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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第2章:魔帝国
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第3話:出発準備

 行くか、と決めれば、後の行動は早い。

 準備作業といっても、持ち歩かなければならないような荷物はない。

 発動体の短剣『ブレイス』、あとは、セイヴにもらった赤い双剣『レッドジャック』。

 あとは、適当に着替えとか。

「・・・・・・ふむ?」

 やっぱり、持って行くべき荷物は少ない。

 他に私物がないわけでもないが、

「別に、置いていったっていいよな」

 行きっぱなしで帰ってこない、ということもないだろう。

 適当にまとめて、ウリン辺りに頼んでおけば、適当に保存しておいてくれるだろうし。

 となると、意外と暇になる。

 あとでセイヴ達が呼びに来ることになっているし、それに合わせて移動だ。

 それまでは、暇である。

 というわけで、取り出したブレイスとレッドジャックを磨くことにする。

「なあなあ、ルイホウ」

「はい。何でしょうか? はい」

 剣を磨く自分を見つつ、茶を飲みだしたルイホウに声をかける。

 ちなみに、ルイホウの方は、もう準備は終わっているらしい。

 モリヒトと同じで、数日分の着替えぐらいしか持ち込むものはない、ということだ。

 だから、二人分の荷物を並べ、今はモリヒトはルイホウと一緒にいた。

 無言でいるのもなんだから、とモリヒトはルイホウへと声をかける。

「白い真龍って、いる?」

 あの地脈の流れの中で見たものは、まだ伝えていない。

 伝えようと思っても、なぜか言葉が出てこないのだ。

 説明するための『何か』が、足りない。

 そういうもどかしさが、言葉を止めてしまう。

 ただ、悪いものの感じはしない。

「・・・・・・。いえ、真龍に、白いものは、いなかったかと思います。はい」

「そうなのか? 昔はいた、とかないのか?」

 黒いのがいるんだし、白いのがいてもいいと思うのだが、ルイホウははっきりと首を横に振った。

「存在として、ありえないと思います。はい」

「あ? 存在レベルで否定するもんなのか?」

「ええ。真龍は、魔力の源泉であり、象徴です。はい」

 魔力、というものは、世界に満ちるものであり、世界の全てを象徴するものだ。

 そして、魔力には属性がある。

 魔力自体は、どんな性質にも染まるものだが、それでも土地や持つ人によって、発動しやすい性質、というものはあるらしい。

 実際、海の上だと火を出すのは困難になり、逆に荒野などで水を使うのは難しくなるという。

 ルイホウも、主に魔術として水を使うが、これは発動体の属性もあるが、それ以上にルイホウが水が一番使いやすいから、ということらしい。

 これは、地脈にも当てはまる。

 テュール異王国の地下に流れる地脈は、世界各地の終端に近いため、ほぼすべての属性が流れている。

 一番濃いのは、一番近いオルクトの黒の真龍のものらしいが、すべての属性を塗りつぶすほどではない。

 ともあれ、言いたいこととしては、

「真龍も属性を持っている、ということです。はい」

 この世界にある全てのものは、魔力の属性に分解できる、という。

 そして、それらの属性は、何かの色を持つという。

「つまり、白に当てはまる属性はない、と?」

「はい。白色は、無属性。存在する虚無とは矛盾を孕みますから。はい」

 ああ、と頷きはするが、

「でも、あるんだろう?」

「ないですよ。はい」

 上手く伝えられないねえ、と内心で苦笑する。

 勝手にマモリと名付けたあの白いものは、おそらく真龍か、それに類する何かだ。

 あるいは、ウェキアスとかの女神の種の関連かもしれない。

「結局のところ、魔帝国に行かないとなんともいえない、か」

 何か、面白いことが起こりそうな気はする。

 しかし、と磨いた刃を眺めてみる。

「どうにかこうにか、やっていけるものだ」

「何のことでしょうか? はい」

「ん? 魔術とか、その他もろもろとか? ここは、異世界だっていうのに、それほど苦労をしていないな、と」

 ああ、と首を振って、

「ルイホウたちが、かなり気を遣ってくれているのは分かっているぞ? ただ、それとは別に、結構やれるなあ、と思うわけよ」

 うん、と頷く。

「剣なんぞ、握ったことはない、と思うんだけどなあ・・・・・・」

 首を傾げる。

「・・・・・・妙に、しっくり来る」

 はて、と思う。

 セイヴには、剣の才能はない、と言い切られているが、うまく使えるかは別にして、なんとなく剣を握っていることには、あまり違和感を感じていない。

「・・・・・・ま、悪いことではないか」

 気にしないことにして、剣を磨く作業に戻るのだった。


** ++ **


「まあ、モリヒト様が来られるんですの?」

 エリシアの喜色を多く含んだ声が上がる。

 それを聞いて、セイヴはモリヒトを誘ったことに間違いはなかった、と頷く。

 セイヴ、エリシア、リズにあてられた、テュール異王国の王城にある賓客用の客室だ。

 テュール異王国の色を持ちながらも、オルクト魔帝国から輸入したと思しき調度をバランスよく配置されている。

 セイヴ達が、オルクト魔帝国からの客人ということで、それに合わせた調度品を設置をしたのだろう。

 事前にアポなしで来た場合でも、きちんと対応してくれるあたり、テュール異王国の王城勤めの侍従たちの能力の高さがうかがえる。

「そうだ。とりあえず、いくつかやるべきはあるがな」

 エリシアの頭を撫でてやりながら、セイヴはにやりと笑って応える。

「あえて言います・・・・・・。どちらへお連れするのですか?」

 リズが茶を淹れながら発した問いに、セイヴはうむ、と一つ頷いた。

「とりあえず、国内の魔術研究所だな。ルイホウ、という巫女も同行することになっているし、少々意見交換だ」

「意見交換、ですの?」

「モリヒトは守護者ではなく、巻き込まれの召喚者だ。巻き込まれ、など、この国の歴史をひも解いても前例がない。・・・・・・その調査をしたいらしいが、テュール側ではこれ以上の調査は難しいらしい」

「あえて言います・・・・・・。召喚に関しては、テュール異王国の方が詳しいですが」

「実績もあるしな。ただ、召喚に関して最も古い原版はオルクトの方にある。そちらの調査もしたいらしい」

「お客様なら、たくさんおもてなししませんと!」

 エリシアがテンション高く喜んでいる。

「・・・・・・お客様は、モリヒト様と、ルイホウ様と・・・・・・」

「いや、その二人だけだ。他の面々は守護者だからな。うかつに外には出られん」

 セイヴが言うと、エリシアはセイヴを見上げて、わずかに沈んだ声を出す。

「そうなんですの・・・・・・?」

 アヤカも連れていけないか、と考えていたんだろう。

「今回はな」

「そうですの」

 エリシアとしては、せっかくできた同年代の友人と離れることになる。

 それが寂しいのだろう。

 セイヴとしてはうれしくもある。

「ふ、まあ、いずれ招く機会もあるだろう。その時を楽しみにしておくといい」

「はいですの!」


** ++ **


「結局行くんだ・・・・・・」

 ユキオは、ライリンを通じてルイホウから挙げられたモリヒトの行動予定にため息を吐く。

 執務室で、いろいろな書類の処理をしている間に、そっと差し込まれた書類だった。

 ふと目を止め、なんとなく呟いたものだった。

「止めますか?」

「いいわ。理由がないし。・・・・・・それに、モリヒトがこちらに巻き込まれ召喚した理由を探るにも、一度くらいは行った方がいいんでしょう?」

「そうですね。召喚に関することでしたら、テュール異王国の方が知識は多いでしょうが、魔術に関することでしたら、オルクト魔帝国の方が上です。・・・・・・ルイホウもついていくので、もしかすれば何かわかるかもしれませんし」

 ライリンの言葉に、ユキオも頷く。

「まあ、私はいけないし? 代わりに行ってもらおうかな、と」

「モリヒト様でよろしいので?」

 ユキオは苦笑して頷いた。

「公式なのは、私の戴冠が終わってからにします。守護者の皆を連れて、ね」

「それがよろしいかと」

「セイヴの方も公式に来てるわけじゃないし。ちょっと先に観光してきてもらいましょう」

「観光、ですか・・・・・・」

 ライリンは何か言いたそうだが、ユキオは笑って頷く。

「別に何か起こるってこともないでしょ?」

 傍でモリヒトが見たら突っ込んだかもしれない。

 盛大にフラグだぞ、と。

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