第11話:モリヒトの反撃
森の中に敵が潜んでいる。
それに対し、防人の反応は二つに分かれた。
ミュグラへと向かう者と、森の中の敵へ向かうものだ。
矢が飛来したのは、隊列の進行方向から見て右から。
だから、隊列の右側にいた防人は、森の中へと飛び込み、残りはミュグラへと向かった。
帝国兵は、最初にやられた兵の治療を諦め、迎撃の姿勢を取る。
これは、あらかじめ決められていたことだ。
森の中での戦闘が不慣れな帝国軍は、森に入る前の段階で、敵が来た場合には、集まって、機材とモリヒトの護衛に当たり、敵の迎撃自体は防人に任せることになっていた。
いきなりモリヒトが吹き飛ばされたこともあって、多少陣形に揺らぎは出たが、その後は、機材を持って移動。モリヒトのまわリに集まる形となった。
クリシャは、ミュグラを警戒しつつも、モリヒトのいる位置まで後退している。
「・・・・・・さて」
戦況が、切り替わる。
** ++ **
ミュグラと対峙する防人は、四人。
防人の一人が、ミュグラへと攻撃を仕掛ける。
それに対して、ミュグラの対応は簡単だった。
手甲をはめた腕で殴りつける。
シンプルで、速い。
だが、その重さは、先ほどモリヒトを盾の上から吹き飛ばしたことからも明らかだ。
かろうじて間に合った防御の上から、防人の一人を殴り倒した。
その攻撃の隙を突いて、左右から防人が迫る。
防人が握っているのは、先を尖らせた金属製の杭のようなものだ。
突き刺す形に特化しているが、十分に硬い刃である。
連携の取れた同時攻撃。
さらに、四人目もまた、一人目を飛び越える形で、攻撃を仕掛けている。
手が二本の人間では、実質、対応は不可能な形だ。
だが、ミュグラは特に動きは見せない
「っ!」
その体に刃が当たった瞬間、それぞれの刃は硬質な音を立てて弾かれた。
「なっ?!」
疑問を浮かべた左が潰され、
「くそ!」
悪態をついた右は蹴り飛ばされ、
「あ・・・・・・」
正面から飛びかかる形になった四人目は、首をつかまれて地面へと叩きつけられた。
その後に、立ち上がる防人はいない。
ほぼ一瞬で、四人の手練れが戦闘不能にされた。
それを見た帝国軍側に動揺が広がるが、
「―アフィーラ―
力よ/打ち据えろ!!」
クリシャの魔術が発動する。
上から叩きつけるような一撃だ。
さらに、杖を突くように振った瞬間に、杖の先端から飛び出すのは、真っすぐに打ち抜く力の弾丸だ。
両方が、一瞬の時間差の後に、ミュグラの体を打ち抜いた。
一瞬の轟音とともに、周囲が土煙に包まれる。
それがおさまれば、
「・・・・・・無傷、か」
平然と、ミュグラはそこに立っていた。
** ++ **
モリヒトは、ミュグラを見た。
腕のしびれは取れていない。
大して、相手は無傷だ。
先ほどは見えなかったが、背の高い男だと思う。
セイヴとおそらく同程度。
だが、セイヴより細身に見える。
手足にはめているのは、鉄をつぎはぎしたような無骨な手甲だ。
白い髪を後ろに束ねてはいるが、顔の前に三色の髪を一房ずつ垂らしている。
タンクトップにニッカポッカという、まるで工事現場にいる作業員のような服装だ。
腕は、細身ながら筋肉が浮かび上がり、鍛えられているとよくわかる。
顔は悪くないが、そこに浮かぶ粗野な笑みが、どうにも雰囲気を台無しにしている。
「・・・・・・効いてないな」
「改めて言わなくてもわかってるよ」
クリシャの顔も強張っている。
「防いだか?」
「ううん。あいつ、とんでもなく硬い」
「硬い?」
モリヒトの疑問に、ルイホウが答える。
「今のクリシャ様の攻撃は、直撃でした。その前の防人たちの攻撃も。ですが、どれもダメージになっていません。はい」
刃をはじいた硬質な音を思い出す。
体自体が、刃物よりも硬い、ということだ。
「・・・・・・バケモノか」
「かっはっは。こんなもんかよお。なあおい?」
呵々大笑としているミュグラに対して、モリヒトは、む、と顔をしかめる。
戦闘向きではないとはいえ、やられっぱなしというのは、どうもあれだ。
腕のしびれは、ひどいが、かろうじて動く程度にはなった。
その腕で、レッドジャックの鞘に触れる。
「じゃあ、もう少し強力なやつがいるな」
「え?」
しびれのない右腕で、モリヒトは逆手に短剣を抜く。
「―ブレイス―」
「お? 次はお前か?」
モリヒトが詠唱を始めるのに合わせて、ミュグラがまた笑う。
何が来ても大丈夫、と受け止める構えだ。
「土塊よ/浮かべ」
地面へとブレイスを突き立てて、詠唱する。
「ああ? なんだこりゃ・・・・・・」
ミュグラが怪訝な顔を浮かべるのもわかる。
モリヒトの詠唱の効果は、ただ地面がめくれあがって、周囲へと滞空したのみだからだ。
だが、それで終わりにするつもりはない。
「詠唱だけなら、もう少しあってな」
すう、と息を吸って、
「―ライトシールド―
力よ/支えろ/流れを/形に/筒を成せ/それは/守るもの」
左腕はしびれて使えずとも、発動体は使える。
イメージを固める。
届かせる、ただそれだけのイメージだ。
浮かべた土塊が動く。
ライトシールドの発動体から放たれた魔術によって、力が動き、そこに筒を作り上げる。
砲身の形成は完了だ。
その中央へと、ブレイスを添える。
「―ブレイス―
雷よ/纏え/」
威力をあげるのに、次いでに重ねる。
「―レッドジャック―
炎よ/焼け」
砲身の中央に添えたブレイスが雷をまとい、さらに炎をまとう。
エフェクトだけなら、やたら強くて派手そうだ。
余裕を見せているつもりだろう。
ミュグラの方は、未だまるで動かない。
受け止めるつもりなのだろう。
それだけ、自分の頑丈さに自信があるということか。
さて、この詠唱は何と呼ぶべきか。
「/重ね/重ね/穿つ/貫く槍/その速さは/電のごとく」
三つの発動体に、それぞれ個別に魔力を流して、起動する。
高速詠唱は難しい。
まして、クリシャのような無詠唱は、まず不可能だ。
だったら、徹底的に威力を追求する。
「いけ」
ぱ、とブレイスを手放した瞬間、音と光が爆発した。
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別作品も連載中です。
『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』
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