第22話:出発前の雑談
なんだかんだ、と言ったところで、どこに行くにしても、モリヒトに準備しなければならないこと、というのは少ない。
結局のところ、ほとんどの準備はルイホウ任せだ。
今回に至っては、物資のほとんどは帝国軍が持ち運ぶことになっているし、モリヒトには本当にすることがない。
というわけで、のんびりとお茶をたしなんでいる。
「いいご身分ってのは、こういうのを言うのかねえ・・・・・・」
割と城内ばばたばたと忙しそうにしている中で、のんびりとお茶を飲んでいる現状、そうとしか言いようがない。
「ボクは、美味しいもの食べれて、今日はいいベッドで眠れそうで、大満足だけどね」
同じ部屋には、クリシャもいた。
モリヒトと同じく、暇人同士である。
先ほどまで湯につかっていたおかげで、全身がほかほかと湿り気を帯びているのが見える。
ルイホウは、と言えば、部屋の隅でアレトと、ディバリスの森へ向かうための部隊に必要な物資などの調整を行っている。
一応、横目にモリヒト達のことは確認してはいるものの、忙しそうだ。
ルイホウが行っているのは、地脈異常に対し、場合によっては必要となるであろう物資のリストアップらしい。
派遣する部隊の指揮はアレトが執ることとなっているため、アレトと二人で準備中、ということだ。
準備完了には、明日一日かかるだろう、ということで、出発は明後日だ。
それも、人員の輸送を優先しており、ルイホウが求める物資については、準備が整い次第順次発送、ということになるらしい。
「・・・・・・ルイホウに迷惑かけるなあ」
「あはは。しょうがない奴だなあ。モリヒト君は」
ルイホウを見ながら言ったモリヒトの言葉に、クリシャがけらけらと笑いながら言う。
「やかあしいわ。一番どうしようもない奴が」
「ええ? それってボクのことかい?」
クリシャは大げさな様子で嘆く。
「ひどいや! モリヒト君がきっと大変だろうと思って! 友情の名の下に! お手伝いしてあげようっていうのに!」
「・・・・・・すっげえわざとらしいのな」
大げさすぎて、呆れていいのか怒っていいのか分からない。
またけらけらとクリシャは笑っている。
酔ってんのか、とも思いたくなる。
「ふふふ。まあ、護衛としてはボクが手伝ってあげるし、地脈関連についても、ボクはそこそこ詳しいよ? さすがに、専門家であるルイホウ君ほどではないけどね」
「・・・・・・六百年生きてても、ルイホウの方が詳しいのか?」
「ううん。・・・・・・そうだねえ・・・・・・」
むむ、とクリシャはちょっと考えた。
「ボクの地脈に対する知見っていうのは、結局のところ混ざり髪の体質に起因するところが大きいんだよ。だから、直感的に分かりはするけれど、しっかり知識と実践の両方を合わせて修めているルイホウ君に比べると、どうしても劣るね。・・・・・・それに」
「それに?」
クリシャは、ちょっともごついたが、モリヒトの促しに口を開いた。
「ボクの感覚は、地脈として正しい状態を感知する。・・・・・・瘤になるまでもなく、オルクトからテュールまでの地脈はどこか異常な状態として感じるんだ」
「それは・・・・・・」
「オルクトは、地脈の力をその上で暮らす人間たちに都合がよくなるように調整している。その調整の最先端こそ、テュールの地脈技術だ。はっきり言ってしまえば、決して自然な状態ではないんだよ」
クリシャの言葉を聞いて、モリヒトはふむ、と考える。
自然を自分たちに都合がよいように開拓する、というのは、人間として当たり前のことのように思える。
それはすなわち、人間の恣意で自然が歪んでいる、ということで、クリシャにとっては不自然、と映るのだろう。
モリヒトは、地脈について、そんな感覚は分からないから、クリシャの言うことに、決して共感できるとは言えない。
「・・・・・・じゃあ、ミュグラ教団がやっていることについては?」
「正直に言うと、あいつらが何やっているのか、ということについて、ボクが知っていることは少ないよ。あいつら、冷静に狂人だから」
「言うなあ・・・・・・」
「一応、より優れた人間になる、っていうお題目を抱えてはいるけれど、実際のところ、倫理無視した狂科学者の吹き溜まりになってるから。中身は全部犯罪者しかいない」
「組織として統制取れてるのか? それ」
「取れてるわけないじゃん。所属員同士で実験素材取り合って争うなんて日常茶飯事」
肩をすくめ、やれやれとため息を吐きながら、クリシャは言う。
「なるほど、頭のいい馬鹿の集まりって感じだな」
「動くときも基本的にスタンドプレーしかしない。一応、内部で研究資料の共有くらいはやってるみたいだけどね」
「一人構成員を捕まえると、割と内部情報ぼろぼろしゃべりますが、その情報で根絶やしにできないんです。はい」
苦々しい口調と、吐き捨てるような言い方だ。
部屋の隅で話していたルイホウも、会話に加わってきた。
「普段は単独なのに、できるところでは協力する。そのくせ、ピンチになったところで助けはしない。だから捕まえきれずに逃げられる、というわけです。はい」
ばらばらに、だが、大体は共通の目的を持っている。
普段は普通の研究者として平凡に生きている。
だが、実験に際しては、一切の倫理を無視して行動する。
そういう集団なのが、ミュグラ教団、ということなのだろう。
「面倒そうな連中だなあ・・・・・・」
「そうな、ではなく、面倒な連中なんです。はい」
ため息を吐きながら、ルイホウは頷いた。
「問題なのは、その取り合いに巻き込まれて、村の一つや二つが軽く壊滅すような事件を、やつらは引き起こす、ということっすよ」
アレトもこちらにやってきて、机の上で書類を作り始めた。
「話し合いはいいのか?」
「大体の準備は洗い出せたっすよ。あとは、書類にまとめて提出っすけど、そっちはこっちでやるので、どうぞ話を続けて構わないっすよ? あとで内容は報告しますけど」
アレトには、クリシャの監視の役割も与えられているのだろう。
会話の内容は、報告に上がる。
クリシャを見れば、特に気にした風もない。
「・・・・・・・・・・・・巻き添えで、滅ぶか」
誰も気にする風がないので、モリヒトも話を戻すことにした。
「そう、巻き添え。・・・・・・わかりやすく言うと、今日の襲撃だってそう」
「俺か」
「そう。モリヒト君。言ったでしょ? アレト君っていう魔皇近衛が護衛についているモリヒト君を狙うのは、あまりにもリスクが高いって。おかげで、魔皇陛下ご本人の出陣だ」
おかげでボクも捕まっちゃったし、とクリシャは苦笑いしている。
「そこ言うと、ちょっと気になってるんだが」
「うん?」
「あの、最後に落ちてきた黒いのって、何だったんだ?」
落ちてきた時の風圧で、襲撃者たちもまとめて、クリシャごと吹き飛ばした。
「さあ? ボクもよく見えなかったし。・・・・・・多分、魔獣の改造体だと思うけど・・・・・・」
「ああ、最後に陛下が焼きつぶしたってあれっすね?」
「何か分かったのかい?」
アレトは手元の書類に書き込みをしながらだが、話す。
「灰しか残ってなかったんで、遺体からの調査はできてないっす。ただ、リズ様がいろいろ見てくださってたのと、陛下の証言があるんで、大体のところは」
アレトが言うには、あれは猿タイプの魔獣に、羽が付いていた合成獣タイプの魔獣であったらしい。
「焼け残りとかなかったのか?」
「陛下がリズ様をウェキアスに戻して、銀炎を使ったんす。焼け残りとかありえないっすね」
「まあ、ともあれ、多分それを用意したのは、ミュグラ教団だったはずだ。ボクへの効率的な対抗手段っていうことを考えると、多分ボクの魔術に耐性があって、かつ、多少の衝撃は無視して動けるパワータイプだろうね」
「なるほど・・・・・・」
なんとなく、羽の生えたゴリラをイメージした。
「魔獣を操るのもできるのか・・・・・・」
「そちらは、割とありふれた技術ですね。牧畜や農耕、流通などに利用しているのもいますし。はい」
「ふうん・・・・・・」
「問題なのは、クリシャさんに対抗するための新種の魔獣を作ってるってことっすよ。ことによると、ディバリスの森でも似たようなのが出てくる可能性があるっす」
「そうなると、モリヒト様の護衛に不安が出ますね。はい」
ルイホウが、じ、とクリシャを見つめている。
それに気づいたクリシャが、きょとん、と首を傾げた。
「もしかして、ボクがその魔獣に何の抵抗もできずにやられちゃう、とか思ってる?」
「対抗策、あるんですか?」
「使う魔術の種類を変えるだけだよー。どんな魔術にも対抗できる、なんてそんな便利なものはない!」
堂々と言い切るクリシャに対しては、もう言うべき言葉はないのだろう。
はあ、とルイホウはため息を吐くだけだった。
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