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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第2章:魔帝国
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第5話:敵の名は

 豪奢な部屋であった。

 飛空艇の中だ。

 曲りなりにも魔帝国皇帝であるセイヴとその妹であるエリシアを乗せる飛空艇である。

 その内装、特に客室は豪華なものであった。

 全体的に赤を使ったインテリアが多いのは、もはや諦めの境地に達しているモリヒトである。

 一応、落ち着く部屋であることを考慮してか、原色のような派手な色合いではなく、目に優しいレベルにまで色合いは落とされている。

 それでも派手なことには変わりないが。

「・・・・・・こんな部屋で生活してると、派手好きになるんだろうなあ・・・・・・」

 客室でこれだ。

 私室がどうなっているのか、想像にたやすい。

「オルクト魔帝国は、大陸最大国家ですから、客の目に入るところには、威容を示すために大体派手な内装になっています。はい」

「そういうもんか」

「テュール異王国でも、他国のお客様をお迎えする部屋は、比較的豪華にしています。はい」

 比較的、というあたり、テュール異王国で他国からの客がどれだけ少ないかを表している。

 実際、来るのはほとんどがオルクト魔帝国からで、王城に泊まるほどの賓客となるとさらに少数だ。

 普段は空部屋で、賓客が来る時だけ調度を整える仕組みになっている。

「ふむ。くつろいでいるか?」

 ルイホウと二人、のんびりとしていたら、セイヴが扉を開けて入ってきた。

「落ち着かせてもらってる。・・・・・・もう少し大人しい内装でもよかったけどな」

「ふ。気にするな。朝に出たからな。夜には帝都に着く」

「速いな」

「障害物もない。空を飛ぶタイプの魔獣なんぞは、外のバルハベルンがどうにでもしてくれる」

「バルハベルンって名前なのか」

「うむ。国内で暴れていたのを俺様が直々に討伐してな。それからは、俺様のペットというわけだ」

「スケールの大きなことで」

「ふ。褒め称えろ」

「格好いいな。バルハベルン」

「俺様は?」

「大方配下が止めるのも聞かずに勝手に飛び出していったんだろ? 配下に迷惑かけんな」

「んん、納得のいかん評価だ」

 ふん、と鼻息荒く吐き出すが、セイヴの後ろにいるアニータなどは深く頷いている。

「俺様が一番強いしなあ」

「だけどセイヴが前に出るのは、お前に尽くす騎士の恥だろうが。そこらへんは汲み取ってやれよ」

 モリヒトが言えば、セイヴはむう、と腕を組んでうなる。

「やっているとも。・・・・・・仕方がないだろう? バルハベルンの他にも竜がいてなあ。当時の配下は全部そっちに当ててたんだ」

 その言葉だけを聞くともっともらしく聞こえるが、

「・・・・・・どうせ、バルハベルンが一番強いからお前がいの一番に突っかかっていったせいで、他の配下が余りの対処に出るしかなかったんだろうに」

 モリヒトが言えば、セイヴはバツが悪そうな顔でそっぽを向く。

 後ろでは、アニータがもっと言え、という顔をしているのが味わい深い。

「ええい! そういう話はもういい!」

 セイヴは強引に話を打ち切ると、モリヒトへと向き直る。

「少し、話がある」


** ++ **


「ミュグラ教団?」

「そうだ」

 モリヒトの聞き返しに、セイヴは重苦しく頷いた。

「それが、敵?」

「前回の、瘤の発生。それを人為的に後押しした者が所属している組織の名だ」

 セイヴが言うには、モリヒトが腕を切断することとなった例の事件において、瘤を作ることをやっていたのが、その組織に属する男だという。

「俺様が見たのは、ベリガル・アジン、と呼ばれる男だ」

 ふう、とセイヴは、大きく息を吐く。

「本名不明。経歴不明。男。年はおそらく三十か四十。土系統の魔術を好んで使用し、魔術師としての腕前は超一級」

「オルクト、テュールのみならず、この大陸内のいたるところで出没し、被害をまき散らしているテロリストです。はい」

 ルイホウも補足する。

 ルイホウ曰く、ベルガル・アジンの起こす犯罪は、地脈に対して干渉するものが多く、テュール異王国では過去にも数度、『竜殺しの大罪』への妨害にあったり、異王召還の陣の情報を盗まれそうになったり、と被害があったらしい。

 テュール異王国内においても、一級の危険人物扱いであり、指名手配の対象になっているという。

「他のミュグラ教団所属者についても、幹部は大陸全土で共通の指名手配犯となっている。集団自体が危険な組織だ」

 活動資金稼ぎに、暗殺やら諜報、密輸、密売などといった犯罪行為に加担している疑いもあり、捕まれば極刑は免れないだろう、と言われる集団である。

「そんなもんが暗躍してんのか、この世界」

 厄介で危険だな、とモリヒトは思う。

 実際、あの事件では、多少自業自得な面はあるとはいえ、モリヒトは死にかけている。

 そうでなくても、テリエラはあのままなら確実に死んでいた。

 テリエラを捕らえ、瘤を生み出すための触媒として用いたのは、間違いなくそいつだろう。

「面倒だな。教団ってことは、何かを信仰しているのか?」

「・・・・・・そこも面倒なポイントだな」

「もともと、ミュグラ教団は分派なんです。はい」

「分派?」

「もともとは、真龍を信仰し、魔術の研鑽によってより高次の人間になろうという理念の宗教があった。現在では、理念のみが様々な組織に受け継がれて、元となった宗教自体は残っていないが」

「ミュグラ教団も、その一派だと?」

「最も過激な一派、ということだ。やつらの最終目標は、地脈や真龍といった、この世界の理を解き明かすことであり、あるいは、その研究の果てに真龍と同化、あるいは、同等の存在へと至ろうとしていること、らしい。捕縛した所属員から得た情報だが」

 聞いたところによれば、この世界には真龍の影響が全世界レベルで及んでいるため、行動すればするほどに何かしら真龍の影響が蓄積する。

 魔術的なものだけではなく、技術的な鍛錬や、知識を得るための学習ですら、そういった影響からは逃れえないものらしい。

「・・・・・・? 具体的には?」

「成長してからはそうでもないのですが、成長期にある場合、これらの鍛錬の質によって、魔力の属性適性などに差異が出てくると言われています。はい」

「相関関係の調査研究は行われているが、芳しい結果は出ていない。俗説なら大量にあるが、根拠はなしだ」

 体を鍛えていると火属性の適性が上がるとか、青の真龍のいる土地の出身者には水属性が多い、などだ。

 だが実際、調べてみると有意なデータは取れていないらしい。

「・・・・・・何かしら、魔術的に影響があるのは確かだが、規則性は見つかっていない。未だ見つからぬ法則があるか、もしくは完全に再現性のない奇跡なのか」

 研究者たちにとっては、古くからあるテーマであり、解き明かすことができれば人類は一つ上のステージに上がることができると言われる。

「そして、ミュグラ教団の連中は、そういう分野において、常人にはできない実験を繰り返している、というわけだ」

 地脈への干渉、瘤の作成。

 今回に至っては、テュール全域への地震被害を引き起こしている。

 瘤の鎮静が遅かった場合、被害はもっと広がっていた可能性もあるどころか、『竜殺しの大祭』への影響も出て、最悪テュール異王国が沈んでいた可能性もある。

 それだけのことを、実験のために行うのがミュグラ教団という連中だと、そういうことらしい。

「まあ、とにかく、だ」

「うん?」

 セイヴが話を区切った。

「オルクトには黒の真龍がいる。俺様としては今回、モリヒトをそこまで連れて行ってやってもいい、と思っているが・・・・・・」

「セイヴ様。それは・・・・・・」

 セイヴの言うことに、ルイホウは渋い顔をした。

「ルイホウの懸念は分かる」

 ルイホウが渋っている理由について、モリヒトはふと思いいたる。

「昨日言ってたな? 地脈に溶けるとかなんとか・・・・・・」

「滅多に起こることではないが・・・・・・。モリヒトはやらかしそうな気がする」

「なんでだ」

「カン」

 答えになってねえだろ、と思いつつも、モリヒトは肩をすくめるに留まるのだった。

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