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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第3章:迷いの森と白い怪人
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第21話:昼食の集まり

 朝、モリヒトが目を覚ましてから、山頂へと到達した時点で、昼前だった。

 変な話だが、基本的に、黒は森守の巫女衆と食事を共にするのは、習慣となっているものらしい。

「割と俗っぽいな」

「何を言うか。人の食事は美味いぞ?」

「ていうか、その舌で味わかるのかよ」

「分かるとも」

 黒は頷き、座った。

 周囲から、森守の巫女衆が、皿を持ってくる。

「・・・・・・手慣れてんな」

「よくあることですので」

 クルムが、周囲の指揮をしながら言う。

「毎日なのか?」

「毎日のように、というところですね」

 割と幼い姿のクルムが、周囲の自分より大きい巫女衆に指示を出している姿には、ちょっと違和感がある。

「・・・・・・ひょっとして、クルムって偉いのか?」

 聞くところによれば、クルムは、森守の巫女衆のまとめ役の一人であるらしい。

「そんなん迎えによこしたのか」

「そのくらいでなければ、我の住処に入って、方向を見失わずにはおれぬのでな」

 住処、と言って、広場の端の穴の開いた岩を指し示す。

「あれが住処なのか」

 真っ暗な暗闇の穴がぽっかりと開いている岩である。

 妙に丸っこい岩なので、なんというか、人工物っぽい。

「なんだかな。自然物とは思えん」

 妙に使い勝手のよさそうな平坦な広場といい、周囲の岩の造形のラインが妙に綺麗であることといい、この山頂の光景には、人為的なものを感じてしょうがない。

「我が作った場だ。自然の造形でないのは当然であろうな」

 黒がもっともらしく頷いている。

「・・・・・・む」

「どうした?」

「いや、なんというかな? 真龍はこの世界の、何だ? 元、になっているわけだろう?」

「そうだな」

「それが作ったものが、自然の造形でないっていうのも、なんか違和感がな・・・・・・?」

「ふむ? なるほど?」

 黒は、モリヒトの顔を見ながら、何事かを考えた上で、頷いた。

「なんだ?」

「いや。・・・・・・汝ら異邦人と、この世界に生きる、そうさな。例えば、巫女衆と。その差を見ていた」

「どういうことだ?」

「異邦人は、神という概念を知っているであろう。異邦人は、皆、我ら真龍の存在を、この世界の神と見る」

「神、ねえ・・・・・・」

 言われてみれば、確かにそうだ、とモリヒトは思う。

 世界を作る元となった。

 この世界の魔力の源流である。

 大陸を作った。

 確かにそれは、神と呼ぶにふさわしいものなのだろう。

 モリヒトは、自分が意識してかせずにか、真龍を神の一種として見ていた。

「ていうか、神の概念通じるのか・・・・・・」

「過去にここを訪れた異邦人は一人ではない。それらと会話するうちに、おおよそ、人が神と呼ぶものがあることは知っているし、それが、巷にはびこる真龍信仰と同様なものであることは理解した」

 言い方を聞いていると、本当に知っているのか不安になってくる。

「しかし、異邦人というものは、神というものを超越者と見ているのではなかったか?」

「・・・・・・そういう談義は、いろいろと地雷があるからなしで」

「地雷・・・・・・? ああ、解釈の相違か。確かに、信仰というものは多くの場合、そのものの生の根幹になりうる。議論するものではないな」

 ふむ、と黒は頷き、

「だが、モリヒト。汝は、どうやら、神を自然物と見ているのだな」

「あー、そういうことになるのか」

 真龍が作った造形を、真龍本人が自然ではないということに違和感を感じるのは、そういうことだろう。

「だが、汝のその感覚は、こと真龍を表すには、正確である、と言えような」

 うむ、と黒は頷いた。

「我ら真龍は、まさしくこの大地においては、大地そのもの。自然そのものと言える存在だからな」

「・・・・・・飯の前に何を小難しい話をしてんだか」

 どうにもコメントしづらくなって、モリヒトはそう言い返した。

「おお。そうであった!」

 うむ、と黒は頷くと、

「では、いただくとしよう!」

 そう、大声で宣言したのだった。


** ++ **


 用意された昼食は、割と新鮮な野菜や肉を使ったものが多かった。

 皿の上に敷いた葉の上に乗せられた、何かの丸焼き肉。

 野菜を多く混ぜられたスープ。

 パンも用意されているが、こちらは黒い。

 黒パンではあるが、ふわふわとしていて柔らかく、甘い匂いを持っていた。

 いくつかの鍋には、それぞれに種類の違うスープが入っているようだが、

「・・・・・・なんか、全体的に黒いな」

「麓の森で取れるものを主な材料としている故、そこは致し方なし」

 うむ、と頷きつつ、さっそくパンをちぎり、スープに浸して食べている。

「美味し」

「そうか・・・・・・」

 周囲を見れば、ルイホウとクリシャは、迷うモリヒトを見て苦笑しているが、森守の巫女たちは、特にためらいもなく食べている。

 慣れもあるだろうが、そもそも森守は視覚よりも、嗅覚や聴覚が強いという話を思い出した。

 確かに、匂いはとてもいいのだ。

 切り分けられた肉からは、油と香辛料の匂いがする。

 スープからは、出汁のいい匂いがする。

「・・・・・・む」

 口に含んでみると、

「・・・・・・あんまり馴染みのない味だな。なんだろうこれ」

「そちらのスープは、麓の森にだけ育つ、ある木々の根をスープの出汁にしています」

 少し辛味があり、さらには、コクがある。

 カレーに似ている気もするが、ちょっと違う。

「美味いな」

「で、あろうよ。・・・・・・我が森守と食事を摂るようになったのは、割と最近の話でな」

「そうなのか?」

「うむ。当時の異邦の巫女が、当時の王国の食事が口には合わんと、いろいろと改革を進めておってな」

「何やってんだ異世界人」

 当時のテュールの食事は、オルクトのそれとそう変わらないものであったらしい。

 だが、当時のオルクトでの食事は、オルクトの地脈を利用した豊かな土壌に育った、豊かな農産物を主軸としていた。

 それに対し、テュール、という土地は、元は海の底にあった土地で、同じ作物を育てることは難しかったらしい。

 今でこそ、その辺りの土壌問題は、研究の成果としてある程度は改善したらしいが、それでも農作物が育ちやすい場所ではない。

 おかげで、オルクトから食料を輸送する必要があり、テュールの食事は、端的に言ってまずかったらしい。

「・・・・・・ちなみに、テュール建国前の話ですから、おそらくは数百年は昔のことです。はい」

 ルイホウが、こそっと教えてくれた。

 何百年か前を割と最近という。

 時間感覚が長いのは、やはり、真龍であるゆえんだろう。

「当時の異邦の巫女は、なにやら向こうにいたときは料理人をしていた、という話でな。テュールに限らず、オルクト内部でも、様々な調理技術を伝えていったのだ」

「今じゃ、食聖、とか言われてるねえ・・・・・・」

 クリシャが笑っている。

「当時の彼が作ったレシピは、今じゃ、オルクトやテュールで代表的な料理になってるね。特に、出汁文化は強い」

「出汁かー」

「うむ。・・・・・・ちなみに、発祥は我である」

「は?」

 何やら得意げに黒が言う。

「茸や海藻はともかく、獣の骨や魚の食べ残しを、わざわざスープに入れて出汁を取る、というのは、当時の民には受け入れがたかったようでな。なかなか浸透しなかった」

 そうしたら、

「業を煮やしたその巫女は、ある日ここに乗り込んできてな。我が食らって美味いと言えば、下界にも広がるだろう、と」

「・・・・・・ストレスかなんかで頭おかしくなってたんじゃねえか?」

「いや、食聖の逸話としては、極めて有名だよ。今でも演劇のネタにされることがある」

「は?」

「何せ、誰も彼もが、美味しいはずなのに、食べもしないで嫌うんで、激怒した食聖は、山に登って黒の真龍に謁見して、その喉に無理やりスープを流し込むんだよ。で、黒の真龍がうまいって叫んで、全体に広がるっていうのが、大体の流れ」

「無茶苦茶な・・・・・・」

「当の食聖は、好き嫌いも食べ残しも許さなかったからね。子供向けのしつけの一環として、結構使われているんだよ」

 ボクも結構使った、とクリシャは笑う。

「まあ、あの出来事があって、化身に味覚を作ったことには意味があったと思ったものだ」

 黒は言いながら、下を伸ばしてスープを舐めている。

「・・・・・・その舌で味が感じられるのか」

「もちろんだとも」

 うむ、と頷く。

「黒様がこうして食事をとるようになったおかげで、森守の中でも、食事に気を遣うようになりました」

 クルムが、黒にお代わりのスープをよそいながら言う。

「中には、調理技術を学ぶために、オルクトの首都へと留学する同朋もいます。オルクトとの間で、一番多い交流は、地脈研究より、食事の研究の方が多いんです」

「・・・・・・なんかなあ・・・・・・」

 真龍という存在の影響力の大きさに感嘆するべきか、どうにも漂う俗っぽさに呆れるべきか。

「これも、文化である」

 結局は、黒の言葉が真実な気がする。


** ++ **


「さて・・・・・・」

 昼食を終え、黒は口の周りをぬぐうと、モリヒトへと向き直り、厳かに告げた。

「では、腹も落ち着いたところで、汝を呼んだ理由の話と行こうか」

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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