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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第2章:魔帝国
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第18話:人払いと街中の襲撃(3)

 帝都の街並みは、基本的には整然としている。

 ただし、それは大通り沿いの地区から離れるに従い、雑然、という様相へ変わっていく。

 理由はいくつかあるが、最大の要因は、帝都が広すぎることにある。

 そのために、区画整理の手が回りきっていない。

 結果として、外縁部に向かうにつれて雑然とした箇所は多くなり、入り組んだ路地や不意に開けた広場、あるいは、複雑に折り重なった構造の建築物などといった構造が発生するようになる。

 それが下町の風情を生み出している、といえば確かにそうだが、細かい道のりは地元民でも把握していないことは多々ある。

 当然、警備兵などの到着も遅れる。

 それを見越して、今回の襲撃者たちはここへと誘導したのだろう、と推測できる。

 モリヒトの見る先、クリシャは進み出ていく。

 ちょうど、広間の中央付近だ。

 そこから、ぐるりと回りを囲む襲撃者たちを見返すと、

「やあやあ! いつまでも高いところで見下ろしていないで、降りてきたらどうだい?! こっちはこの通り小柄で可憐な美少女なんだ! いつまでも見上げていると、首が疲れてしまうよ!」

 小柄で可憐な美少女(自称)は、堂々と胸を張って宣言する。

 見た目的には間違ってないが、極めてふてぶてしい。

「一面だけ見るとかわいいんだけど、複合すると不気味さを感じる。・・・・・・今までに会ったことのないタイプの人間だ」

「・・・・・・モリヒト様。クリシャ様に対してさんざんな評価をしていませんか? はい」

 声を潜めて呟いたモリヒトだったが、近くにいたルイホウには聞こえたらしい。

 苦笑気味だが、たしなめるような口調で返答があった。

「ええい。来ないならこっちからいくぞお!」

 やけっぱち気味の口調だが、声は弾んでいる辺り、なんだか楽しんでいる気配を感じる。

 追いかけられて走って、うまいこと誘導されていることを悟って、ちょっといらっときていたのかもしれない。

「・・・・・・でも、多分敵さん、クリシャ対策してるよな」

 ふむ、と思いながら、レッドジャックの柄を握る手に力を籠める。

 援護に入るにはちょっと不安があるが、

「最悪、火の壁でも石の壁でもいいから出して、隠れてよう」

「今からしてもかまいませんが・・・・・・」

「すぐ逃げられなくなるのはやめとく」

 言っている間に、クリシャが動いた。

 杖を大きく振り上げて、

「とりあえず、そのまま吹っ飛べ」

 言葉とともに、振り下ろした。

「・・・・・・」

 モリヒトが、また詠唱してない、と目を細めると同時、旋風が広場の中から上空へと突き抜けた。

 一瞬中央へと引き込むような大気の動きの後に、一気に空へと突き抜ける。

 壁を背に、身を低くしたモリヒトやルイホウですら、吸い込まれそうになったそれだ。

 屋根の上にいた襲撃者たちは、飛びかかる直前の体重を浮かせた状態のものもいた。

 それらは引き込まれ、上空へと打ち上げられて、

「おまけにお土産だよ」

 再度振るわれた杖。

 その動きとともに見えない力の弾がいくつか放たれ、宙へと投げ出されている襲撃者たちを直撃する。

「・・・・・・やったか?」

「対策ありです。それほどダメージにはなっていないはずです。はい」

 ルイホウの言う通り、攻撃が直撃したはずの襲撃者たちが、何事もなかったように着地する。

「・・・・・・十二人?」

「まだ屋根の上にとどまっているものがいます。合計で十六人」

「クリシャどうすんのかね?」

 襲撃者たちの意識はこちらを向いていない。

 そのことを感じ取って、半ば観戦状態に入っているモリヒトに対し、ルイホウの方は緊張が解けていない。

「やあっと降りてきたね? とりあえず、ボクの魔術には対策をしているみたいだけど、まさかそれでボクを捕まえられる、なんて思っていないよね?」

 無言で武器を構える襲撃者たちに対し、クリシャは口の端を吊り上げるように笑う。

「来ないのかい? なら、次もボクから行くよ?」

 挑発のような言葉に触発されたわけでもなかろうが、襲撃者たちが飛びかかる。

「・・・・・・へえ」

 その後の流れを見たモリヒトは、思わず感嘆の息を漏らした。

 襲撃者たちの攻撃が当たらない。

 武器の一撃を踊るようにかわし、攻撃後の隙のある体に杖の先を突き付けたところで、その体を衝撃が襲って吹き飛ぶ。

 そんなことが何度となく繰り返され、クリシャは息一つ乱さないままに、襲撃者たちだけがあしらわれていく。

「・・・・・・強いな」

 立ち回りが上手い。

 避けた相手にカウンター気味の攻撃を叩き込むだけではなく、時折杖を振って、周囲を囲む敵にも、衝撃を飛ばしている。

 それもすべて無詠唱だ。

「・・・・・・どうやってる・・・・・・?」

 杖を振る都度、クリシャの杖の先端から何かしらの光の線が出ているのは見える。

 だが、その線が一体何なのかはわからない。

「ううん? なんだろう。対策はどうしたんだい?」

 そうしている間に、クリシャは首を傾げている。

 周囲にいた襲撃者を遠ざけ、隙を窺う彼らに対し、どこか呆れたような様子で、

「なんていうか、ボクの攻撃が効いていないのは分かるけれど、どうして攻撃がそんなにお粗末なんだい?」

 モリヒトの目から見ても、襲撃者たちがクリシャの相手になっていないのは分かる。

 どう見ても、クリシャは無傷で疲労も薄い。

 一方で、襲撃者たちはクリシャの魔術のダメージは受けずとも、その衝撃によって吹き飛ばされ、地や壁に叩きつけられることもあり、そのダメージは決してないわけではないはずだ。

 時間はかかるだろうが、クリシャの勝利はゆるぎないものであるように思う。

 だというのに、襲撃者側の攻撃方法がパターン化していて変わらない。

「まあ、いいや。その程度なら、こっちもちょっと本気出すよ?」

 クリシャは殲滅する気になったようだ。

 杖を振りかぶったクリシャへ、屋根上からいくつかの刃が飛ぶ。

「ん?」

 すー、と流れるような動きだった。

 それで刃の当たらないところへと身を移したクリシャは、杖を振るう。

 放たれるのは、やはり目には見えない力の弾だ。

「・・・・・・あれ一つか」

 やっていること自体は、杖を振る都度力の弾を放つこと。

 先ほど旋風を作った動きもあったが、結局あれも力の流れの形の違いでしかない。

 モリヒトが見ている先、クリシャの魔術は間違いなく敵を打ち据えていく。

 さっきまでは、近寄ってくる敵を吹き飛ばす形だった。

 だが、今度は上から叩き潰すような動きだ。

 力と地面に挟まれ、強烈な打撃が襲撃者たちに叩き込まれている。

 屋根上に残っている敵はいるが、この調子ならクリシャの側に負けはないはずだ。

 不思議と、襲撃者たちはこちらを気にしないため、モリヒトもルイホウも広場の端に寄ったまま、のんびりと観戦していた。

「・・・・・・・・・・・・」

 先ほどから、断続的に打撃音が響いている。

 クリシャが杖を振り下ろす都度、地面へと襲撃者の体が叩きつけられ、跳ねるのだ。 

 いつの間にか、屋根の上にいた者たちですら、下へと引きずり降ろされて叩きつけられている。

「・・・・・・これは、本格的に終わりかな?」

 モリヒトの見ている中、もう敵はいないように見える。

「ルイホウ? どうだ? 他に敵は?」

「・・・・・・・・・・・・いないようです。はい」

「・・・・・・なんだ? これ」

 いろいろおかしいところは言ったはずだが、なんだか襲撃者の手はずが悪すぎる。

「こいつら、一体何を目的に襲ってきたんだ?」

「不明ですね。はい」

 やがて次第に、襲撃者たちが地に付したまま動かなくなる。

「・・・・・・終わり?」

「終わりのようです。はい」

 ルイホウと顔を見合わせ、モリヒトは眉間にしわを寄せる。

 どうにも、敵の動きが不気味だ。

「・・・・・・一体・・・・・・」

 何だったんだ、とモリヒトが疑問に首を傾げた瞬間だった。


** ++ **


 広場の中央へと影が降ってきた。

 一直線に降りてきたそれは、広場の中央へと着地した。

 高空から高速で降下、というより墜落に近い勢いで落ちてきたそれが広場の中央に着地した瞬間、周囲を振動させ、衝撃を生んだ。

 いつでも防御用の障壁を張れるように準備をしていたルイホウは、反射的にそれを展開。

 その後ろに隠れることとなったモリヒトは、ルイホウとともにその衝撃をやり過ごした。

 広場中央、ちょうどその降りてきた影の真下にいたクリシャは、直撃こそかわしたが、その後に生じた衝撃をその身に受けることとなる。

 とっさに杖を振って放った魔術によって、致命的なダメージこそ防いだものの、衝撃によって後ろへと飛ばされることとなる。

 まとっていた衣装が大きくはためき、被っていた帽子が飛ぶ。

 その下から、帽子の中に押し込んでいた長髪が零れ落ちた。

 白髪。

 そして、赤と蒼と金の髪が入り混じった、複雑な髪色の長髪だ。

「こんの・・・・・・っ!」

 衝撃を耐えきり、伏せていた顔を上げたクリシャは、広場中央へと降りてきた影を睨み据えて、思い切り杖を上へと振り上げた。

「!?」

 だが、その直後、その上から銀の炎が一直線に落ちた。

 その銀の炎に焼かれた影は、そのまま銀の灰へと転じ、風に散るのであった。


** ++ **


「よう。モリヒト。無事なようで何よりだ」

 銀の灰が吹き散る中、すっくと起き上がる赤の人影。

 その手に持たれた真紅の大剣が、炎へと解けて、渦を巻くように隣に人型として顕現する。

「よう。セイヴ。思ったより早かったな」

 モリヒトが苦笑して右手を挙げれば、魔皇セイヴは、なんとも堂々とした笑みを浮かべるのであった。

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