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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第3章:迷いの森と白い怪人
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第20話:山頂、そして、在所の前

 モリヒトが目覚めたときには、既に朝になっていた。

 夜、モリヒトが休んでいる間に、クルムが山頂まで上がって食料などを取ってきた。

 それで朝食を済ませ、もう一度山登りを始める。

 今度は、安定して登り切った。

 山頂となる場所に到達した時、両側にそびえていた黒い壁はなくなり、視界を遮るものは消えている。

「・・・・・・この高さ、と考えると、登ってきた時間はそんな長くないのはなぜだ?」

 富士山以上の高さがあると思うのだが、登ってきた時間はそんなに長くないと思う。

「そりゃ、麓から一直線に登ってきてるからね。足場を選ぶ必要もないし、ルートを考える必要もない、となれば、ほとんど真っすぐ歩いてきてるのと変わらないよ。ただの坂道登りなら、こんなものじゃないかな?」

「加えて、私見ですが、空間的にこの辺りは歪んでいるように感じます。おそらく、実際の距離と歩いた距離では差異があるかと。はい」

「そうだねえ。下の森と同様、濃すぎる魔力のせいでいろいろ変わってる。・・・・・・案外、真っすぐに見えたあの道も、どこかで曲がっていた可能性もあるかな?」

 クリシャやルイホウが私見を述べあっているのを横目に、モリヒトは周囲を見回した。

 妙に立派な小屋が一つ。

 山頂で休むための施設だろう。

 常に森守の巫女衆の誰かが常駐しているらしく、食料そのほかの物資も常備してあるのだという。

 今回は、モリヒト達客人が来ることもあって、あらかじめ備蓄の量を増やしていたという。

 そして、山頂の広場となっている一角。

 そこに、祠がある。


** ++ **


 素材は、やはり黒一色だ。

 突き立った大岩に、穴が開いている。

 穴の奥は暗闇で見通せない。

 そこが入り口なのだろう。

 見た目分かりやすいようにするためか、白い模様で穴の周りが囲まれている。

「で、あそこか」

「はい」

 クルムに聞けば、素直に頷かれた。

 周囲では、森守の巫女衆やルイホウ達を含めて、食事の用意がすすめられている。

「飯食ってから?」

「お聞きしてきます」

 言って、クルムはするっと穴の中に入っていった。

「・・・・・・気軽に入っていくなあ・・・・・・」

 周囲の巫女たちを見ても、特に気にした素振りはない。

 しばらくして出てきた。

「黒様です」

 一人ではなかった。

 隣に、二足歩行の蛇がいる。

「・・・・・・蛇足」

「我は真龍ぞ。蛇と同列に扱うでないわ」

 意外に気安い声が返ってきて驚いた。

 見た目は、黒い蛇だ。

 丸い頭の黒い鱗を持つ蛇が、人間とほぼ変わらない大きさで二足歩行している。

 ゆったりしたローブで全身を覆っている。

 裾から覗く手足は、鱗こそ生えているものの、人間のそれとそん色ない形状をしていた。

 そして、後ろには、尾が伸びている。

「・・・・・・・・・・・・謁見、という話だったから、どこぞの神殿か何かで会うのかと思えば・・・・・・」

 モリヒトがそういうと、黒の真龍は、シュル、と長い舌を一瞬出し入れしてから、

「会って話ができればよい。形式など問うてどうなる」

 深く渋い声だ。

 口調は多少古臭くとも、気安さがある。

 だが、一言一言に、場が圧を持つ。

 周囲で食事の支度をする森守の巫女たちは、慣れているのか何も動じていない。

 ルイホウやクリシャは、多少顔をしかめているが、どうということもないようだ。

 黒の真龍のその目。黒い目が、モリヒトを捉えた。

「よく来た。異邦の客人。まずは楽にせよ。我は、俗人が黒の真龍と呼ぶもの。我は漆黒を司るこの世界の化身である。個別の名はない故、黒と、そう呼ぶがよい」

 しゅるるる、とおそらくは笑い声だろう音を漏らす黒の真龍の姿に、モリヒトはどうしたものかと唸るのだった。


** ++ **


 黒は気安い。

 モリヒトの思うところはそれだ。

 若者好きな老人が、若者相手に気取らずしゃべっている。

 そういう風に見える。

 威厳、という意味で言えば、それほど感じないが、一方で森守の巫女たちなどはしっかりと敬意を払っている。

 厳格な教師だが、若い女学生たちに尊敬を持って好かれている、というような状態が、案外近いかもしれない。

「・・・・・・ふむ」

 その黒蛇の黒曜石のような目が、じっとモリヒトを見ていた。

 食事の支度が進む中、対面に座ってのことである。

「謁見って、こういうのでいいのか?」

「かまわん。我は、ただ汝をこの目で見ておきたかっただけのこと」

「目で?」

「正確には、この場へと来てもらうことが肝要であった」

 周囲の広場を示し、黒はモリヒトへと目を向ける。

「この場は、我の領域。この領域に踏み込んだもののことは、子細に分かるもの」

「・・・・・・ふむ」

「本来なら、あの・・・・・・」

 岩に開いた穴を示す。

「穴へと入ってもられば、さらに詳細に分かるが・・・・・・」

 黒は、モリヒトをまじまじと見たうえで、首を振った。

「汝はやめておいた方がよかろうな」

「そうなのか?」

「ふむ・・・・・・」

 モリヒトの問い返しに、黒は顎に手を当てて唸る。

 それは、モリヒトに対し、どこまでを説明するか、と考えている風であった。

「食事ができました」

「うむ。飯の後にするか」

「・・・・・・食うのか?」

「そのための化身でもある。・・・・・・汝らが真龍と呼ぶ我らは、世界を作っているが、自分で作った世界を楽しめぬ、というのは本末転倒であろう」

「・・・・・・神様としちゃあ俗っぽいが、言いたいことは分からんでもない」

 モリヒトが肩をすくめれば、黒は黒でしゅるるる、と笑っているのだろう音を漏らす。

「まあ、飯の後にでもゆっくりと話すとしよう。・・・・・・ただ一つ言っておくことがあるとすれば」

「ん?」

「汝は、召還に巻き込まれたのではない。・・・・・・汝自身のうちに、この世界へと引き寄せられる理由がある」

「俺に?」

「心当たりはあるであろう?」

 言われて、モリヒトは一つ唸る。

 マモリと名付けた、かの存在を思い出す。

「・・・・・・ないことはない。けど、意味が分からん」

「それは、あとで説明してやろう」

 今は飯だ、と黒は、食事の場として整えられたその場へと歩いていく。

 その背を見送り、はあ、と一つため息を吐いて、モリヒトもそれに続くのだった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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