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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第3章:迷いの森と白い怪人
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第13話:怪人撃退

「ミケイル」

 モリヒト達とミケイルが対峙しているところに、森の中から誰かが飛び出してきた。

 フードとマントで顔も体も隠した人物。

 声の調子から、女じゃないか、とあたりは付けられるが、それ以外は分からない。

「おう。ちょっと待ってろ、今面白くなってきた」

「・・・・・・あんまり、時間はないわよ」

「問題ねえよ。あとちょっとだ」

 かはは、と笑うミュグラに対し、フードを被ったサラははあ、とため息を吐く。

「退路は確保しておくから」

「おう」

 軽く手を上げて、ミュグラは一団を見る。

「さて、仕切り直すぜ?」

 ぱん、と右拳を左手にたたきつけ、ミュグラは宣言した。


** ++ **


 どうする気だ、とモリヒトが考える中で、ミュグラ・ミケイルは一歩を踏み出す。

「おうおう兄弟! 相手しろや」

「チンピラかよ」

 言っている間にも、ミュグラはこちらへと距離を詰めてくる。

「モリヒト様。はい」

 ルイホウはこちらを後ろへ下げようとするが、モリヒトは拒んだ。

「どうしようもないな」

 殴り合いになれば負ける。

 レッドジャックをそれぞれの手に握る。

「・・・・・・よ! ほ! たりゃ!」

 クリシャが掛け声とともに杖を振るい、その度にミケイルへと攻撃が当たるが、

「マジ効いてないな。どういう仕掛けだ?」

「ああ? 俺は特別頑丈なんだよ!」

 答えがあるとは思わなかった。

「頑丈ってだけで答えになるかバカ野郎!」

「バカとは何だバカとは! 俺は全身が魔術具みてえなもんなんだよ! 教団のやつらに全身いじられてっからな! おかげで、発動体を使っての魔術は使えねえが、全身身体強化発動しっぱなしで、頑丈さは折り紙付きってわけよ!!」

「・・・・・・すげえ、全部説明してくれた。バカじゃねえの?」

 モリヒトが呆れをにじませる中で、クリシャの攻撃をものともせずに流していたミケイルが、唐突にふらついた。

「ん?」

「ああ?」

 クリシャが訝しむのと同じくして、ミケイルの方も顔をしかめる。

「・・・・・・・・・・・・」

 だが、モリヒトはむ、と視線を鋭くする。

「ああ。やっぱりだ! なんか変だな。おい!」

 それまで一歩ずつ詰めていたミケイルが、そこでいきなり加速した。

 ほぼ一瞬で間合いを詰めたミケイルに対し、モリヒトはレッドジャックを構える。

「おらよ!」

「させませんよ! はい」

 右腕を振るって殴り掛かってくるが、ルイホウの水球が盾となってそれを防ぐ。

「足りねえな」

「絡め取ります。はい」

 水球を突き抜けそうな腕を、渦を巻くようにして絡めとり、勢いを弱めていく。

「ち!」

「舐めてもらっては困ります。はい」

 さらに複数の水球を集め、身体を拘束していく。

 その様を見て、モリヒトも動いた。

「―ライトシールド―

 力よ/拘束しろ」

 手甲をはめた左手を、ミケイルに向ける。

「ち!」

 力場の盾の変形展開。

 一つ目は、腕を拘束した。

「まだいくぜ、と」

 それで、腕と足、そして胴を封じて止める。

「・・・・・・イメージの勝利」

 こういう拘束は、アニメでよく見るやつなのだ。

 見た目には、半透明の青白い直方体が、ミケイルの手足や胴にはまっている状態だ。

「くそ、こんなもんで!」

 力任せに破壊する、というのもないではないだろう。

 というか、おそらくミケイルなら不可能ではない。

 だが、今は無理だろう、とモリヒトはあたりを付ける。

「クリシャ、特大の!」

「はいよ!」

 クリシャが、杖を振りかぶる。

「―アフィータ―

 力よ/力よ/力よ/」

 ぎし、と音が鳴ったのは、ミケイルを封じている拘束からだ。

 まじか、と顔を引きつらせる中、クリシャの詠唱は続く。

「鎚/槍/斧/重ねて/まとめて/ぶち抜いてしまえ!」

 クリシャが、杖を振るった。

「ち!」

 不可視のはずの力の塊が、空間をゆがませるほどに収束し、拘束されているミケイルの腹部を打った。

 その衝撃で拘束がはじけ、ミケイルは後方へと大きく飛ばされる。

「・・・・・・・・・・・・やったか?」

 周囲の帝国兵の中から上がった声に、モリヒトは顔をゆがめる。

「まだだろうなあ・・・・・・」

「おや、なぜだい? 結構威力込めたんだけど」

 クリシャの口調は、軽い。

 おどけるような口調だが、その表情は険しい。

「手応えは?」

「だめだね。思いっきり打ったとは思うけど、内臓ナカまでは入ってない。たぶんすぐ立ってくるよ」

 言葉を聞いて、周囲の帝国兵たちが顔を引きつらせる。

「・・・・・・だろうなあ・・・・・・」

 さて、状況は、と。


** ++ **


「ミケイル?」

「おー。いてえ」

 吹っ飛ばされたミケイルは、にやにやと笑いながら立ち上がる。

「・・・・・・・・・・・・痛いのがうれしいの?」

「いやいや。正面からやり合えそうなやつらだってのがうれしいのよ」

 ミケイルは、戦うのは好きだ

 だが、勝つのが好きなわけじゃない。

 戦うのが、好きなのだ。

「俺の攻撃に耐えるやつってのは結構見てきたが、俺に攻撃を通せるやつってのは、珍しいんだよ」

 かはは、とミケイルは笑う。

「久々に、楽しめそうだ」

 体を起こしてみれば、腹部にじわりとにじむ赤がある。

「退くぞ」

「はいはい」

 仕方ないな、とため息を吐きながら、サラは地面へと煙玉を叩きつける。

 煙幕が一瞬で広がり、周囲の視線を覆い隠す中で、

「兄弟! おい、モリヒトよお! また遊ぼうぜ!!」

 ははは、と笑い声をあげながら、ミケイルは森の中へと飛び込んだ。


** ++ **


「・・・・・・・・・・・・勝手なことを・・・・・・」

 煙の中から響いてきた声に、モリヒトは顔をしかめる。

「普通にやりあったら、間違いなく俺が死ぬっての」

「だろうね」

「モリヒト様は、近接での戦闘は訓練が足りませんから。はい」

「二人して好き勝手言ってくれる」

「魔術だって、結局相手が当たってくれたようなもんじゃないか」

「最初は油断していましたし、二発目は私が拘束した後でしたからね。はい」

 お前ら、とモリヒトが肩を落とすと、ふ、とクリシャが笑った。

「何はともあれ、一旦は退いたみたいだ、防人の負傷者を回収して、応急手当したら、先に進んだ方がいいだろうね」

 クリシャがクルムを見た。

「森の中の防人、呼び戻してもらえるかい?」

「・・・・・・・・・・・・」

 クルムは、動かない。

「クルム?」

「あ、はい! 呼び戻します」

 硬直していたクルムが、首に下げていた笛を吹いた。

 音が鳴ったようには聞こえなかったが、

「犬笛の類か?」

「はい。クルム達、森守の一族なら聞こえますので」

 ふう、ふう、と笛を吹き終えたクルムは、胸に手を当てて深呼吸を繰り返している。

「・・・・・・大丈夫かい?」

「す、すいません。クルムは、あまり戦闘には出たことがなくて・・・・・・」

「ああ、それで固まってたのか」

「・・・・・・すいません」

 小さくなってしまった。

「いいんじゃないか? 別に。役割じゃないって言うなら、他の役割のやつの邪魔にならないようにすればよし」

「そういう、ものでしょうか」

「なんでもできるわけでなし。できることをやればいいって。さしあたり、クルムの役割は俺の案内。闘いじゃないよ」

「・・・・・・・・・・・・ありがとうございます」

 ふう、と息を大きく吐いたところで、森の中に入っていた防人たちが戻ってきた。

 傷らしい傷は負ってはいないが、

「すみません。巫女クルム。罠だらけで、敵の捕捉はできず」

「かまいません。それより、負傷者を回収。森を抜けることを優先とします」

「はい」

 ともあれ、隊は行軍を再開するのだった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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