第3章:プロローグ
更新再開します。
ディバリスの森。
オルクト魔帝国領土内の、黒の真龍が座す山の麓に広がる、樹海を指す名だ。
黒に限らず、真龍というものは、人類にとって無視できない重要なものだ。
真龍信仰、と言う言葉もある通り、信仰の対象となっている箇所も珍しくないし、オルクト魔帝国内でも、その信仰は否定していない。
世界中で地脈の開始点、世界に魔力を満たす存在。
この世界で魔術を使うことができる理由であり、この世界で、生物が生きていける理由でもある。
地脈の通る土地は、土地の力が豊かであり、作物がよく育つ。
地脈から魔力を吸い上げ過ぎれば、干ばつや洪水などの災害がよく起こる。
そういうこともあって、人類にとって生活しやすい土地とはどういう土地か、といえば、地脈の通る土地、ということになる。
オルクト魔帝国は、特に地脈の利用に力を入れている国だ。
テュール異王国での『竜殺しの大祭』は代表的なものだ。
それ以外にも、国内各地で、地脈の観測所や、地脈から魔力を取得するための魔力井なども設置され、地脈魔力を利用した各種技術は帝国を潤している。
** ++ **
「・・・・・・来るか」
手紙を読んだ男は、一言呟いた。
老いた男だ。
しわの深い顔、禿頭、日焼けの濃い肌。
特徴的なのは、その頭部、額にある角、そして、首から後頭部を覆う鱗。
額中央と額の左右の端に一つずつ、計三本の三角形の小さな角がある。
ディバリスの森における、森守の一族の特徴だ。
森守の仕事は、森の管理だ。
一つは、黒の真龍の居場所へと通じる道の管理。
オルクトとの契約により、食料や金属製品をはじめとした物資と引き換えに、彼らは黒の真龍の居場所への案内を請け負っている。
もっとも、この案内に関しても、黒の真龍からの許可がなければ、彼らも請けないし、それでいいことになっている。
もう一つは、森への侵入者の排除だ。
排除といっても、明確に攻撃するというより、危険な地域に踏み込んだ人物を安全な場所まで誘導する役割だ。
ディバリスの森は、純粋に危険地帯だ。
黒の真龍から流れ込む地脈の魔力の影響で、この森はまず植生がすさまじく濃い上に、あっさりと方向感覚を見失う。
濃厚な魔力は、方向感覚を狂わせるだけでなく、時に幻影すら見せる。
さらには、その影響を受けた動植物は魔獣化する。
それも、他の地域より、はるかに強大だ。
侵入者は、それらの事情によって、下手に足を踏み入れれば、簡単に死んでしまう。
地元の村落からすると、森から取れる恵みは貴重であるため、決して危険な領域までは踏み込まないよう、彼らが守っているのだ。
そして最後が、森自体の守護だ。
「長」
短い呼びかけに、老人は顔を上げる。
精悍な顔立ちの男がいる。
「うむ。久しくなかった、黒様がお召しの客人だ。確実に、黒様のところへとお連れせねば」
「は! しかし、黒様は一体なぜ外部のものをお招きになるのか・・・・・・」
男は疑問を隠しもせずに顔をしかめるが、老人は笑うだけだ。
「さて? 黒様は地脈を通じ、世界の情勢を知っておられるでな。我らの知らぬことを知っておるのであろう。・・・・・・この目で見れば、何かわかることもあるであろう」
「そういう、ものでしょうか・・・・・・?」
「分からぬのは、我らが足りぬが故のこと。知りたければ、精進せい」
「はい」
「それに、おそらく今回の森の異常と、招かれた客人は無関係よ。森の異常については、主に任せる。オルクトより救援も来るようであるし、除去を急ぐがよい」
「・・・・・・・・・・・・」
男が、忸怩たる思いを抱えているのは、その苦い顔を見ればわかる。
だが、老人はそれには取り合わない。
「急ぐがよい。・・・・・・近く、『竜殺しの大祭』もあると聞く。このまま異常を放置しておけば、そちらに影響も出るであろう」
「あのような儀式こそ、地脈異常の象徴とも言えましょうに」
「だが、人の生活を豊かにする。・・・・・・儂は嫌いではないぞ? 黒様を崇め、敬いつつも、その力を利用し栄えようとする。・・・・・・真龍であるからと、決して何も考えずにへりくだる輩などより、よほどに黒様のことを見ておる」
「そう、でしょうか? 自分の目には、黒様を安く見ておるのではないかと思えますが」
「ふ。どのような考えを持ってもよいが、役目に支障はきたすなよ?」
「もちろんです!」
では、と言い置いて、男は去って行った。
「・・・・・・・・・・・・さて?」
老人はそれを見送り、黙考するのであった。
** ++ **
「・・・・・・状況は?」
「今のところは小康状態です」
長の下を辞した後、ギリーグは外で待っていた若者へと聞いた。
若者は、緊張を顔に浮かべつつも、ギリーグへとはっきりと答えた。
「・・・・・・動かんか?」
「巫女殿方も力を尽くしてくださっています。ただ、やはり原因が別にあるので、そちらを取り除かないことにはどうにもならない、と」
「結論は変わらんか。・・・・・・原因の捜索の方は?」
「難航しています」
苦しい顔をしてしまうのは、仕方がない。
「どうやら、原因自体が森の中を移動しているようで」
「それで、どうやって地脈へと干渉しているのやら・・・・・・」
「分かっていません」
「オルクトから来た技術者たちは?」
「そちらも、成果は出せていないそうです」
「ふん! まあ、我らに分からんものが、外から来たものに分かるはずもないか」
鼻息荒く言い捨てると、ギリーグは森へと歩き出す。
その後を、ちょっと辟易した顔で、若者が続くのだった。
** ++ **
「お? なんか新しい動きがあるな」
森の中、声がした。
印象として、野蛮。
そういう雰囲気のある男の声だ。
それに応じる声もある。
「・・・・・・どうやら、帝都より追加の救援が来るみたいね」
こちらは、若い女声だ。
森の木々の影に沈む形で、二人は会話をしていた。
「はー。俺らを見つけるためかね?」
は、と鼻で笑うように、男の声は吐き捨てる。
「あとは、まだ解決できないことへの救援でしょ? これからどうするの?」
「どうすっかねえ・・・・・・?」
男の声の調子は、迷っているようでもあり、面白がっている風でもある。
その声に対し、女はため息を吐いた。
** ++ **
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あのガキ・・・・・・。いつか殺す」
「はっはっは! 見事にやられたもんだ!」
「笑いごとか! ベリガル・アジン!! 研究結果を持っていかれたのは、そちらも同じだろう!?」
「ジルエン。少し落ち着け。どうせ研究は終わっているものだ」
「そっちはな! こちらはこれからだったというのに!!」
「おや、それは気の毒に。だが、アレは止められんよ。諦めろ」
「くそっ!」
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様々な思惑はあれど、ディバリスの森の近辺は、いつになく、騒がしくなっていた。
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別作品も連載中です。
『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』
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