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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第2章:魔帝国
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閑話:飛空艇

閑話3

 飛空艇は空を飛んでいる。

 仕組みとして、実は魔術はそれほど多くは使っていないらしい。

 手持ち無沙汰だったので、ちょっと見学を申し出て見たら、意外とあっさりと許可してもらえた。

 セイヴの方から、許可が出ていたらしい。

「・・・・・・俺さ。これが空を飛んでるのは、魔術だと思ってた」

「私もそうです。はい」

「うん。ボクも」

 一緒についてきた二人も頷く。

 その感想に、案内役となってくれた整備士は、にやり、と笑った。

「ははは。実は、そうでもないんですわ」

 実際のところを言ってしまうと、実は、飛空艇が空を飛んでいるそのやり方は、どちらかというと、モリヒトの世界での飛行船に近いようだった。

 飛行船は、空気より軽いガスをガス袋に詰めることで、船体を持ち上げる。

 オルクトの飛空艇の場合も、船体の内部に、このガス袋に相当する機関を持っている。

「それが、この浮遊機関でさあ」

 それは、船体の中央上部にあった。

 飛行船のガス袋のようなそれとは違う。

 見た目には、空調装置に見える。

 メーターやダイアル、スイッチ類に、本体の周囲へと延びるホース類。

「空調装置みたいってんなら、そりゃ慧眼ですな。実際、それに近い」

 整備員は、そこらかしこらを見て言う。

「ものを浮かす力。浮力ってもんは、ものの密度と体積が大きく影響するってのは、知ってますか?」

「ああ。知ってる」

 物理の話だろう。

 浮力は、ものが周りのものを押しのける量が多いほどに強くなる。

「でもって、この装置はですね。この船体内部の気体の、そこらへんの密度を調整する機能があるわけです」

 聞くところによると、飛空艇は、船体内部の何か所かに、空間を持っているらしい。

 その空間には、ガス袋がある。

 浮遊機関は、その空間内部をある気体で満たしたり、逆に抜いたりするのだという。

 このある気体、というのが、どうもモリヒト達のいた世界にはない物質であるようだ。

 魔術を当てて操作すると、固体、液体、気体の間を自由に変化させることができる物質。

 固体状態のそれは、金色に近い色をしている金属みたいな物質だ。

「まあ、どんな魔術を当ててるのか、っていうところは、さすがに機密ですがね。高いところに行きたいときは、こいつを気体に変えて、ガス袋を膨らませる。下げたい時は、ガス袋から気体を抜いて、固体に戻す」

 その操作によって、飛空艇全体の浮力を調整しているらしい。

 本来なら、それだけだと風に流されてしまう上、それほど速度は出ないのだが、そこはそれ。

 魔術を利用した推進機関を使うことで、それなりの速さが出るらしい。

「推進機関は何を?」

「主には、風を送り出すタイプが多いですな。そっちの方が、コストが安いんで」

「他にも形式が?」

「軍務用で速度を重視する場合は、爆発の反動を利用したジェットエンジンを利用しとります」

 大分に、モリヒトの世界の科学技術に似通った使い方がされている気がする。

「とはいえ、基本的に、魔術は機械の機動部分のみに使い、エンジンなんかは燃料を燃やして燃焼エンジン回して動かしておりますな」

「実際のエンジンには魔術は使っていないと?」

「ええ。材料の加工や組み立て段階では魔術は使用するんですが、エンジンの駆動には魔術的な力は使っておりません。エンジンを回している間ずっと魔術を使い続けるとなると、魔力がどれだけあっても足りませんのでな」

 そういう意味で、飛空艇というのは、異世界の科学技術を取り込んで作られた品、ということであるらしい。

「ふうむ」

 その割には、と周囲を見回す。

「この飛空艇、静かなんだよな」

 そういうことなら、エンジン音など響きそうなものだが、

「防音には気を遣っておりますよ。こいつは人を運ぶ飛空艇なんで」

「なるほど」

 実際のところ、飛空艇は、飛行船としてひとくくりにすることはできない。

 浮遊機関を用いた、垂直離着陸能力を備えた航空機、というほうが、実際には正しいかもしれない。

 船体に羽を備え付けられているのは、揚力飛行も行うからだ。

 用途に応じて、飛行方法は変えられているらしく、帝都内で運行しているタイプだと、浮遊機関で浮かんだ後、推進力は帝都に張られた結界から供給される。

 貨物船ならば、浮遊機関は大型で、風を受ける帆を備えており、エンジンはあまり使わない。

 逆に速度重視ならば、エンジンを大型にして、浮遊機関の浮遊力より、揚力飛行を重視したりもする。

 その辺りは、もたらされた技術を研究した結果、いろいろと作られているらしい。

「むしろ、規格は統一されてないのか?」

「帝都内で運行している分については、ある程度規格化されていますな。ですが、それ以外のものとなると、最新の技術が生まれる度に新しいものを作るんで、一年ごとに新しいもんができる、って感じですな」

「整備する方大変だろうに・・・・・・」

「言っても、組み合わせが変わるくらいで、それぞれのパーツに関しては変わりませんからなあ」

 はっはっは、と整備員は笑っているが、モリヒトとしては大変そうだなあ、という感覚が強い。

「まあ、これで帝国全体の物流に大きく貢献できるんで、やりがいある仕事ですな!」


** ++ **


 飛空艇による物流が帝国にもたらした影響というのは、相当大きいものであるらしい。

 もともと、オルクト魔帝国のあるヴェルミオン大陸は、黒の真龍のいる山のある山脈によって、東西に分断されている。

 オルクト魔帝国は西側。テュール異王国は、そのさらに北西だ。

 ヴェルミオン大陸は昔から、東と西は細々と交流しつつも、実際には山に阻まれているために、それほど東西で違う文化の構築をなしていたらしい。

 だが、飛空艇の開発と、それによる簡単な山脈越えのルートが確立されると、オルクト魔帝国の版図は一気に広がることとなる。

 現在では、ヴェルミオン大陸の西部は、ほぼオルクト魔帝国の支配下。

 真龍のいる山脈の近辺に関しても、その北側部分に関しては、オルクト魔帝国が押さえてしまっているという。

 黒の真龍のいる山に関しては、その麓の全域を、オルクト魔帝国の領土として押さえてしまっている。

 この大陸の中で、オルクト魔帝国が最大最強の国家と呼ばれる、最大の所以でもある。

 真龍信仰は民間の間で根強く、その真龍のいる山を国土に持つオルクト魔帝国は、真龍信者にとっては、聖地を押さえる国家である。

 巡礼に関して、オルクトは一切の制限をしていないため、オルクトに対して敵意を持つ信者は少ない。

 魔帝国の版図は、飛空艇が開発されて以降、代を重ねるごとに広くなっている。

 そのすべての基盤となっている飛空艇技術をもたらした異世界人は、オルクト魔帝国においては、技術の神様のような扱いを受けているらしい。

「飛空艇は、そのほとんどを、帝都の近くにある港町で作っとります。そこには、その異世界人の銅像おありますな」

 整備員は、近くに立ち寄った際には見に行くとよいですぞ、とそんなことを教えてくれたが、はたして行く機会はあるだろうか。

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