅ、と何かが空を切る音がした。
その直後、モリヒトは、自分を吊り下げていた紐が切れたところを目撃した。
「っ!」
とっさにできたのは、
「―ライトシールド―
力よ/身を包め!!」
全身に、力場の鎧を張ること。
詠唱が正しくできたかは分からない。
とっさに、唱えたつもりになっただけかもしれない。
ただ、自分の持つ魔力を、渾身、ライトシールドの発動体へと注ぎ込んだ。
だがそこから、さらに横向きの攻撃を受け、モリヒトは森の中へと吹き飛ばされた。
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別作品も連載中です。
『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』
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