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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第3章:迷いの森と白い怪人
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第10話:怪人、邂逅

 森の中を歩く一団。

 その中で、最初に攻撃に気づいたのは、防人ではなく、帝国兵だった。

 目の前を歩く同僚の首に、矢が突き立ち、崩れ落ちた。

 それを見た兵が、動揺の声を挙げる。

 挙がった声に、帝国兵に動揺が伝搬する中、防人が、矢の飛来した方へと警戒を向けた。

 一拍遅れて、帝国軍が戦闘態勢に入り、クリシャは杖を抜いて、ルイホウは詠唱を始める。

 そんな中で、一人状況に遅れたモリヒトは、

「む?」

「よう。元気か? 兄弟」

 いつの間にか隣に生えていた白い男に肩を組まれていた。


** ++ **


「モリヒト君!」

 クリシャの声に、お、とモリヒトは現状に気づく。

「・・・・・・お前、誰だ?」

 肩に回されているのは、無骨な手甲に包まれた、筋肉質な腕だ。

「おいおい。人に名前を聞くなら」

「俺か? 俺はモリヒトだ」

「おう。最後まで言わせてくれや」

 くっくっく、と白い男は笑い、


「俺は、ミュグラだ」


 そう名乗った。


** ++ **


 一様に緊張感が高まっていく。

 モリヒトを人質に取っているようなこの状況で、ミュグラを名乗った男は、にやにやと笑っている。

 周囲のすべてを囲まれている状況を、楽しんでさえいるようだった。

「奇遇だな」

 誰も動けないその中で、モリヒトが口を開く。

「あん?」

「どこぞの頭のおかしい教団と同じ名前だ」

「ははは。俺ぁ、あそこの出だからな」

「そうか」

「なんだなんだ? 俺に興味あんのか?」

「いや別に」

 そのモリヒトの返答に、ミュグラはまたけらけらと笑う。

 一種、緊張感のないやり取りに周囲がどうするべきか、と一瞬悩んだところで、

「ミュグラ君、だったかい?」

 クリシャが声を挙げた。

「お? なんだよ。お前だろ? クリシャってのは」

「・・・・・・そうだけど?」

「はっはっは! なるほど、近くで見りゃあ、手配書通りじゃねえか! へえ・・・・・・。ほお・・・・・・」

 にやにやとした笑みながら、まったく笑っていない目で、ミュグラはクリシャを観察する。

「なんだい? 君も、ボクの可愛さにやられたクチかい?」

「ははは! そりゃねえな。他の奴らから、てめえのおぞましさってのは、よく聞いてるからよ}

「ははは! 自分たちの所業を棚に上げてよく言う!」

「そりゃ同意だぜ! なあ!」

 言い合っている間も、ミュグラはクリシャから目を離さないし、クリシャもにらみつけるようにミュグラを見ていた。

「はは! ただ、興味はあったんだよ」

「うん?」

 モリヒトの肩に回している腕とは別の空いた手で、ミュグラは自分の毛をつまんで持ち上げる。

「俺をこんなにしたやつらが、目指したかった女ってのが、どんなもんかってな」

「・・・・・・・・・・・・」

 白髪に、三色の色の混ざった髪。

 それを見て、クリシャの目が鋭くなる。

「やれやれ。本当に三色混じりとは」

「つまりだ。俺からすりゃあ、お前は母親みたいなもんよ。ん?」

「気持ち悪いこと言わないでくれるかな。ボクの子供に、君みたいな乱暴者はいなかったよ」

 口調だけなら、冗談でもやり取りしているように気軽だ。

 だが、双方の間では、どんどん緊張感が高まっていく。

 周囲を囲む者たちにもそれは伝搬し、もはやどう動くべきか、誰にも分からなくなっていたところで、モリヒトは動いた。

「・・・・・・・・・・・・つかよ」

「あ?」

 モリヒトが、自分の肩に回されていた腕に、左腕で触れる。

 手甲を装備した左腕だ。

「いつまでもなれなれしくしてんじゃあねえっての」

 下から持ち上げるように腕を押し上げ、

「―ライトシールド―

 力よ/覆え/触れるものを/弾け」

 詠唱に応じた効果は、すぐさま発生した。

 本来なら、手甲の外側に小さな盾の力場を発生させることが一番楽な発動方法だが、今回のイメージは変えた。

 イメージは鎧。

 全身を覆う力場であり、触れたものをはじく力だ。

「お?!」

 ミュグラが驚きの声を挙げた。

 回していた腕に下から持ち上げる用に加えられたモリヒトの力は、それほど大したことはない。

 だというのに、詠唱が終わった瞬間に、モリヒトの全身が淡く光り、ミュグラの体に弾かれるような力が加わった。

 回していた腕からモリヒトが抜け、ミュグラへと振り返り、

「は!」

 反射的に、ミュグラはモリヒトへと打撃を放っていた。

「モリヒト様!」

 ルイホウが叫ぶ。

 反射的に放たれた打撃を受けて、モリヒトが吹き飛ばされた。

「―サロウヘイヴ・メイデン―」

 戦闘態勢に入った瞬間に詠唱は始めていた。

 クリシャとミュグラが会話をしている間に詠唱は終わり、ルイホウの周囲を浮遊する水球が取り囲んでいる。

「水よ/」

 風切り音が聞こえたのは、ルイホウにとって、ある種僥倖であった。

「っ?! 盾となれ!」

 反射的に詠唱を切り替えた瞬間、森の中から飛来した矢を、水球がガードする。

 渦を巻いた水球の流れに、矢が絡めとられて地に落ちる。

「一人じゃありません! 警戒を! はい」

 注意を促しながらも、ルイホウは吹き飛ばされたモリヒトの下へと向かう。

 ミュグラはと言えば、包囲された状態から、いつの間にか脱し、離れたところに立っている。

「・・・・・・・・・・・・んん?」

 かと思えば、怪訝そうな顔で、自分の腕を見下ろしていた。


** ++ **


「モリヒト様。大丈夫ですか?! はい」

 ルイホウが駆け寄ってくるのが見えて、モリヒトは立ち上がる。

「大丈夫だ。盾が間に合った」

 無事に立って見せれば、ルイホウは、ほっと息を吐いた。

「ご無事で何よりです。はい」

 ひらひらと手を振って無事をアピールするものの、冷汗まみれだ。

 全身に張った盾の力場と、とっさに展開が間に合った小盾の力場。

 二つがあったからこそ、目に見える傷は負っていない。

 だが、小盾越しに攻撃を受けたというのに、左腕がしびれて動かない。

「ち・・・・・・」

 舌打ちを一つ。

 ライトシールドの小盾の力場について、その頑丈さはよくわかっている。

 一応簡単に試して、クリシャに魔術攻撃を試してもらいもしたからだ。

 実物の盾とは違い、あくまでも魔術による力場の盾であるため、攻撃を受けてもほとんど衝撃らしい衝撃は受けなかった。

 思い切り殴られたとしても、せいぜいで強めに押される程度の感覚しか受けない程度には、頑丈な盾なのだ。

 魔術を強めに撃ってもらいもしたが、多少後ずさる程度で、モリヒト本体にまでダメージはなかった。

 それが、今の一撃は、受け身も取れないほどに大きく吹き飛ばされた上に、盾を通して左腕がその衝撃にしびれている。

 直撃をもらっていたら、死んでたんじゃないか、と、ぞっとする。

「バケモンだな」

「・・・・・・」

 モリヒトの隣に厳しい顔をしたルイホウが並ぶ。

 杖を前へと向ければ、水球が周囲を覆う。

「・・・・・・んー・・・・・・」

 見ている先、ミュグラはまだ唸っていた。

「・・・・・・いようし!」

 それから、ガン、と手甲を打ち合わせて、

もう一発(もっぱつ)、いっとくか!」

 どん、と地面を踏みしめ、突撃してきた。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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