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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第2章:魔帝国
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第8話:帝国の問題

「陛下。出立前に捕らえた暗殺者については、覚えておいでですか?」

「・・・・・・・・・・・・ああ、あれか?」

 ビルバンに言われ、しばらくセイヴは考えこんでから、ぽん、と手を打った。

「手応えなさ過ぎてつまらんかった」

「暗殺者?」

 モリヒトは首を傾げるが、

「日常茶飯事だ。俺様は結構命を狙われている」

「ああ、むかつくもんな」

「おいこら」

 モリヒトがもっともらしく頷くと、セイヴは頬をひきつらせた。

「敵が多いのは想像つくが、暗殺者を自分で捕まえるとか、人手不足か?」

「そう言われても反論はできませぬな・・・・・・。ああ・・・・・・」

 ビルバンはうつむいた。

「陛下が強いのと、リズ殿の探知は優秀でしてな」

「リズって探知できるの?」

 セイヴの相方として、でっかい炎の塊をぶん回していたところしか見たことがないので、がっつり戦闘系と思っていたのだが。

「広いぞ? 少々仕込みはあるが、帝都全域は探知できる。俺様の能力と合わせれば、城の内部の侵入者は把握可能だ」

「・・・・・・へえ・・・・・・」

 すさまじいな、と飛空艇から見下ろした帝都の規模を思い出す。

 仕込み、というのは、おそらく魔術を使用するための細工がある、ということなんだろう。

「俺様は、城の中で働いている人員は全員把握しているからな。それ以外の人間がいれば、基本的に侵入者だろう?」

「・・・・・・・・・・・・さらっとすごいこと言うよなあ、こいつ」

 帝都の城はすさまじく広い。

 規模からして、働いている人間は、百や二百ではきかないだろう。

 それを全部把握とは、と感嘆するほかない。

「それに、夜中に屋根の上を飛び回るようなのは、どう考えても不審者だろう?」

「それを言うと、陛下も不審者っすね」

「・・・・・・・・・・・・」

 アレトが壁際からぼそっと挟み込んだ一言に、一時室内の空気が止まる。

「・・・・・・まあ、それはそれとして、だ」

 こほん、とセイヴが咳払いを一つ打つ。

「話を戻そう。その暗殺者がどうした?」

「捕えていた牢の中で全員死にました」

「ほう?」

「出発前に、自分も聞いたっす。監視にあたっていた牢番も含めて、全員やられた、と」

「・・・・・・・・・・・・」

 セイヴの顔が険しくなる。

「全員、殺しておくべきだったな・・・・・・」

「陛下の責ではございませぬ。陛下が出られずとも、暗殺者は捕えておりました」

「そうっすね。近衛のいる区画に近寄ったら、まず間違いなく。・・・・・・そうでなくても、陛下のいる区画には常に親衛隊が詰めてますから」

 アレトが頷きついでに説明する。

 ちなみに、親衛隊、というのは、魔皇近衛隊とは別の、城内警護を務める部隊である。

 近衛と兼任している騎士もいるらしい。

「また話がそれましたな。とにかく、暗殺者は口封じされた、ということです。つまり、いつもとは違う」

「いつも?」

「いつもは、尋問を済ませたのち、それ相応の裁きを与えている。・・・・・・大概は死罪だが」

 魔皇の暗殺を狙ったのだ。それも当然の裁きではあるだろう。

 だが、

「当然、牢の警護は厚くしている。口封じに来ることなど分かりきっているからな」

「だが、その警護をすり抜けられ、牢施設内部のものをすべて殺された。・・・・・・明らかに今までとは手口も、何よりも能力が違う」

「ふむ」

「・・・・・・問題なのは、これが陛下を狙ったものである場合、王を呼んだばかりでまだ安定していないテュール異王国内に危険物を持ち込んだことになりかねない、ということで」

「・・・・・・あー」

 そういうことを考えると、

「エリシア守った時に戦ったあの暗殺者って・・・・・・」

「うむ。おそらくそれだな」

 セイヴ達と会った時に戦った暗殺者の群れは、おそらく魔帝国から追ってきたもの、ということになる。

「・・・・・・? 待て、セイヴ。お前あの暗殺者どもが現れたのって、帝都で襲われてからどのくらい時間経ってる?」

「む? 帝都で襲われた翌朝にはバルハベルンに乗って、テュールに入って、その夜には襲われたが・・・・・・、む?」

 セイヴの方でも思い当たることがあるのだろう。

 顎に手を当て、セイヴは考え込みだした。

「セイヴとエリシアはバルハベルンに乗ってテュールに来たんだろ? 飛空艇に乗ったから分かるけど、あの速度に地上しか走れない暗殺者が追いつけるとは思えん。なのに、ほとんどセイヴと同じ速度で移動しているっておかしいだろ。それこそ、飛空艇でも使わんと・・・・・・」

「もともとテュールに潜んでいたものを使った、ということも考えられるが・・・・・・」

 ふむ、とセイヴは考え出すが、

「同時期に城で起こった襲撃騒動もあるしな」

「ついでに言えば、瘤を潰しに出た時はセイヴの方には暗殺者来なかったよな?」

「・・・・・・・・・・・・エリシアを狙ったか」

「可能性だろ? ユキオ狙いだった可能性もあるし、結局全部死んじゃったから、尋問もクソもなかったしな」

 全部炎の怪物になって燃え尽きたと聞いている。

 ついでに言えば、最初の夜に襲撃に来た暗殺者の群れについても、全部死んでしまっている。

「まあ、何はともあれ、やはりこちらから騒動の種を持ち込んでしまった、ということですな」

 ビルバンの締めくくりに、セイヴは難しい顔をしながらも頷いた。

「・・・・・・ふむ」

「そして、陛下がいなくなった直後、そのタイミングを狙うかのように問題が噴出しまして」

「問題とは?」

「・・・・・・ディバリスの森です」

「どこ?」

「地元では迷いの森と呼ばれる難所だ。真龍の座す御山の麓に広がる森でな。魔力の乱れから方向感覚を狂わされる上、多数の魔獣が生息している」

「危険地帯か・・・・・・」

 迷いの森とはファンタジー要素あるなあ、と思う。

「真龍に会うには、その森を越える必要があると」

「なくすことはできん。真龍は地脈の源流。すなわち大規模で濃密な魔力の発生源、ということでもある。そんな密度と量の魔力が流れてくればどうなるか。ディバリスの森は、それを防いでくれている場所だ。下手に手を入れると災害となりかねない場所だからな。立ち入り禁止としている」

 セイヴの説明にビルバンは頷く。

 ビルバンは机の上へと一枚の紙を出した。

 地図だ。

「真龍の座す山を中心とした地図です」

 新たに描き起こしたと思しきその地図の数か所に、バツ印がついている。

 他に、数か所の街道と思しき場所を太く赤いインクで色が引かれている。

「何があった?」

「瘤です。バツ印が付いた箇所で、小規模な瘤が出現し、対応に当たっております」

「巫女衆でなくても大丈夫なのか?」

「小規模なものならば、大丈夫です。はい」

 モリヒトがルイホウに確認するが、ルイホウは厳しい顔をして頷く。

「特に、テュールが持つ地脈関連技術の大元はオルクトですから、小規模なものであるのならば、問題なく対処できるはずですが。はい」

「ええ。実際、瘤の鎮静化には成功していますが、数が異常です」

 瘤、というのは、地脈の異常だ。

 ルイホウから聞いた話では、そうそう頻発するものではないし、

「源流となる真龍に近いところで、これほどの数の瘤が出るのは、異常です。はい」

「そうなのか?」

 モリヒトが疑問を浮かべると、ルイホウは少し考えてから、

「川の流れと同じです。河口付近の水が汚れているならともかく、湧いたばかりの水が濁っている、というのは異常でしょう? はい」

「ああ。なるほど・・・・・・」

 そう言われるとわかる。

 だがそういう意味で言うなら、

「なんだ? またあの人為的な瘤製造か?」

「・・・・・・いや、どうだろうな? それにしては・・・・・・」

 セイヴは地図のバツ印をとん、とん、と指で追う。

「起こっている場所が無作為に過ぎる。・・・・・・さて?」

 セイヴは何事かを考えている。

 ビルバンはさらに赤いラインの方を示し、

「これらの街道において、魔獣の出現、崖崩れなどの道の封鎖などが発生しており、帝国内の流通に影響が出ております」

「・・・・・・・・・・・・これが、俺様がこの国を出てから?」

「は。バルハベルンが飛び去った後に、立て続けに。・・・・・・おかげで、内務も軍務もあわただしくしており、裁可が必要な書類も多く発生しておりまして」

「・・・・・・分かった。これは問題だな」

 しばらく地図を眺め、何かをセイヴは考えていたが、一つ頷いた。

「これですべてか?」

「喫緊のものは」

「わかった」

 そして、ぱん、と手を打った。

「よし。一旦話はここまでだ」

「いいのか?」

「ああ。これらの問題に関する情報をすべて俺様のところに持ってこい。対応を考える」

「は!」

「それと、モリヒトとルイホウも今は客人として滞在してくれ。・・・・・・ルイホウの方には、あとで意見を聞くかもしれんが」

「私の方で協力できることがあるならば、惜しみません。はい」

「助かる」

「ふむ。では俺は大人しくしておこう」

「すまんな。問題がなければ、俺様の方で帝都の案内でもしてやろうかと思っていたんだが」

「気にするな。責任があるやつは、その責任を果たすことを優先しろ。・・・・・・何、問題がいつまでも続くわけでなし。落ち着いてからでいいさ」

「ふ。そうだな。・・・・・・アレト。モリヒトとルイホウを客室へ案内しておけ。それが終わったら、軍務の方の情報を持ってこい」

「はっ!」

 アレトに従って、モリヒトとルイホウは部屋を出る。

 それを見送ったセイヴに、ビルバンはふむ、と唸った。

「・・・・・・それほど長い期間を接したわけではないでしょうに、あのモリヒトという青年と、ずいぶんと仲良くなられたようで」

「おう! 不思議とな」

 セイヴの笑みは明るい。

「ふ、そうですか」

 小さく笑い、ビルバンは机の上の鈴を取って、部下たちを呼び寄せるのだった。

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