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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第2章:魔帝国
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第16話:人払いと街中の襲撃(1)

 周囲の人の気配がない。

 そう思ったところで、クリシャがあちゃあ、という顔をした。

「ごめん。モリヒト君。どうやらボクは君のことを巻き込んだらしい」

「嘘くさ」

 状況的にお前の仕込みだろ、という考えを視線に乗せるモリヒトだが、クリシャは首を振った。

「いや、これはほんとにボクの仕込みじゃないんだよ。・・・・・・ていうか、正直、この人ごみの中で仕掛けてくるとは思ってなかった」

 困ったなあ、とクリシャは腕を組んで考えている。

 その様を見て眉を顰めるモリヒトの隣に、ルイホウは静かに並ぶ。

 すでにその腕には、ルイホウの発動体である『サロウヘイヴ・メイデン』が抱えられていた。

 顔も険しく、見るからに警戒している。

「モリヒト様。警戒してください。はい」

 モリヒトの耳元で、ささやくようにルイホウは警告を発する。

「人払いの結界が展開されました。誰が展開したかは不明ですが、かなり高度です。はい」

「・・・・・・どうやら、ルイホウ君は気づけたけど、アレト君は結界の外にはじかれてしまったかな?」

 む、とモリヒトが周囲を見回したところで、気づいた。

「・・・・・・ここ、どこだ?」

 周囲の光景が、先ほどと変わっている。

 人がいない、というだけではなく、街並みそのものが変わっている、とそうモリヒトは感じた。

 いつの間にか大通りではなくなっているし、明らかに細い路地に入っている。

 向こう側を見通せないほどに曲がりくねった路地だ。

 クリシャを見ながら歩いていたとはいえ、ここまで周囲の景色が変わっているのに気づかないというのは、いくら何でも信じられない。

 それに、アレトもいなくなっている。

 ルイホウだけが、触れ合うような距離に立っていた。

「まさしくその通りです。はい」

 人避け、というのは、人のいなくなる領域を作る結界のみを指すものではないらしい。

 ルイホウ曰く、今回はクリシャを巻き込む形で、モリヒトを中心として人を避けさせる結界を展開されたらしい。

 簡単に言えば、指定された対象が、気づかないうちに人を避けた場所に移動してしまう誘導魔術、ということだ。

 幻術と認識阻害を加えてかけられることで、周囲の景色に気づかないうちに移動してしまうらしい。

 そして今、周囲に人の気配がないのは、人のいない領域を作る、人払いの結界の中にいるからのようだ。

「そんなことできるのか?」

「仕込みがあれば可能です。はい」

 仕込みとは何のことか、と首を傾げたところで、クリシャが言った。

「ごめんね。どうやら、モリヒト君がボクの身代わりになってしまったみたいだ」

「・・・・・・どういうことだ?」

「ボクがモリヒト君と仲良しになっちゃったから、モリヒト君が狙われたって感じかな・・・・・・」

 クリシャはモリヒトへ手の平を見せて、唇の前に人差し指を立てた。

「・・・・・・・・・・・・」

 モリヒトが黙ったのを確認すると、クリシャは周囲をきょろきょろと見回し、何かに気づいた様子て道の脇に置いてあった木箱から、何かを取り出した。

 小さな陶器の置物だが、

「よ」

 足元にたたきつけられて割れた中から、何か黒い塊のようなものが転がり落ちる。

 それを拾い上げ、クリシャは指先でつまんで確かめる。

「人払いの結界の基点だね。これ一個じゃないはずだ。全部壊さないと、この結界は破れないだろうね」

 モリヒトに見せたそれは、黒い炭の塊のような、なんとも正体不明なものだ。

 少なくとも、モリヒトの目からは、何かの魔術のようなものは感じ取れない。

 それをもう一度地面に落として、クリシャは踏みつぶした。

「それまで助けは来ないと?」

「アレト君に期待だね。アレト君は、あれで魔皇近衛だろう? 君を見失えば間違いなく報告を上げるはず。そうなれば、間違いなく捜索隊が出るさ」

 クリシャは、軽い調子で肩をすくめた。

 モリヒトから考えれば、安心材料、と見れなくもないが、

「・・・・・・ルイホウ。どの程度で来ると思う?」

「アレト様の城への報告の完了と捜索隊の出発まで、含めて、おそらくは三十分ほどでしょう。はい」

 ルイホウの予測に、ほう、クリシャは感嘆の息を吐く。

「早いね。モリヒト君は、そんなに重要人物なのかい?」

「魔皇近衛が護衛に付いていたのです。国家の威信に賭けて、モリヒト様の救出に動くでしょう。はい」

「ああ・・・・・・」

 アレトに責任問題が発生しそう、と心配になるが、気にしてもしょうがないだろう。

「まあ、アレト君だしね」

「クリシャは、アレトについて知ってんのか?」

「当然。この国で最精鋭ともいえる魔皇近衛の一人だよ? 全員の顔と名前くらいは知ってるし、アレト君にいたっては、魔皇近衛の中では、一番フットワークの軽い実働だからね」

 確かに、テュール異王国に迎えに来たり、モリヒトの街歩きについて来たりと、フットワークは軽いが、

「・・・・・・本人は、下っ端の使いぱしりって言ってたけどなあ・・・・・・」

「つまり、一番身軽に動き回るってことだよ」

 クリシャは軽い口調で言う。

「でも、三十分、ていうのは、ちょっと早すぎるかな」

 クリシャの言葉に、ルイホウも頷いた。

「出動は早いでしょうが、おそらく到着は遅れるでしょうね。はい」

「妨害されるか」

 モリヒトが、ふむ、と唸っていると、クリシャはルイホウへと目を向けた。

「・・・・・・ルイホウ君は、モリヒト君を合わせて守れるかい?」

「問題ありません。モリヒト様を守るのは、私の仕事でもありますので。はい」

 ルイホウは頼もしいなあ、とモリヒトがのんきに思っている間に、ルイホウはルイホウで周囲への警戒を厳しくしている。

「じゃあ、そっちは頼むよ」

 ふふ、と笑った後で、クリシャは服の裾からタクトのような、小型の杖を取り出した。

「ボクはとりあえず、この結界を破ることにする」

「・・・・・・・・・・・・状況がよくつかめないんだが、危険はあるか?」

 モリヒトは、明らかに自分が足手まといなのを分かっている。

 ぶっちゃけ、襲撃となると自分の護りはルイホウ任せだ。

 エリシアと会ったときに戦ったりしたが、痛かったし二度とごめんだ。

「敵が来るよ。来ないわけがない。ボクが主に狙われると思うけど、人質狙いで捕えにくる可能性もあるし、自衛はしてほしいかな」

「それはルイホウにお任せする」

 堂々と言い切ったモリヒトに対し、ルイホウは微笑し、クリシャは苦笑した。

「・・・・・・他力本願だなあ・・・・・・」

「戦闘とは言わんが、俺が出た二回で俺はどっちも大けがしたしな。三回目も同じことやったらバカだろう」

 三度目の正直と言うなら、怪我をしないで終わらせてこそだろう。

「そうしてくださった方が、私としても安心できますから。はい」

「そう? まあ、敵の迎撃は主にボクがやるよ。二人は自分の身を守ってくれればいいよ」

「もう一個、クリシャが結界を破るのと、捜索隊が俺らを見つけるのと、どっちが早い?」

「なんとも言えないなあ・・・・・・。結界の規模はそれほどでもないだろうけど、それだけ敵が攻めてくるのも早いだろうから。敵をかわしながら、となると捜索隊の方が早いかもしれないね」

「どちらにせよ、移動して、身を隠すべきでしょう。はい」

「そうだね」

 こっちだよ、とクリシャが走りだしたので、モリヒトはその後を付いていこうとして、ルイホウに止められた。

「彼女の後を追うと、本格的に巻き込まれる恐れがあります。はい」

「うーん。気になるから行こうって言ったら怒る?」

「好奇心だけで行動するのは危険です。はい」

 ルイホウの目は厳しいが、

「クリシャはたぶん手練れだろ? 俺が足手まといなんだから、強い奴と一緒に行った方がいいさ」

「・・・・・・彼女が敵ではない確証がありません。はい」

 それはそうだな、とモリヒトは頷いた。

 ただ、

「なんだかんだ言って、クリシャならこの状況にはしない気がするんだよな」

「それは、どういうことですか? はい」

「んー。カンの域は出てないが、まあ、とりあえずクリシャはたぶん大丈夫だろ」

 しばらくルイホウはモリヒトの目を覗き込んでいたが、はあ、とため息をついて、

「分かりました。行きましょう。はい」

 仕方なさそうに苦笑して、頷くのだった。


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