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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第3章:迷いの森と白い怪人
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第15話:森の中、怪人と狂科学者

「・・・・・・なるほどな」

 森の中に潜み、ミケイルは、手元の書類に目を通していた。

 サラを通じて、教団から回ってきた森の中の一団のリストだ。

「・・・・・・・・・・・・ベリガルは、やっぱ目の付け所が違うな」

「何かあったの?」

 無手のまま、のんびりと書類に目を通すミケイルに対し、サラの方は装備の調整に余念がない。

 周囲に匂い消しの結界を張った上で、その内部で薬品の調合や、道具の整備をしている。

 数が膨大であり、雑多だが、置き場所が決められて置かれているおかげか、整頓されて見える。

 まるで、小規模な工房のようでもあった。

「さてなあ・・・・・・」

 サラのその整備の手並みを横目に見ながら、ミケイルは考える。

「ちょっとしたちょっかい程度のつもりだったんだが」

「割とノリノリで突っ込んでいったように見えたけれど?」

「そりゃそうだろう? ちょっと面白いのがいたしよう」

「・・・・・・クリシャ、のことかしら?」

 サラが首を傾げる。

 サラは、最後に突っ込んでいって、あえなく撃退されたところしか見ていない。

 最初の、ミケイルの手甲を破壊したのが誰なのかを見ていない。

「いやあ、そっちはついで。ぶっちゃけ、帝国軍の方にあれに対する執着はねえだろ。捕まえて、ジルエンあたりに流してやりゃ、今回の遊びの迷惑料としちゃあ上等、と思ったくらいだな」

「・・・・・・・・・・・・」

 軽い調子で言うミケイルに、サラは何も答えない。

 ちょっとだけ、眉をしかめた程度だ。

「お? なんか気になるか?」

「・・・・・・・・・・・・いいえ」

「ははは」

 ミケイルは笑う。

「まあ、俺らみたいなのを研究してたところだ。そこにあんな上物流したら、どうなるかなんざ目に見えてるか」

「・・・・・・・・・・・・」

 サラは何も答えない。

 ただ黙々と手元を動かすだけだ。

「俺は、あそこで力を得たがねえ」

「・・・・・・私は、失うばかりだったわ」

 サラの声は小さく、絞り出すようでもあった。

「そういうもんか? 俺がお前に初めて会ったのって、いつだっけ?」

「二十年前。私が連れてこられた直後ね」

「お? そうだったか?」

「そうよ。私と貴方は同じ牢に入れられていたし、貴方は舌足らずでミとしか名乗れなかった」

「ははは。そうだったな」

 ミケイルは気にした様子もなく、ぺらぺらと書類をめくっていく。

 その様を横目に、サラはどこか緊張した面持ちで聞く。

「・・・・・・一番最初に牢から出されたのは貴方だった。あれから何をしていたの?」

「覚えてねえな」

 ミケイルの返事に、サラの視線が鋭くなる。

「いや、本当に覚えてねえんだ。連れ出されて、なんか注射されたところまでは覚えてんだが、その後はさっぱりだな。次に気が付いたのは、どっかの研究室で教団員ぶっ殺した後だ」

 そのあと、途方に暮れていたところで、ベリガル・アジンがやってきて、ミケイルを連れ出した。

「・・・・・・いつの間にか、ミュグラ、なんて名前を付けられてるしよ? 正直意味が分からんぜ」

「外でいろいろと名前が売れているみたいだけど?」

「ベリガルが言うには、あれ、全部俺じゃねえらしい」

「は?」

「ミュグラは、あくまでも俺みたいな改造をされた人間の総称だ。で、その中でも外で動いてたやつらが、そういう逸話を残してんだと」

 外に連れ出された後、なんとなくむかついて、それらのミュグラに関してはまとめて『処分』してしまったが。

「で、一通り終わったところで、サラと引き合わされたってわけよ」

「そうなの」

 ミケイルの記憶はあいまいだ。

「記憶ない間にも、なんか知識はきちんと与えられてたみたいでな。そこらへんは苦労してねえ。あとは、ベリガルにいろいろ体調べられて、どうやって使ったらいいかとかの特訓だな」

 外にいた『怪人』を相手にすることで、そういった リハビリは全部済んだ。

「おかげで今はこう動けるってもんよ」

 けけけ、と笑い、ミケイルは書類を投げた。

 ミケイルの手から離れた瞬間、書類は静かに燃え上がり、後には灰も残らない。

「こういう小細工は、やっぱベリガルが上手いな」

〈お褒めいただき、恐縮だな〉

 不意に、そんな声が響いた。


** ++ **


「なんだ、聞いてたのかよ?」

 ミケイルが、姿勢を正して声を発する。

 それに呼応するように、ミケイルの傍に小さな光が浮いた。

〈いいや。ただあの書類が焼かれたら、この通信が起こるように設定しておいただけだ〉

 響くのは、白衣の狂科学者、ベリガル・アジンの声である。

「今どこにいるんだ?」

〈テュールだ。今はいろいろ調査の最中でな〉

「調査だあ?」

〈今回君が起こしている騒ぎも、いろいろ利用させてもらっているとも〉

「け、くえねえ・・・・・・」

 吐き捨てるようにミケイルは言う。

「だがよお。あの資料の内容。事実でいいんだな?」

〈正確な観測ができているわけではない。ただ、そう推測すると、いろいろ通りがいい、という程度の話だ〉

「・・・・・・? 何の話なの?」

 サラが話についていけず、口をはさんだ。

 それに、ミケイルは視線をやって、答える。

「モリヒトって名乗った男がいたろう?」

「黒の真龍に謁見のために呼ばれたっていう?」

「あいつの話よ」

 ミケイルは、手を握ったり開いたりする。

 そうやって腕の調子を確かめる。

「ベリガルの推測は、多分あたりだろうよ。何せ、あいつの魔術は俺に傷をつけた」

〈・・・・・・ほう?〉

 ベリガルの声が、驚きのためか多少上ずった。

「資料の通りなら、納得だ」

「どういうこと?」

「あのモリヒトってのには、魔力を吸収する性質があるらしい」

「・・・・・・・・・・・・? それが何?」

 サラは首を傾げる。

「珍しい体質ではあるでしょうけど、それが貴方の体に傷をつける理由には・・・・・・」

〈なる〉

 ベリガルは、ぶつぶつと何かを考えながら、答えを吐き出す。

〈ミケイルの身体強化は魔力を用いる。ミケイル自身がある種魔術具のようなものだ。つまり、ミケイルは常に魔術を発動している状態、とも言える。そんなミケイルが、周囲に魔力を吸い取られた場合、その身体強化に綻びが生じる。さらには失った魔力の回復は、おそらく体力を通常より多大に消費することが考えられる以上、見た目以上に消耗するはずだ」

 戦闘を思い返しながら、ミケイルは頷いた。

「普段の俺なら、あの程度の拘束は引きちぎってる。それができてねえ時点で、モリヒトの近くに行けば行くほど、俺の身体強化が落ちてんのは明らかだ」

「・・・・・・よくわかるわね」

「ここに来た初日に、黒い花畑に踏み込んだろうが」

「ああ、なんかいきなり帰るっていったやつ?」

「あれと同じ感覚だった」

 森に来た初日、ミケイルは山に登ってみようとして、山に近づくために黒い花畑に踏み込んだ。

 だが、花畑に踏み込んだ瞬間、すさまじい倦怠感を得て、慌てて撤退したのだ。

「ただの草の葉っぱで肌が切れるくらいまで弱ってたからな。あの花畑は、俺にとってマジでやべえ場所だ」

 そして、

「モリヒトに近づけば近づくほど、似たような感覚はあった」

〈山の裾野の花畑か。あそこの花は魔力を吸収する性質があるからな。やはり推測は確かか・・・・・・〉

「それってつまり・・・・・・」

「おう!」

 ぱん、とミケイルは手の平へと拳を叩きつける。

「モリヒトは、俺にとっちゃあ、天敵ってことだな!」

「・・・・・・嬉しそうね」

 ミケイルの顔には、野獣めいた笑みがある。

「たりめえよ! 俺を殺せるやつなんざそうはいねえと思ってたがよ! これがどうだ! あんな弱そうなやつが、明確に俺の天敵だ! しかも、あいつにゃあ、俺を殺せる魔術があるときた!!」

 ははは、とミケイルは、実に楽しそうに哄笑する。

「あれでもうちょい戦いの駆け引き覚えれば、実に楽しく殴り合えそうだ!!」

 その様に、サラは、はあ、とため息を吐いた。

「しょうがない男」

〈楽しそうで何よりなことだ。今後も彼を狙うのかい?〉

 ベリガルからの問いに、ミケイルは、ふん、と多少考え込んだ。

「どうすっかな? 今行ったところで、たいして喰い甲斐ねえしな。ここでやることも終わったし」

〈終わった? 教団から持ち出したあれは・・・・・・〉

「おう。全部使っちまった」

〈ジルエンが怒り狂うだろうな。余ったなら、一つくらいは引き取りたかったが〉

「わりいな」

〈まあ、いいさ。本命ではない〉

 やれやれ、とベリガルはため息を吐いていた。

「んー。帰りにもう一回だけちょっかいかけっかね」

〈できれば、モリヒトというあの男は、殺さないようにしてくれるかね?〉

「お? なんでよ?」

〈次の『竜殺しの大祭』で、彼にやってほしい役割があってね〉

「ほーん?」

 ふむ、とミケイルは考える。

「分かった。気を付けとく」

〈頼んだよ〉

 言って、通信のお光は消えた。

 光の消えた空間をしばらく眺めたミケイルは、うん、と一つ頷いた。

「・・・・・・決めた」

「何を?」

「おう! 帰り際にあいつらに一回ちょっかいかけたら、そのままテュールに行くぞ」

「・・・・・・一応聞くけど、どうして?」

「面白そうじゃねえか! ただの祭に、大して興味はなかったがよ。あいつが絡むなら、ちょいと面白いことになりそうだ」

 そう言って、ミケイルはなんとも不穏な笑みを浮かべるのだった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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