第1話:モリヒトの体質
移動中の飛空艇の中で、モリヒトはぼんやりとしていた。
ルイホウは、お茶を淹れたり、装備を確認したり、とこまごまと動いている。
一方でクリシャは、髪をどこからか取り出した櫛ですいたり、髪に枝毛を見つけて呻いたりしている。
そんな様子をぼんやりと見ていたら、
「どうしたんだい?」
クリシャに、そう声をかけられた。
「うん? いや、特に用はないけど」
「まったく、いくらボクがかわいらしいからって、じっと見るのは、マナー違反だよ?」
「はいはい」
「む、反応が悪いなあ・・・・・・」
確かに美少女だとは思うのだが、なんか残念なのだ。
現実味がないというか、等身大のアニメキャラを目にしているようで、人形か何かを相手にしているような気分になる。
「なんてーか、な。いろいろ聞いて、クリシャがいろいろ特別なのは分かったからな。それで狙われるとか、面倒そうだな、と」
そんな感想を漏らしたところで、クリシャは苦笑しながら首をひねった。
「・・・・・・そうだなあ・・・・・・。ボクとしては、もう慣れたっていう感じだけどね」
クリシャは、くすくすと笑っている。
「混ざり髪っていうのは、全部クリシャみたいになる可能性があるのか?」
「そうだね。可能性だけなら。・・・・・・ボクの場合は、混ざり髪として、精霊側に比重が強いから、こうなってる。普通は、人間側に偏ってるから、普通に人として生きて、人として死ねるだろうね」
「その言い方だと、クリシャは人として死ねないみたいだな」
言ってから、モリヒトはそれがどうにもデリカシーに欠けた物言いであるかのように思えて、む、と唸る。
それに対し、クリシャは見透かしたのか、くす、と穏やかに笑う。
「気にしなくていいよ。実際、ボクはたぶん、人としては死ねない。死ぬときは、死体も残さずに消えるんじゃないかな?」
「精霊ってのは、そんな風に?」
「いや? 精霊の死なんて、誰も観測したことがないよ。ただ、ボクにクリシャに『死』があるとすれば、精霊として魔力の分散を起こし、自我を保てなくなる。たぶん、そういう感じだろうな、っていう予測」
「・・・・・・なるほど」
クリシャは気軽に言っているので、モリヒトとしても、あまり気にしないべきであるのだろう。
モリヒトが考えている横で、クリシャはモリヒトを見て、言った。
「ボク以上に、モリヒト君」
「・・・・・・うん?」
クリシャに言われ、モリヒトは首を傾げる。
クリシャ以上、というのは何だろうか。
「見ただけじゃわからないし、多分ボクぐらい魔力に親しい混ざり髪でもないと分からないとは思うけど、仮にバレたら、多分モリヒト君の方があいつらには狙われやすいと思う」
「・・・・・・なんで?」
心当たりがない。
異世界人、だからだろうか。
「うん。たぶん誰も気づいてないとは思うけど、モリヒト君。魔皇陛下の妹君なみの特異体質だから」
「・・・・・・そうなの?」
クリシャに言われてルイホウを見るも、ルイホウも心当たりはないのか、首を傾げている。
クリシャに視線を返すと、クリシャはくすくすと笑った。
「大したことじゃない、とはとても言えない。たぶん、君が真龍に呼ばれたのも、その体質に起因していると思う」
「どういうことだ?」
「君は、周囲の魔力を吸収する体質を持っている」
** ++ **
「特異体質か、あるいは、能力か」
白衣をまとった男、ベリガル・アジンは、顎を撫でながらつぶやく。
隠れ家兼個人研究所としているそこで、テュールで行った実験の検証を行った結論だ。
そもそも、実験の触媒とした混ざり髪が、瘤から切り離せた理由が分からなかった。
その代わりに、行き会っただけの異世界人が、腕一本を失っただけで現象を納めてしまったこともだ。
ベリガル・アジンの想定としては、あのまま放置されても、あるいは、巫女衆によって鎮められたとしても、どちらでもよかった。
どちらにせよ、触媒としていた混ざり髪が、地脈へと溶ける結果になっていたであろうからだ。
触媒として改造する時に、いろいろと仕込みをしたあの混ざり髪の少女を地脈へと溶け込ませる。
むしろ、あの実験の狙いはそちらにあった。
それが、結果としては失敗もいいところだ。
失敗するとすれば、魔皇セイヴによって、一緒くたに焼き払われて何も残らない、という可能性ぐらいだと思っていた。
その場合は、地脈異常のせいでテュールに多少の被害は発生するだろうが、巫女衆のおかげで早期に収束させられていたろう。
ただ、巫女衆に鎮めをさせる方が圧倒的に悪影響は少なく、さらにはそちらの方が手間もかからないとなれば、巫女衆による鎮めを実行することは分かっていた。
魔皇であるセイヴには、当然そういった地脈関連の知識もあるわけだし、相当に追い詰めない限りは、自分で焼き払う、という選択はないだろうと踏んでいた。
というか、城であそこまでの騒ぎが起こっていて、森の方にセイヴが来る、というのは、想定していたシナリオの中では、可能性の低い方であった。
たとえすべて焼き払われたとしても、その時はその時で、不安定になっていた地脈へと干渉して、仕込みを行うこともできた。
「私の目的は、『竜殺しの大祭』の方。仕込みも、その時に効果を発揮するはずだったが・・・・・・」
ところが、蓋を開けてみれば、想定外もいいところだ。
仕込みをしていた混ざり髪は、無傷で回収された。
地脈異常の瘤に関しては、最初の地震こそあったものの、結局は大した影響も出さずに消失。
テュール側にとっては、最上に近い結果。こちらは仕込みに使ったいろいろなリソースを浪費した結果となった。
「完全に、私の負けであったな。これは」
さらには、あの実験にかこつけて行った仕込みのいくつかが消失していた。
これで、今回の『竜殺しの大祭』への干渉は、相当に難しくなった。
ただ、それはそれでベリガル・アジンには調べるべきことが増えた、と喜ぶべきだ。
別に、狙い通りの実験ができなくなったからといって、調べるべきがなくなったわけではない。
特に、今回に限っては、想定外の結果となった要因が興味深い。
それは、間違いなく、異世界から召喚された、一人の青年にあったはずだ。
事件当日に、周囲で働かせていた様々な機器の計測結果と、そのほかの調査結果から推測するに、
「混ざり髪以上に、魔力への親和性が高い」
考えを整理するため、口に出して、確認していく。
「何よりも、彼が近くを通過するごとに、周辺の魔力濃度の低下がみられる。これらの結果を総合すると、考えられるのは、彼自身の体質だな」
ふん、と鼻を鳴らす。
「魔力の吸収体質とは。少なくとも、有史以来、確認された事実のない体質だ」
ベリガル・アジンは、興味深い、と笑みを浮かべる。
「・・・・・・おそらく、吸収体質は、周囲の魔力を自分のものに変換して吸収する。裏を返せば、どんな魔力でも自分のものと等しくできる」
机の上に置かれた資料には、一人の少女の似顔絵が置かれている。
「・・・・・・触媒とした混ざり髪は、地脈の、特に、黒の真龍の地脈魔力との親和性が高くなるように、魔力を調整した個体だった」
今は、テュールの王城でテリエラと呼ばれて、保護されている少女だ。
「だが、吸収体質なんていうトンデモ体質のおかげで、調整した触媒よりも高い親和性を発揮したあの男がいたため、触媒の代わりにあの男が食われかけた、と」
そこまでが、ベリガルが考察した推論だった。
「こうなると、あの男を捕まえて調べたいところだが、今のところは、手は出せん。大方、『竜殺しの大祭』には戻ってくるだろうし、そこで調べるべきか」
モリヒトの知らないところで、モリヒトを狙う者は、出始めていた。
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別作品も連載中です。
『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』
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