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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第3章:迷いの森と白い怪人
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第11話:モリヒトの反撃

 森の中に敵が潜んでいる。

 それに対し、防人の反応は二つに分かれた。

 ミュグラへと向かう者と、森の中の敵へ向かうものだ。

 矢が飛来したのは、隊列の進行方向から見て右から。

 だから、隊列の右側にいた防人は、森の中へと飛び込み、残りはミュグラへと向かった。

 帝国兵は、最初にやられた兵の治療を諦め、迎撃の姿勢を取る。

 これは、あらかじめ決められていたことだ。

 森の中での戦闘が不慣れな帝国軍は、森に入る前の段階で、敵が来た場合には、集まって、機材とモリヒトの護衛に当たり、敵の迎撃自体は防人に任せることになっていた。

 いきなりモリヒトが吹き飛ばされたこともあって、多少陣形に揺らぎは出たが、その後は、機材を持って移動。モリヒトのまわリに集まる形となった。

 クリシャは、ミュグラを警戒しつつも、モリヒトのいる位置まで後退している。

「・・・・・・さて」

 戦況が、切り替わる。


** ++ **


 ミュグラと対峙する防人は、四人。

 防人の一人が、ミュグラへと攻撃を仕掛ける。

 それに対して、ミュグラの対応は簡単だった。

 手甲をはめた腕で殴りつける。

 シンプルで、速い。

 だが、その重さは、先ほどモリヒトを盾の上から吹き飛ばしたことからも明らかだ。

 かろうじて間に合った防御の上から、防人の一人を殴り倒した。

 その攻撃の隙を突いて、左右から防人が迫る。

 防人が握っているのは、先を尖らせた金属製の杭のようなものだ。

 突き刺す形に特化しているが、十分に硬い刃である。

 連携の取れた同時攻撃。

 さらに、四人目もまた、一人目を飛び越える形で、攻撃を仕掛けている。

 手が二本の人間では、実質、対応は不可能な形だ。

 だが、ミュグラは特に動きは見せない

「っ!」

 その体に刃が当たった瞬間、それぞれの刃は硬質な音を立てて弾かれた。

「なっ?!」

 疑問を浮かべた左が潰され、

「くそ!」

 悪態をついた右は蹴り飛ばされ、

「あ・・・・・・」

 正面から飛びかかる形になった四人目は、首をつかまれて地面へと叩きつけられた。

 その後に、立ち上がる防人はいない。

 ほぼ一瞬で、四人の手練れが戦闘不能にされた。

 それを見た帝国軍側に動揺が広がるが、

「―アフィーラ―

 力よ/打ち据えろ!!」

 クリシャの魔術が発動する。

 上から叩きつけるような一撃だ。

 さらに、杖を突くように振った瞬間に、杖の先端から飛び出すのは、真っすぐに打ち抜く力の弾丸だ。

 両方が、一瞬の時間差の後に、ミュグラの体を打ち抜いた。

 一瞬の轟音とともに、周囲が土煙に包まれる。

 それがおさまれば、

「・・・・・・無傷、か」

 平然と、ミュグラはそこに立っていた。


** ++ **


 モリヒトは、ミュグラを見た。

 腕のしびれは取れていない。

 大して、相手は無傷だ。

 先ほどは見えなかったが、背の高い男だと思う。

 セイヴとおそらく同程度。

 だが、セイヴより細身に見える。

 手足にはめているのは、鉄をつぎはぎしたような無骨な手甲だ。

 白い髪を後ろに束ねてはいるが、顔の前に三色の髪を一房ずつ垂らしている。

 タンクトップにニッカポッカという、まるで工事現場にいる作業員のような服装だ。

 腕は、細身ながら筋肉が浮かび上がり、鍛えられているとよくわかる。

 顔は悪くないが、そこに浮かぶ粗野な笑みが、どうにも雰囲気を台無しにしている。

「・・・・・・効いてないな」

「改めて言わなくてもわかってるよ」

 クリシャの顔も強張っている。

「防いだか?」

「ううん。あいつ、とんでもなく硬い」

「硬い?」

 モリヒトの疑問に、ルイホウが答える。

「今のクリシャ様の攻撃は、直撃でした。その前の防人たちの攻撃も。ですが、どれもダメージになっていません。はい」

 刃をはじいた硬質な音を思い出す。

 体自体が、刃物よりも硬い、ということだ。

「・・・・・・バケモノか」

「かっはっは。こんなもんかよお。なあおい?」

 呵々大笑としているミュグラに対して、モリヒトは、む、と顔をしかめる。

 戦闘向きではないとはいえ、やられっぱなしというのは、どうもあれだ。

 腕のしびれは、ひどいが、かろうじて動く程度にはなった。

 その腕で、レッドジャックの鞘に触れる。

「じゃあ、もう少し強力なやつがいるな」

「え?」

 しびれのない右腕で、モリヒトは逆手に短剣を抜く。

「―ブレイス―」

「お? 次はお前か?」

 モリヒトが詠唱を始めるのに合わせて、ミュグラがまた笑う。

 何が来ても大丈夫、と受け止める構えだ。

「土塊よ/浮かべ」

 地面へとブレイスを突き立てて、詠唱する。

「ああ? なんだこりゃ・・・・・・」

 ミュグラが怪訝な顔を浮かべるのもわかる。

 モリヒトの詠唱の効果は、ただ地面がめくれあがって、周囲へと滞空したのみだからだ。

 だが、それで終わりにするつもりはない。

「詠唱だけなら、もう少しあってな」

 すう、と息を吸って、

「―ライトシールド―

 力よ/支えろ/流れを/形に/筒を成せ/それは/守るもの」

 左腕はしびれて使えずとも、発動体は使える。

 イメージを固める。

 届かせる、ただそれだけのイメージだ。

 浮かべた土塊が動く。

 ライトシールドの発動体から放たれた魔術によって、力が動き、そこに筒を作り上げる。

 砲身の形成は完了だ。

 その中央へと、ブレイスを添える。

「―ブレイス―

 雷よ/纏え/」

 威力をあげるのに、次いでに重ねる。

「―レッドジャック―

 炎よ/焼け」

 砲身の中央に添えたブレイスが雷をまとい、さらに炎をまとう。

 エフェクトだけなら、やたら強くて派手そうだ。

 余裕を見せているつもりだろう。

 ミュグラの方は、未だまるで動かない。

 受け止めるつもりなのだろう。

 それだけ、自分の頑丈さに自信があるということか。

 さて、この詠唱は何と呼ぶべきか。

「/重ね/重ね/穿つ/貫く槍/その速さは/電のごとく」

 三つの発動体に、それぞれ個別に魔力を流して、起動する。

 高速詠唱は難しい。

 まして、クリシャのような無詠唱は、まず不可能だ。

 だったら、徹底的に威力を追求する。

「いけ」

 ぱ、とブレイスを手放した瞬間、音と光が爆発した。


評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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