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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第3章:迷いの森と白い怪人
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第9話:森の中の二人

「んあ?」

 男は、まどろんでいたところから目を覚ました。

「・・・・・・起きたのね?」

 声をかけられて、そちらへと目を向ける。

 女性がいた。

 男には目を向けず、草木を透かした先を見通している。

「・・・・・・どのくらい寝てたよ。俺」

「一時間、というところかしら?」

 そこで初めて、女は男へと目を向けた。

 バンダナを頭に巻いているが、その下にある顔は整っている。

 青い目が男を見ていた。

「そうか」

 相棒の声に頷いて、くはあ、と緊張感のないあくびを漏らす。

 その様を見たのか、ため息が吐かれた。

「ミー」

「その呼び方やめてくれよ」

 はっはっは、と笑いながら、すっくと立ちあがる。

 長身の男がそこにいた。

 タンクトップにズボンだけ、という軽装。

 筋肉が浮いて見えるが、無駄な筋肉などで膨らんではいない、鍛えられた肉体。

 そして、振った頭から揺れる白い髪。

 後ろで適当にくくっただけのその髪には、青、緑、黒の髪が混じっている。

「嫌いじゃあねえが、俺には似合わねえ」

「じゃあ、ミュグラ」

「いいにくいったらねえな。おまけにややこしい」

 かはは、とミュグラと呼ばれた男は笑う。

「・・・・・・」

 声をかけた女は、むっつりと押し黙った。

「どうしたよ?」

「あなたに、ミュグラ以外の名前があるの?」

「お?」

 そこまで言われて、男は考え込んだ。

 目の前にいる女とは、それなりに長い付き合いだ。

 最初は、子供のころ。

 教団に集められた子供たちと同じ部屋に入れられていたころ、そこにいた。

 当時は、まだ自分の名前をまともに言えず、男はミ、としか自分の名前を名乗れなかった。

 それから、子供たちの間で、あだ名はミーになった。

 以降、ミュグラの名を与えられてしまい、その名前で呼ばれるばかりとなった。

 女とは、最近再会したばかりだし、それは名前を知らなくても無理はない。

 名乗る必要もなかったから、名乗ってはいなかったな、と男は思い出す。

「ミケイル」

「え?」

「ミュグラ・ミケイル。ベリガルのおっさんが付けてくれた名前だ」

「・・・・・・そう。ミケイル」

「・・・・・・・・・・・・」

 ミケイル、ミケイル、と口の中でつぶやく女を見ながら、男、ミケイルは腕を組んで待つ。

「・・・・・・・・・・・・何かしら?」

 ミケイルが待っていることに気づいたか、女が首を傾げた。

「そっちの名前は?」

「知ってるでしょ?」

「おいおい、こっちは名乗ってんだ。ちゃんと名乗れって」

「・・・・・・・・・・・・ふう」

 女は、ため息を吐いてから、

「サラよ」

「おう。改めて頼むわ。サラ」

 かっかっか、とミケイルは笑って言った。


** ++ **


「で、状況はどうよ?」

 ミケイルは、遠目に登山道を見つつ、サラへと話を振る。

「登山道を部隊が移動中。・・・・・・機材を抱えているみたいだから、森と山の境界線のあたりに、多分観測機材を仕込むつもりでしょう」

「やられると不都合、あるか?」

「こっちが聞きたいわ? あなた、ここで何を目的にしているの?」

 呆れた目で見られて、ふむ、とミケイルは唸る。

「ぶっちゃけ暇つぶしが目的だぜ?」

「は・・・・・・?」

 サラが目を見開いて驚いている。

「ここまで大騒ぎにしておいて?」

「おう。教団の施設でちょっと面白そうな研究資料を見つけてな。ちょっと遊んでやろうかと」

 ははは、とミケイルは笑う。

「まさか、あそこまで的確に地脈を汚染できるとは。いい具合だったろう?」

「・・・・・・・・・・・・」

 はあ、とサラはため息を吐いた。

 その後、サラはミケイルへと指を突き付けて、

「分かってるの? いろいろとやったから、こっちの位置はそろそろ暴かれそうになっている。あの観測機材が設置されれば、次からは地脈にちょっかいかけた時点で居場所がばれるようになるわ」

「おう。となると、ちょいと緊張感が増すかね」

「・・・・・・・・・・・・はあ」

 大きなため息を吐かれた。

「ん?」

「暇つぶしっていうなら、ここで引いてもいいんじゃないの?」

「おいおい。やっとこさ面白くなってきたとこじゃねえか」

 ははは、と笑う。

「・・・・・・・・・・・・」

 じと、とした半目を向けられて、ミケイルはにや、と笑う。

「とはいえ、わざわざあれを放っておくってのも、詰まらねえ。ちょいと、ちょっかいかけてみようぜ?」

「そう・・・・・・」

「なんだ? 何かあるのか?」

 サラが帝国軍の隊列を見ながら、厳しい目をしている。

「さっき、あなたが寝ている間に、教団から情報が送られてきたわ」

「ほう?」

 サラは、隊列を指さす。

「見える?」

 サラの指さす先、一団に囲まれるように歩く素人くさい男がいた。

「・・・・・・なんじゃありゃ? ど素人じゃねえか」

「あれが、あの一団のもう一つの目的みたい」

「ん?」

「黒の真龍から呼び出しを受けているらしいわ。あの男」

「そりゃまたなんで?」

「異世界人、らしいわよ?」

「・・・・・・ふうん?」

「あら、興味薄そうね?」

 意外、という表情を浮かべるサラに、ミケイルは頭をかいて見せる。

「あれ見てもなあ、別に強そうでもないし、たかが異世界人っていうだけだろ?」

「そう。・・・・・・じゃあ、こっちは興味を引くかしら?」

「ん?」

「その男の隣を歩いているの、見える?」

「・・・・・・片方は、ありゃテュールの巫女衆だな?」

 藍色の髪をした女が来ている、灰色の巫女服は、事前に知っている。

「もう一人の方」

「白くてちっちゃいのか」

 その隣をちょこちょこと歩いている。

 だが、ミケイルの目からは、誰よりもそれが奇異に映った。

「・・・・・・なんだありゃ?」

「何が?」

「んー。・・・・・・どう言っていいかわからん」

「そう」

「だけど、なんか特別だな。あの女」

 む、と難しい顔をするミケイルに、サラは言った。

 

「あれ、精霊姫クリシャらしいわ」


「・・・・・・・・・・・・あ?」

 その名を聞いたミケイルの反応は、劇的ですらあった。

 にやあ、と頬まで吊り上がるほどに口の端が上がる。

「へえ・・・・・・。あれがねえ・・・・・・」

「やっぱり、興味あるのね」

「そりゃな」

 ふうん、とサラは頷きながら、一団を見る。

「もらった情報によると、帝都『アログバルク』で、クリシャは何かの襲撃を受けて、魔皇に捕まったらしいわね」

「捕まったのに、なんでここにいるんだよ?」

「さあ? 司法取引か何かじゃない?」

 肩をすくめるサラに、ふうん、とミケイルは適当な返事を返す。

 その目は、クリシャへと向けられていた。

「・・・・・・気になる?」

「そりゃあなあ。厳密には違うってなっても、俺から見りゃあ母親みてえなもんだぜ?」

「・・・・・・過言だと思うけれどね」

「ふ」

 笑う。

「面白くなってきた。ちょっとちょっかいかけに行こうや」

 からからと笑うミケイルに、また、サラがはあ、とため息を吐いた。

 ミケイルがガン、と手甲を打ち合わせる。

 サラは、そっと、弩を取り出した。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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