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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第2章:魔帝国
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閑話:発動体と魔術詠唱について

第2章閑話1

 移動中の飛空艇の中、ちょっと暇を持て余したため、クリシャに魔術について聞いてみることにした。

「魔術について、ねえ・・・・・・」

「ちょっとしたコツ、でもいいぞ?」

「厚かましいお願いだなあ・・・・・・」

 クリシャは苦笑しているが、特に嫌な感じはしていないらしい。

 くすくすと笑った上で、

「そうだね。ちょっとだけ、講義してあげるよ」

 そう言ってくれたので、場を用意した。

 といっても、テーブルとイスだが。

 テーブルをはさんで、クリシャとモリヒトが座り、モリヒトの隣には、ルイホウが座っている。

「・・・・・・ルイホウ君も聞くのかい?」

「せっかくの機会ですので。はい」

 しっかりとメモ用紙を取り出している辺り、かなり本気気味だ。

 モリヒトとしては、ちょっとした雑談程度のつもりだったのだが。

 クリシャもそのくらいは感じているのか、ちょっと頬が引き攣っている

「そんなに大したことは言えないよ? ボクは、魔術に関してはほとんど独学で、おまけに混ざり髪としての感覚頼りだし・・・・・・」

「かまいません。むしろ、新たな知見が得られるというもの。はい」

 本気だなあ、と苦笑する。

「まあ、いいか・・・・・・」

 ふう、とクリシャはため息を吐いた後で、話し始めた。

「とりあえず、発動体と詠唱についての話をしようか」

「うん」

「詠唱は、基本的に長くすれば長くするほど、込める魔力量を多くすることができる。つまり、威力が高くなる」

「それは知ってる」

 例えば、頭の『炎よ』みたいなものも、重ねれば重ねるだけ、威力を高くすることができる。

 その分、消費する魔力量も当然のごとく上昇するが。

「だけど、長くすると詠唱に込めるイメージがぶれていくから、実は長すぎる詠唱は魔術的にはよくない」

「・・・・・・そうなのか?」

「ええ。それも一般的な話ですね。はい」

 ルイホウも頷いた。

「言葉を尽くすのが、常に最良っていうわけじゃないんだ。・・・・・・時には、シンプルにした方がいい場合もある」

 クリシャが、なんか大事なこと言っている雰囲気を出している。

 ただ、内容については、頷けることもある。

 結局のところ、魔術の発動に重要なのは、自分自身のイメージだ。

 だから、短縮詠唱のように、詠唱から明確にイメージを固定できるなら、詠唱に使う言葉はなんでもいい。

 一方で、言葉を多く尽くしてしまえば、逆に何を言っているのか分からなくなることもある。

「だから、威力を高くしたいから、詠唱を長くする。イメージをはっきりさせたいから、はっきりとした言葉で断言する。この二つをいいバランスで組んでいるのが、いい詠唱っていうことになる」

「ふむ」

「大体のコツとしては、一つのことを表すのに、違う言い回しの表現が重複しないようにすること」

 クリシャは、テーブルの上に置いてあった籠から、果物を一つ取り出した。

 リンゴに似た、というか、リンゴそのままなアプルだ。

「例えば、このアプルについてなら、色、形、手触り、味、重さ。表す基準はいくつかあるけれど、それぞれに対する表現は、一つに絞ることだ」

「・・・・・・なるほど」

 モリヒトはううん、と考える。

「今まで、割と思い付きで詠唱使ってたからなー」

「思い付きでの詠唱をするより、ある程度固定化してしまった方が楽だよ? 先に考えておいて、覚える。短縮詠唱になるまでやらなくてもいいけれど、ある程度は詠唱を先に決めて置いた方が、いざっていうときに使いやすくなるよ。・・・・・・なんだかんだと、イメージの集中は、意外と失敗することが多いから」

「そうなのか?」

「うん。ていうか、多分だけどねえ・・・・・・」

「?」

「モリヒト君、今までに長文の詠唱ってしたことあるかい?」

「・・・・・・さて? どのくらいからかが長文かは分からないけど、確か、何回か。・・・・・・一回は、よく覚えてないが」

「・・・・・・・・・・・・」

 モリヒトが首を傾げつつ答えるのに、ルイホウが何か言いたげな顔をしている。

 エリシアを助けた夜。

 あの夜に唱えたらしい、雷が立ち上った大規模魔術は、どうしてそんなものを思いついたのか、今だにわからない。

 何を詠唱したかもよく覚えていないし、最後の一節に至っては、すぐそばにいたエリシアですら聞き取れなかったらしい。

「・・・・・・ふむ・・・・・・。まあ、何はともあれ、魔術は詠唱が長いほど、魔力を多く込められる。特に詠唱の節を多くすると、特に。だけど、さっき言ったイメージのぶれる問題もあるし、さらに言うと、実は発動体、正確には韻晶核には、取り込むことのできる詠唱の長さには限界があるんだ」

「そうなのか?」

「うん。魔術の発動自体には影響しないんだけどね。限界を超える量の詠唱をすると、魔術全体の威力が落ちる」

「魔術自体は発動する、と?」

「うん。規模は落ちるけどね。・・・・・・モリヒト君の手持ちのレッドジャックだったら、質がいいから、まずその限界に至ることはないから、あんまり気にしなくてもいいよ」

 韻晶核が詠唱を取り込み切れなくとも、詠唱に込められた魔術に対するイメージがあるため、それ自体は発動する。

 韻晶核が受けとめることのできる詠唱量。

 並びに、発動機が吸い上げることのできる魔力量。

 それらの総合で、魔術の威力は変わってくる、ということらしい。

「魔術をメインに精密に使いたいって場合でもなければ、それほど気にすることでもないんだよ。ついでに言うと、韻晶核による制限とかは、魔力の過剰消費を抑えるっていう見方もできるから、一概に悪いことばかりでもないしね」

「へえ・・・・・・」

 魔力消費が過大になると、それだけ体力の消費量も大きくなる。

 魔力は、消費した分だけ体力を使用するため、下手すると死ぬことを考えると、発動体にリミッター的な機能を期待する、というのは、確かにありなんだろう。

「クリシャは、自分が韻晶核の代わりをしてるって言ってたよな? そっちは?」

「ボク自身には、そういう制限はないよ。だから、気を付けないと、魔力を使い過ぎちゃうけどね」

「へえ・・・・・・」

「ボクの混ざり髪としての無詠唱は、実はそんなに長い詠唱の代わりはできない。ボクも、魔術を大規模かつ精密に制御したいときは、ちゃんと詠唱に頼るよ」

 韻晶核は、地脈の影響を強く受けた物質。

 自分自身を韻晶核とできる混ざり髪に憑いている精霊とは、真龍の鱗などに該当するものであるらしい。

 実際には、真龍の因子のある魔力を人間たちの方で精霊と名付けただけとも言えるらしいが。

「・・・・・・結局のところ、発動体を変えるなら、それに応じて詠唱も組み替えていかないといけないんだよ」

「そこまでかー」

「戦闘系の魔術師なら、一般的には、発動体に合わせていくつかの魔術詠唱を構築しておいて、それを適宜使い分けていくスタイルがほとんどだね。もっと言うと、大概の魔術師は、得意パターンっていうか、必殺パターンを構築してるのが常だね」

「必殺・・・・・・。かっこいい?」

「ルイホウ君にもあるよね? 必勝パターン」

「そうですね。必勝、というわけではありませんが。はい」

「あるんだ」

「私の場合は、水球を作って自動防御。その上で、敵の探知とマーキング。あとは、マークした敵に水球からの自動攻撃。がパターンです。はい」

 ルイホウは、そう言うが、

「それ、言っちまっていいのか?」

「構いません。ばれても構わないようなパターンですので。はい」

「確かに、破るのは難しそうではあるがけどよ」

 ルイホウは自信に満ちた顔で笑っている。

「そうだね。対応は難しい。破るとすると、力押しになるかそれ用に魔術を組まないといけないだろうし」

「ちなみに、私の場合、この魔術を使うと攻撃も防御も自動になりますので、魔術を維持したまま、別の魔術の行使も可能ですね。はい」

「魔術の並列起動だから。相当な難度だね」

 クリシャも、構成を聞いて、苦笑している。

「・・・・・・ん? それって、魔術を維持したまま、別魔術の行使だよな。可能なのか?」

 魔術は、一度発動してしまえば、そこからの操作は難しいし、詠唱で効果を追加するのはできないはずだが。

「魔術の詠唱を発動した後に追加するのは無理だよ? ただ、発動した結果を操作する魔術詠唱は不可能じゃない。・・・・・・例えば、火を放つ魔術で何かに火を点けた後、その火を操作する魔術を使うことは可能だよ。ただ、火みたいな普通の物理現象じゃなくて、浮かぶ水球みたいな魔術じゃないと実現不可能ものに対して、詠唱効果を追加するのは、かなり難易度高いけどね」

 それから、クリシャは、ルイホウの杖を見る。

「その杖だね。秘密は」

「ええ。サロウヘイヴ・メイデン。テュールの国宝の一つである、ウェキアスです。はい」

「ルイホウの杖ってウェキアスなのか?」

「ウェキアスは、使用者が死んだあとでもものは残るから。その残ったものは、発動体としては最上級。アートリアとはならないにしても、どの国でも大概国宝クラスだよ」

「へえ・・・・・・」

 そんなものを預けられるとは、ルイホウってすごいんだなあ、とモリヒトはのんきに考えていた。

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