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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第2章:魔帝国
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第11話:魔術の種明かし

「最初から、消えない炎だからだ」

 種明かしをしてしまえば、そういうことだ。

 模擬戦の最中、ヴィークスへと放った魔術の炎についてだ。

 魔術で作った炎は、砕かれた後も火の粉は残る。

 これは、魔術で作られた炎が、放たれた後は物理現象として残るからだ。

 ただ、何かに燃え移りでもしない限り、燃えるもののない炎は、火の粉を散らして消える。

 だから、ヴィークスも一度火の粉へと散らした魔術の炎への警戒を解いていた。

 もちろん、種はある。

「詠唱に、消えぬ炎って組み込んだ。だから、迎撃されようが、何しようが、俺が炎をイメージしている限りは消えん」

「・・・・・・・・・・・・? いや、無理だろう」

 セイヴがそう言うのは分かっていた。

 魔術において、詠唱が終わらなければ、魔術は発動しない。

 そして、詠唱が終わったならば、魔術の効果は詠唱の範囲内で終わりだ。

 消えぬ炎、と詠唱に組み込んだところで、確かに消えにくい炎は作れるだろうが、そこまでだ。

 一方で、先ほどの魔術にはおかしいところがあった。

「・・・・・・放たれた後の魔術が作り出した炎を、お前は後から詠唱を追加して制御した。・・・・・・魔術の理論からは外れてしまうはずだ」

「おや、物理現象でも、魔術で制御は可能だろう?」

 普通に燃えている火に、魔術で火勢を増したり、あるいは動きを制御したり、というのはたやすい。

 むしろ、何もないところで火を作り出すより、最初から燃えている炎を使った方が、魔力の消費量は少なくできる。

「いや。お前は後の詠唱で、発動鍵語、レッドジャックを発音していない。あれでは、後に続いた詠唱はただの言葉にしかならないはずだ」

 よく聞いている、と舌を巻く。

 模擬戦中で、離れていたはずだが、どれだけ地獄耳なのやら、と。

「ううむ」

「どうやったのです? はい」

 ルイホウの方も、興味を惹かれているのだろう。常になく声の調子が高く聞こえる。

「んー。俺としても、うまくいくかは、割と賭けの要素が近かったんだが・・・・・・」

 レッドジャックをもらった時から、ちょっと練習していたことではあるのだ。

「別に、どんな発動体でもできるってもんじゃないけどな」

 モリヒトは、レッドジャックを取り出した。

 刃に巻いていた布を外し、刀身をあらわにする。

「レッドジャックだからできたんだよ」

「どういうことだ?」

「発動体の構造を利用した裏技というか・・・・・・」

「む?」

 発動体の構造は、大きく三つの部品に分けることができる。

 一つは韻晶核と呼ばれる部品だ。

 作り方や素材によって性能は変化するが、役割としては、魔術の発動を司る部品である。

 魔術詠唱を行う際、イメージを込めて行われる詠唱は、その言葉の中にイメージを実現するための魔力が宿る。

 実際のところ、詠唱単体でも、認識できないレベルでの極小規模での魔術発動は可能らしいが、それでは魔術としては何の効果も期待できない。

 発動体は、その極小規模の魔術を実用規模にまで増幅するのが、主な役目になる。

 その中でも、特に魔術の発動を司るのが、この韻晶核になる。

 詠唱中に思う魔術についてのイメージが魔術発動の鍵となるが、実際のところそうして詠唱に込められる魔力には、様々な雑念が混じる。

 だが、雑念によってイメージの一貫していない魔術詠唱では、魔術は発動しない。

 その雑念を詠唱中の魔力から取り除くフィルター、というのが、韻晶核の役割としては正しいだろう。

 これにより、詠唱単体では認識不可能なレベルの極小規模魔術から、もしかしたらちょっと見えるかもしれないというレベルまで魔術規模を上げることができる。

 韻晶核は、発動鍵語によって起動し、その後詠唱に込められる魔力を感知して稼働する。

 詠唱の発音を取り込む必要があるため、韻晶核は大体外部に露出している。

 そして、詠唱を発音して行わなければ魔術が発動しないのも、韻晶核に音を聞かせる必要があるからだ。

 次に発動機。

 発動機は、韻晶核の稼働と連動しており、起動すると発動体の装備者から魔力を自動的に吸い上げる。

 この魔力が魔術の規模を上げるための、いわば燃料として使用され、韻晶核がフィルタリングしたイメージの込められた魔力によって発動する魔術の規模を底上げする。

 そして、詠唱が終わり、韻晶核の稼働が終わると発動機の魔力吸い上げも終了し、そこで魔術が発動する。

 性質上、発動機は基本的に発動体の持ち手部分に組み込まれるのが普通だ。

 最後に、触媒だ。

 発動機が吸い上げた魔力をより魔術に適した性質へと変化させる力を持った部品だ。

 レッドジャックが火属性に適性を持つのは、触媒にそういう性質があるから、だ。

 これらの組み合わせによって、発動体は作られている。

 組み合わせ方や素材などによって、魔術の増幅率や精密さの向上など、様々な効果を見込めるため、魔術研究においては最先端のテーマの一つである。

「でさ、さっきの種明かしをすると、発動体の性質の利用な?」

「・・・・・・どうやる?」

「レッドジャックは、発動鍵語が同じ『レッドジャック』だろう?」

「ああ」

 レッドジャックの最大の特色は、同じ発動鍵語の発動体を双剣として両手に持つことで、共振作用による魔術増幅を行っている、という点だ。

 これにより、レッドジャックは剣の片方だけでは平凡な発動体だが、双剣を揃えて運用することで、一級品の発動体へ変貌する。

「つまり、普通に使うと、レッドジャックは二つの剣で同時に魔術を発動する」

「そういう言い方をするってことは、普通じゃない使い方をしたのか?」

「発動体の中の発動機の性質だよ」

 レッドジャックn持ち手となる柄。

 握りやすいように施された掘り込みの中に、金属光沢を持った導線が見える。

 この導線が発動機へ魔力を送る役割を持つのだが、

「普通、発動体は韻晶核の稼働に合わせて、魔力を吸い上げる。詠唱が終われば、魔力の吸い上げが停止し、それが魔術発動のスイッチになっているわけだけど」

 発動体による魔力の吸い上げは自動だ。

 ただ、その際にあえて魔力を送り込むことで、魔術の威力を向上させることはできる。

「今回やったのはその逆な? 発動の区切り、最初の魔術を発動させるタイミングで、一旦右手のレッドジャックに送る魔力を弱めて、さらに持ち帰る時に手から離すことで、一時的に発動機への魔力供給を途絶えさせる。そうすると、発動機は魔術を発動させる。ただし、右手の方だけな」

 右手のレッドジャックをひょいひょい、と順手逆手と持ち替えをしている間に、左手のレッドジャックはそのままだ。

「で、左手のレッドジャックには、魔力を吸い上げるのに任せるんじゃなくて、こっちから自発的に魔力を送り込む。そうすると、魔術は発動待機状態にできるだろ?」

 ちょっとした小手先の技、として以前ルイホウからちょろっと教えてもらったことだ。

 発動機は魔力の供給が止まることをスイッチとするため、逆に言うと魔力が送り込まれる限りは魔術は発動しない。

 ずっと魔力を送り続けるため、魔力を垂れ流しにするのと同義になるから、長時間の維持は困難だが、短時間で魔術の発動のタイミングをずらすくらいなら、わけもない。

「・・・・・・で?」

 セイヴに促され、モリヒトは左手のレッドジャックを持ち上げる。

「発動待機状態は、見かけ的には詠唱中でもある。だったら、そこで詠唱の追加は不可能じゃないはずだと。・・・・・・ぶっちゃけ、思い付きのぶっつけ本番だったんだが、うまくいったなあ」

 ははは、とモリヒトが気楽に笑う横で、セイヴが顎に手を当てて唸っている。

「・・・・・・・・・・・・対になっている発動体は、同時に発動鍵語で起動した場合、何かしらの繋がりがある、ということか? 同時発動による共振による増幅くらいかと思っていたが」

「同時起動の場合、片方だけで魔術を発動すると、詠唱中の魔術が途中で発動する、ということになります。はい」

 ルイホウもまた、同様に難しい顔をしているのを見て、モリヒトは首を傾げた。

「何かおかしいのか?」

「魔術の発動は詠唱が完了してから、というこれまでの常識に真っ向から反している。詠唱中の魔術が発動するなど、暴走と変わらんぞ」

 だが、とセイヴは笑った。

「面白い! もしかすると、魔術の運用に別の道ができたかもしれん! 研究させてみる価値はありそうだ」

「・・・・・・ふむ。まあ、面白がってくれてるんなら、まあ、いいか」

 モリヒトはセイヴの笑い声を聞きながら、手の中のレッドジャックを見下ろす。

「・・・・・・イメージ次第でありながら、発動体の縛りがあるんだよな。魔術って。・・・・・・少し、詠唱も改善したいところだが」

「詠唱の改善なんぞ、イメージしやすい言葉をどう選ぶかぐらいだと思うが?」

「それはそうなんだけどなあ・・・・・・」

 ふうむ、と唸りつつも、思っていたことはある。

「まあ、まだ構想段階だけどな。うまくいけば、程度で」

「うん?」

 モリヒトは肩をすくめて、立ち上がる。

「ちょっとやってみるか」

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