第12話:『怪人』ミュグラ
サラは、迫りくる防人に対応しようとしていた。
素で化け物なミュグラ・ミケイルと違い、サラはそこまで異常ではない。
サラの戦闘法は、弩、ナイフを武器のメインとして、いくつか用意した薬品と魔術付与による様々な効果を利用した手数重視の戦い方になる。
接敵を避けて、罠と弩による攻撃が主となる。
だから、防人が迫ってくる方向にいくつか罠を仕掛けて、待ち構えていたところだった。
「やれやれ・・・・・・」
隠れて、気づかれないままに敵をやっていくのが普段のスタイルなだけに、正面から戦闘しなければならない状況は、逆にきつい。
のだが、相方がああでは、しょうがない。
向かってくる防人は、まだ距離があることもあって、こちらに気づいていない。
警戒しながら向かってくる防人は、これまでにも数度戦闘経験はある。
とはいっても、戦闘はミュグラ・ミケイルの方が引き受けてきたため、実を言うとサラ自身が防人と戦闘に入るのは初めてなのだが、
「時間稼ぎね。戦闘する義理なし」
相方が満足するまで、引き付けておけばいい。
視線の先では、さっそく罠の一つが発見されて潰されている。
「やりにくいったらないわ・・・・・・」
地の利は向こう側。森の異常を見つけるのも向こうが上手い。
今までに行ってきた仕事の中でも、相手の質がトップクラスに高い。
「まあ、仕掛けた罠の数が数だし、放っておけば大丈夫でしょう」
仕留める必要はない。
下手に手を出せば発見の可能性があるし、囮だけ置いて、自分は相方が撤退する時の逃げ道だけ作りに行こうか、と動いた瞬間だった。
音を置き去りにした衝撃が森を揺らし、その後に、ごん、と聞きようによっては間抜けにも聞こえる音が森を突き抜けた。
「・・・・・・ミケイル・・・・・・?」
自分でもつかみきれない焦りに突き動かされて、サラは森を移動した。
** ++ **
周囲は、一瞬目と耳の感覚を失っていた。
それほどに爆発的な閃光で、それほどに爆発的な音であった。
衝撃が突き抜け、周囲を吹き飛ばし、森の木々を大きく揺らした。
「・・・・・・な、なにが・・・・・・? はい」
ルイホウがおそるおそると目を開ける。
水球を浮かべていたのがよかった。
おかげで、衝撃の大半を受け流すことができた。
その代わりに、水球のほとんどは吹き飛んでいたが。
モリヒトを見れば、目をふさいで顔をしかめている。
「モリヒト様? はい」
「・・・・・・こうなんのか。こええ・・・・・・」
「何を、やったのですか? はい」
「イメージ偏重のレールガン」
目をこすったり、耳をぽんぽんと撫でたり、額をぱしぱしと叩きながら、モリヒトは呟く。
「それは一体何なのでしょう? はい」
「雷で金属を加速させる弩、みたいなもん。・・・・・・つっても、俺のイメージ偏重の魔術だからな。実物とは全然違う」
はずだが、とモリヒトはつぶやく。
ずいぶんと威力が出た気がする。
特に、着弾時の爆発は何だろうか。
「・・・・・・炎のイメージに、セイヴのイメージが混じったか?」
こっちに来てから、セイヴの炎を見て、炎といものに対する攻撃力のイメージもずいぶんと上がった。
「ああ・・・・・・」
「これは、すごいね」
傍らから、クリシャの感嘆の声が聞こえた。
地面がめくれ上がったのは、最初の魔術の影響だが、
「・・・・・・あいつの足元、防人がいたよね? そっちは?」
「詠唱の中で土塊浮かべて、ライトシールドで衝撃が拡散しないように保護してるから、生きてれば大丈夫だろ。つか、そこまで気にしてる余裕はない」
モリヒトは、ミュグラが立っていた場所を見ている。
「・・・・・・おかしいんだよなあ? なんであの位置で爆発する? 俺は、貫通をイメージしたんだが・・・・・・」
衝撃が拡散している。
イメージとしては、突き抜けて、衝撃も何もこちらには返ってこないはずなのだが。
「イメージが乱れたわけじゃない。となると、単純に相手の防御となんか干渉したか?」
「それ、相手が生きているってことにならないかな?」
クリシャが嫌そうな顔をしている。
「おいおい。これまで平和な人殺しとは無縁の世界で生きてきた一般人に、そんな一撃決着とか期待するなよ」
言いつつも、モリヒトは内心首を傾げてもいた。
過剰威力なのは、分かりきっていた。
今回イメージした魔術が確実に発動した場合、敵、ミュグラの体に大穴が空く。
どう考えても即死威力だ。
それを、ほぼためらいなく発射している。
「さて・・・・・・」
自分、そこまで危険人物だったか、と内心首を傾げつつも、モリヒトは左腕を回す。
「あー。だいぶしびれが取れてきた」
「回復していますから。はい」
気づいていなかったが、ルイホウの方で回復してくれていたらしい。
防御魔術を展開しながらなんだから、やっぱりルイホウは器用だよなあ、と思いながら、礼を言っておく。
「あ」
「どうかした?」
「ブレイス投げちゃった」
しまった、と思いながら、レッドジャックを抜く。
「あー・・・・・・」
もったいな、と思う。
「飛ばす矢も、魔術で作ればよかった。・・・・・・なんでブレイス乗せちゃったかな?」
しまったなあ、とぼやきながら、
「―レッドジャック―
風よ/吹け」
適した属性ではないとはいえ、風を吹かせるくらいなら、レッドジャックでもそれほど問題ない。
そして、風が吹けば土煙が晴れ、魔術の結果が現れる。
「・・・・・・無傷、かな?」
信じがたい光景だ。
両腕を体の前で交差させたまま、ミュグラを名乗った白い怪人は普通に立っている。
「・・・・・・ばけもんだな」
言っている先、腕の交差を解いて、ミュグラが姿勢を戻した。
「・・・・・・驚いたぜ」
「こっちのセリフなんだが?」
「あーあ・・・・・・。手甲が壊れちまった・・・・・・」
言われてみれば、だ。
怪人の腕を覆うつぎはぎした鉄の塊みたいな手甲がきれいさっぱり消えている。
その下の白い地肌が見える腕を、ミュグラは不思議そうに見下ろしていた。
「へえ・・・・・・」
その腕に、赤い筋がある。
出血が、腕を垂れているのだ。
「・・・・・・ははは!」
それをしばらく眺め、不意に舐めとったかと思えば、いきなり笑い始めた。
「・・・・・・衝撃が脳に入ったのだろうか」
「最初から、大体あんな調子じゃなかったかい?」
「お二人とも、そんな場合では・・・・・・。はい」
言い合っている間にも、ミュグラは笑っている。
周囲に、異様な雰囲気が漂う中、ひとしきり笑った後で、ミュグラはこちらを見た。
モリヒトを、だ。
「おもしれぇなあ、兄弟!」
「誰が兄弟だばかやろう」
顔をしかめて言い返すモリヒトに、
「おいおい。つれねえこと言うなよ、なあ、おい! 俺は、初めて会ったんだぜ? たかが魔術で、俺に傷をつけるようなやつとはよ!」
「・・・・・・・・・・・・あの手甲、発動体だったのか?」
「可能性はあります。はい」
モリヒト自身、ライトシールドの手甲をはめている。
あの手甲が、あの異様な防御力を発生させているとすれば、
「もう一撃」
「穿て!」
クリシャが、杖を振るった。
力の塊が、叩きつけられ、
「・・・・・・無傷?」
「おいおい・・・・・・」
クリシャの魔術を受けて、ミュグラは微動だにしていない。
「ん? おいおい。効かねえよ。そんなちゃちなもん」
「どういう理屈だ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・思い出しました」
「?」
背後、帝国兵の一人が声を発した。
「隊長! あいつ、『怪人』だ!」
「な!?」
周囲で上がる驚きの声に、モリヒトは首を傾げる。
「かいじん・・・・・・?」
「聞いたことがあります。はい」
「知っているのか? ルイホウ」
「冒険者、あるいは、傭兵の有名人です・・・・・・。はい」
「ああ、そうか、ミュグラ教団関係の手配リストには載ってないから、思い至らなかったな」
「・・・・・・ええっと、誰?」
モリヒトの疑問に、ルイホウが顔を険しくしながら、答えた。
「犯罪者ではありません。大陸各地で現れる危険魔獣や、犯罪者なんかを狩っている賞金首ハンターです。はい」
「敵の群れのど真ん中に真正面から突っ込んでいって、笑いながら虐殺する『狂戦士』。そんな闘い方をしておきながら、返り血だけで傷一つ負わない『人外』」
さらにクリシャは続ける。
「あっちこっちの色町に出没しては浮名を流す『伊達男』。気分次第で依頼を受け、時に悪者をくじいて弱者を救済する『義賊』」
「? 変なやつなのは分かるが・・・・・・」
「接触して取り込もうとした貴族家が断られた腹いせに私兵をぶつければ全滅させられ、犯罪組織が粉をかければ、跡形もなく消える。・・・・・・経歴不明、思想不明、能力不明、それどころか本名すら不明。とりあえず、関わらなければ実害はない。・・・・・・あまりにも意味不明すぎて、付けられた二つ名が、『怪人』」
「・・・・・・外見がやたら目立つぞ? そっちは・・・・・・」
「それも、だよ。ボクのこともあるから、ああいうのは真っ先にミュグラ教団との関わりを疑われる。なのに、そういうのが一切出てきてなかった。・・・・・・今まではね」
クリシャは、ミュグラと名乗った男を見やる。
「どうして、ミュグラなんて名乗るんだい? 他に名前ぐらいあるだろうに」
「ああん? てめえがいなきゃ、ミュグラなんて名乗らねえよ。気持ち悪い!」
は、と吐き捨てる。
「改めて名乗るぜ! 俺は、ミケイル! ミュグラってのは、教団の連中が勝手におっかぶせた名前だ。よろしくな!」
かはは、とミュグラ改め、ミケイルは笑い声をあげた。
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別作品も連載中です。
『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』
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