第13話:怪人撃退
「ミケイル」
モリヒト達とミケイルが対峙しているところに、森の中から誰かが飛び出してきた。
フードとマントで顔も体も隠した人物。
声の調子から、女じゃないか、とあたりは付けられるが、それ以外は分からない。
「おう。ちょっと待ってろ、今面白くなってきた」
「・・・・・・あんまり、時間はないわよ」
「問題ねえよ。あとちょっとだ」
かはは、と笑うミュグラに対し、フードを被ったサラははあ、とため息を吐く。
「退路は確保しておくから」
「おう」
軽く手を上げて、ミュグラは一団を見る。
「さて、仕切り直すぜ?」
ぱん、と右拳を左手にたたきつけ、ミュグラは宣言した。
** ++ **
どうする気だ、とモリヒトが考える中で、ミュグラ・ミケイルは一歩を踏み出す。
「おうおう兄弟! 相手しろや」
「チンピラかよ」
言っている間にも、ミュグラはこちらへと距離を詰めてくる。
「モリヒト様。はい」
ルイホウはこちらを後ろへ下げようとするが、モリヒトは拒んだ。
「どうしようもないな」
殴り合いになれば負ける。
レッドジャックをそれぞれの手に握る。
「・・・・・・よ! ほ! たりゃ!」
クリシャが掛け声とともに杖を振るい、その度にミケイルへと攻撃が当たるが、
「マジ効いてないな。どういう仕掛けだ?」
「ああ? 俺は特別頑丈なんだよ!」
答えがあるとは思わなかった。
「頑丈ってだけで答えになるかバカ野郎!」
「バカとは何だバカとは! 俺は全身が魔術具みてえなもんなんだよ! 教団のやつらに全身いじられてっからな! おかげで、発動体を使っての魔術は使えねえが、全身身体強化発動しっぱなしで、頑丈さは折り紙付きってわけよ!!」
「・・・・・・すげえ、全部説明してくれた。バカじゃねえの?」
モリヒトが呆れをにじませる中で、クリシャの攻撃をものともせずに流していたミケイルが、唐突にふらついた。
「ん?」
「ああ?」
クリシャが訝しむのと同じくして、ミケイルの方も顔をしかめる。
「・・・・・・・・・・・・」
だが、モリヒトはむ、と視線を鋭くする。
「ああ。やっぱりだ! なんか変だな。おい!」
それまで一歩ずつ詰めていたミケイルが、そこでいきなり加速した。
ほぼ一瞬で間合いを詰めたミケイルに対し、モリヒトはレッドジャックを構える。
「おらよ!」
「させませんよ! はい」
右腕を振るって殴り掛かってくるが、ルイホウの水球が盾となってそれを防ぐ。
「足りねえな」
「絡め取ります。はい」
水球を突き抜けそうな腕を、渦を巻くようにして絡めとり、勢いを弱めていく。
「ち!」
「舐めてもらっては困ります。はい」
さらに複数の水球を集め、身体を拘束していく。
その様を見て、モリヒトも動いた。
「―ライトシールド―
力よ/拘束しろ」
手甲をはめた左手を、ミケイルに向ける。
「ち!」
力場の盾の変形展開。
一つ目は、腕を拘束した。
「まだいくぜ、と」
それで、腕と足、そして胴を封じて止める。
「・・・・・・イメージの勝利」
こういう拘束は、アニメでよく見るやつなのだ。
見た目には、半透明の青白い直方体が、ミケイルの手足や胴にはまっている状態だ。
「くそ、こんなもんで!」
力任せに破壊する、というのもないではないだろう。
というか、おそらくミケイルなら不可能ではない。
だが、今は無理だろう、とモリヒトはあたりを付ける。
「クリシャ、特大の!」
「はいよ!」
クリシャが、杖を振りかぶる。
「―アフィータ―
力よ/力よ/力よ/」
ぎし、と音が鳴ったのは、ミケイルを封じている拘束からだ。
まじか、と顔を引きつらせる中、クリシャの詠唱は続く。
「鎚/槍/斧/重ねて/まとめて/ぶち抜いてしまえ!」
クリシャが、杖を振るった。
「ち!」
不可視のはずの力の塊が、空間をゆがませるほどに収束し、拘束されているミケイルの腹部を打った。
その衝撃で拘束がはじけ、ミケイルは後方へと大きく飛ばされる。
「・・・・・・・・・・・・やったか?」
周囲の帝国兵の中から上がった声に、モリヒトは顔をゆがめる。
「まだだろうなあ・・・・・・」
「おや、なぜだい? 結構威力込めたんだけど」
クリシャの口調は、軽い。
おどけるような口調だが、その表情は険しい。
「手応えは?」
「だめだね。思いっきり打ったとは思うけど、内臓までは入ってない。たぶんすぐ立ってくるよ」
言葉を聞いて、周囲の帝国兵たちが顔を引きつらせる。
「・・・・・・だろうなあ・・・・・・」
さて、状況は、と。
** ++ **
「ミケイル?」
「おー。いてえ」
吹っ飛ばされたミケイルは、にやにやと笑いながら立ち上がる。
「・・・・・・・・・・・・痛いのがうれしいの?」
「いやいや。正面からやり合えそうなやつらだってのがうれしいのよ」
ミケイルは、戦うのは好きだ
だが、勝つのが好きなわけじゃない。
戦うのが、好きなのだ。
「俺の攻撃に耐えるやつってのは結構見てきたが、俺に攻撃を通せるやつってのは、珍しいんだよ」
かはは、とミケイルは笑う。
「久々に、楽しめそうだ」
体を起こしてみれば、腹部にじわりとにじむ赤がある。
「退くぞ」
「はいはい」
仕方ないな、とため息を吐きながら、サラは地面へと煙玉を叩きつける。
煙幕が一瞬で広がり、周囲の視線を覆い隠す中で、
「兄弟! おい、モリヒトよお! また遊ぼうぜ!!」
ははは、と笑い声をあげながら、ミケイルは森の中へと飛び込んだ。
** ++ **
「・・・・・・・・・・・・勝手なことを・・・・・・」
煙の中から響いてきた声に、モリヒトは顔をしかめる。
「普通にやりあったら、間違いなく俺が死ぬっての」
「だろうね」
「モリヒト様は、近接での戦闘は訓練が足りませんから。はい」
「二人して好き勝手言ってくれる」
「魔術だって、結局相手が当たってくれたようなもんじゃないか」
「最初は油断していましたし、二発目は私が拘束した後でしたからね。はい」
お前ら、とモリヒトが肩を落とすと、ふ、とクリシャが笑った。
「何はともあれ、一旦は退いたみたいだ、防人の負傷者を回収して、応急手当したら、先に進んだ方がいいだろうね」
クリシャがクルムを見た。
「森の中の防人、呼び戻してもらえるかい?」
「・・・・・・・・・・・・」
クルムは、動かない。
「クルム?」
「あ、はい! 呼び戻します」
硬直していたクルムが、首に下げていた笛を吹いた。
音が鳴ったようには聞こえなかったが、
「犬笛の類か?」
「はい。クルム達、森守の一族なら聞こえますので」
ふう、ふう、と笛を吹き終えたクルムは、胸に手を当てて深呼吸を繰り返している。
「・・・・・・大丈夫かい?」
「す、すいません。クルムは、あまり戦闘には出たことがなくて・・・・・・」
「ああ、それで固まってたのか」
「・・・・・・すいません」
小さくなってしまった。
「いいんじゃないか? 別に。役割じゃないって言うなら、他の役割のやつの邪魔にならないようにすればよし」
「そういう、ものでしょうか」
「なんでもできるわけでなし。できることをやればいいって。さしあたり、クルムの役割は俺の案内。闘いじゃないよ」
「・・・・・・・・・・・・ありがとうございます」
ふう、と息を大きく吐いたところで、森の中に入っていた防人たちが戻ってきた。
傷らしい傷は負ってはいないが、
「すみません。巫女クルム。罠だらけで、敵の捕捉はできず」
「かまいません。それより、負傷者を回収。森を抜けることを優先とします」
「はい」
ともあれ、隊は行軍を再開するのだった。
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別作品も連載中です。
『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』
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